「スマートシティ」を早期に商品化
――もう一つの注力領域は、「エネルギー」である、と。ICT(情報通信技術)を活用して、エネルギー使用の効率化を図る「スマートシティ」のことですね。
遠藤 そうです。当社は、バッテリをはじめとしたハードウェア、ICTソリューションと、スマートシティの実現に必要なパーツをすべてもっています。スマートシティ関連のプレーヤーのなかで、独自のポジションにいるのです。多様なエネルギー源を使ったスマートなネットワークで電力供給の不安定感をなくすために、電力不足を補うバッテリが必要不可欠。ですので、性能がすぐれているバッテリを開発・保有しているということは、他ベンダーとの差異化を図るための当社の大きな強みです。
スマートシティは、とくに海外で勢いよく普及が進んでいます。NECは、中国やブラジルでスマートシティの実証実験プロジェクトに参画しており、ビジネス化を推進しているところです。2012年、しっかりとした商品化に取り組み、スマートシティを事業拡大の一つの柱にしていきたい。また、「エネルギー」を切り口として、東北地方の復興に貢献することを新年の方針に掲げています。
――クラウドとエネルギー関連の事業を強化するにあたって、解決しなければならない課題は何でしょうか。
遠藤 中小企業向けにクラウドを提供するのと、中堅・大手企業向けにクラウドを展開するのでは、商品自体やその提供の方法を変える必要があります。当社は、クラウドの商品群のあり方や販売のあり方に関して、まだ徹底できていない部分があるので、2012年はその点の改善を図りたい。
――今、話題になっている「ビッグデータ」のビジネスチャンスについては、いかがお考えでしょうか。
遠藤 「ビッグデータ」は間違いなくIT市場を活性化するポテンシャルをもっていると考えています。例えば、店のショーウィンドーを見ているお客様の目線をセンサで測り、ITシステムがリアルタイムでその情報を分析して、お客様はどんな商品に興味があるかを予測する。いろいろな活用シーンが想像できます。ビッグデータの分析・活用ソリューションの背景にクラウド技術があることから、ビッグデータがクラウドの需要拡大に直結します。NECは、ビッグデータの分析・活用に必要なインフラを構築する商材が揃っているので、今後、注力してビジネスチャンスにつなげたい。
――2011年、IT業界で大きな注目を浴びたのは、御社とレノボのパソコン事業の連合でした。新持ち株会社「Lenovo NEC Holdings」の設立からおよそ半年が経ちましたが、パソコン展開の強化は順調に進んでいるでしょうか。
遠藤 予定通り、うまくいっています。当社は海外でのパソコン事業から撤退し、日本市場に集中してパソコンを販売していました。しかし、絶対物量に関して日本市場には限界があったので、物量の拡大を目指してレノボとの連合に着眼しました。ここにきて、販売台数に関してすでにいい結果が出ており、市場で強いポジションを得ることができたとみています。
・お気に入りのビジネスツール NEC製のスマートフォン「MEDIAS」。遠藤社長にとって、ビジネス活動に欠かせない便利なツールだ。シルバーのきょう体に、NECがシステム開発に携わった小惑星探査機「はやぶさ」をモチーフにしたストラップをつけて、おしゃれに使っている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
インタビューの最後に遠藤社長が語った、NECとレノボのパソコン事業連合による「いい結果」は、調査会社IDC Japanのデータで裏づけられている。7月4日に発足した「Lenovo NEC Holdings」は、2011年第3四半期(7~9月)の国内パソコン出荷台数に関して、「国内で初めて単独で四半期の出荷台数が100万台を超え、105万台に達した」(IDC Japan)という。NECとレノボのパソコン事業連合について、IT業界でさまざまな見解があるだろうが、すでに成果が出始めている。
今後、NECが力を入れるのは、スマートシティ。国内のスマートシティは「事業化はまだ先」というイメージが強いが、東北地方の復興や関東・関西地区における節電など、スマートシティの普及を後押しする市場環境が整いつつある。日本IBMなど、強い競合プレーヤーが存在しているが、NECはスマートシティを切り口として、新しいビジネス領域を開拓することに全力で取り組む姿勢をみせている。(独)
プロフィール
遠藤 信博
遠藤 信博(えんどう のぶひろ)
1953年11月生まれ、58歳。1981年3月、東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了、工学博士。同年4月にNECに入社。2003年4月にモバイルワイヤレス事業部長、05年7月、モバイルネットワーク事業本部副事業本部長。06年4月、執行役員兼モバイルネットワーク事業本部長、09年4月に執行役員常務に就任。同年6月、取締役執行役員常務を経て、10年4月に代表取締役執行役員社長に就任、現在に至る。