大手SIerのITホールディングス(ITHD、岡本晋社長)は、中国でのITアウトソーシングサービスの拡大を急ぐ。ITHDグループは、中国の主要都市に事業会社を置いており、拠点同士のサービス商材の連携を強化することでビジネスを伸ばす。とりわけ、アウトソーシングやクラウド/SaaS案件は、天津に今年新設した自社運営のデータセンター(DC)に集約。現地事業会社でITシステムの設計・開発を手がけ、その後は天津DCで運用するビジネスモデルを発展させる考えだ。
中国に進出している主な事業会社は、天津DCを運営するTIS、インテック、ソラン、クオリカの4社。北京と西安などに事業拠点をもつソランが今年4月、ITHDグループに加わったことで、中国でのグループとしての営業カバー範囲が一気に広がった。拠点単独の“点”ではなく、拠点網を相互連携させた“面”で捉え、事業拡大を狙う。
ITシステムのライフサイクルの観点からみても、天津DCの活用により、開発から運用まで一貫して手がけられるようになった。ITHDグループがもつ30種類余りのクラウド/SaaSサービス商材も展開可能だ。また、中国では企業が使う業務システムだけでなく、ネットゲームやネット通販でサービスで使う情報システム需要が急増。折しも、これまで難しかった外資系企業によるネットサービスの規制緩和も進み、中国国内外からの新規参入が活発化している。ITHDグループは、日本で培ったノウハウを武器に、「コンサルティングや設計、開発、運用まで一貫して手がける」(ITHDの渡辺千尋・執行役員国際部長)ことで差異化を図る。
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ITHD 渡辺千尋・執行役員 |
中国は有害情報を遮断するファイアウォールが設置されているとされ、国境を越えるインターネット通信に遅延が発生する傾向がみられる。ある日系SIerの調べによれば、時間帯によって25%余りのパケットロスが発生。だが、中国国内にDCを設置すれば、こうした遅延はみられず、快適に利用できる。大手コンピュータメーカーや外資系SIerも中国でのDC開設を進めており、今後競争が激化するのは必至だ。ITHDはグループの総力を挙げて、先行者利益の最大化に努める。
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TIS 安宅尚司 統括マネージャー |
使い勝手がよく、高品質なDCを求める顧客企業から「すでに多くの引き合いが来ている」(TISでグローバルビジネスを推進する安宅尚司・統括マネージャー)といい、ITHDグループ全体で優良案件の成約に向けて力を合わせる。2009年の中国情報サービス市場は、前年比25.6%増の9513億元(約12兆4000億円、中国ソフトウェア産業協会調べ)に拡大。経済発展に伴って今年も同等以上の伸びが期待されており、こうした需要をどこまで掴めるかが、ITHDグループの海外ビジネス成否のカギを握る。(安藤章司)