正式発表からおよそ6か月が経過した2011年7月1日、レノボとNECの共同出資によるパソコン会社「Lenovo NEC Holdings,B.V」が予定通り設立された。レノボの日本法人であるレノボ・ジャパンと、NECのパソコン新会社であるNECパーソナルコンピュータを傘下に収める異色のパソコン事業連合体が誕生したことになる。Lenovo NEC Holdings,B.Vのロードリック・ラピン会長(レノボ・ジャパン社長)と高須英世社長(NECパーソナルコンピュータ社長)は、7月4日に開催した報道関係者向け記者会見の直後、本紙編集部が企画した対談に応じた。(取材・文/木村剛士)
ラピン会長と高須社長、熱く語る
 | 良好な関係を築くことができた。(協業を発表した)1月以上に相乗効果を発揮できると確信している――ラピン |
| レノボの成長意欲はすごい。やることはたくさんあるが、楽しみなことばかりだ――高須 |  |
「オープンマインド」で臨んだ議論
――持ち株会社を設立し、傘下にレノボとNECそれぞれの事業会社を傘下に配置する体制を発表してから約半年が経ちました。順調ですか? 高須 120%、といったところです。
ラピン 私も同じ意見で、準備は万端。高須さんと私が、とても良好なパートナー関係を築くことができましたし、レノボとNECによる合同会議では、非常によい話合いができているので、まずはこの先3~6か月に具体的なシナジー(相乗効果)を出せると確信しています。
高須 この半年間、お互いが理解しあうことにかなりの時間を割いてきました。レノボは、グローバルルールを押しつけるのではなく、NECの考え方を尊重してくれましたし、NECもオープンマインドで話合いに臨んできました。だから、100%以上の成果を出せたと感じています。
――協業を発表した2011年1月の段階では気づかなかったお互いの特徴があったと推測しています。改めて今、それぞれをどうみていますか? ラピン 1月以上に期待が高まっています。NECのもつ日本のユーザーニーズを満たす豊富な技術、パートナーとの良好な関係、米沢事業場(山形県米沢市にあるパソコン開発・生産拠点)の力。それらをこの半年で深く理解することができ、改めてNECの強さを感じました。
高須 およそ30年間、パソコンをやっていますが、これほどまでに「パソコン事業を伸ばすんだ」という強い気持ちと、成長に向けた強い自信を感じたのは初めてですね。
――レノボが抱く自信は、NEC以上ですか? 高須 NECは国内市場だけのビジネスで、しかもNo.1を取り続けていますからね。グローバルで戦うレノボのパワーはすごい。そのエネルギーが国内にマイナスになることは一切ないでしょう。
――今回の協業について、ユーザーとパートナー企業に対して、何度かアンケート調査を実施したと聞きました。印象的な結果を教えてください。 ラピン マイナスの意見がもっと多いと思ったのですが、予想に反してかなりポジティブな意見が多かったことですね。ポジティブな意見や期待をもってくれている人が半年で増えていることも大変印象深いです。
高須 実は、今回の協業を決める前、NEC社内では、不安を口にする人が非常に多かったんです。協業を発表した直後のアンケートでは、10%くらいの人が「期待している」と回答してくれていました。それが非常に心強かった。
従業員の理解が今後のカギ
――この半年、進めてきた統合施策を教えてください。 ラピン 「PMM」と呼ぶNECとレノボによる合同会議を、毎週火曜日に開き、毎回3~4時間議論してきました。公正取引委員会の規制を超えない範囲内で、お互いの理解を深め、シナジーを追求してきました。例えば、NECの技術をきちんと届けられていない市場があるので、そこにアプローチする策や、間接部門の連携など。サービス水準を向上させるための今後の投資計画なども話し合ってきました。
――公正取引委員会の承認もようやくおりて、これからが具体的な相乗効果を出すための施策について議論が本格化すると思います。 ラピン まず最初に取り組みたいのが、お互いの従業員が理解しあうようにすること。今後は細かな情報の共有が可能になりますので、それぞれを学ぶ環境をつくることが重要です。
一つ例を挙げると、今年9月にサンフランシスコで、レノボの幹部90人が集まる幹部会議があるのですが、そこに高須さんに参加してもらいたいと考えています。この会議では、レノボが新興市場ではどのような戦略を立てているのか、米国ではどんな戦略を推進しているのか、グローバル全体の経営戦略などについて情報を共有しますので、高須さんに参加してもらうことで、レノボの戦略をNECに生かしてもらう材料にしてもらえればと……。
その一方で、レノボの担当者も日本に呼んで、NECから多くのことを学ばせたいと思っています。
――高須さんはどう考えていますか? 高須 この半年間で非常に良好な関係を築くことができたと感じています。ただ、それはごくわずかな人間に限られているんです。ですので、これからは従業員一人ひとりにレノボとNECの協調関係について深く理解してもらう必要があります。ロッド(ラピン)も私も、まだまだ働かなければなりませんね(笑)。
そして、ようやく細かな情報を共有できるようになったので、シナジーを出せる部分を明確にして、しっかりと実績を出すことです。もう一つが、長期スパンで日本での成長戦略を考えて、実行プランをつくっていきたい。やるべきことはたくさんありますが、楽しいことばかりですよ。
――高須さんは、国内パソコン市場でのシェアを「3年後に30%」と公言しています。そこに向けた戦略、道筋はもうみえている、と? 高須 いや、そうでもないですよ。30%と言ってしまいましたけど、ライバルがじーっと止まってくれてるわけではありませんから、決して楽ではありません。これから立案しなければならない計画もまだあります。
NECのパソコン 再び世界へ
――今回の協業によって、最もシナジーが出やすい部分として、部材の共同調達によるコスト削減があるはずです。とくにNECにとっては、大きなメリットがあると思います。 高須 まったく同じ部材というのは、実は意外に少ないんですよ。ただ、違う部品でも同じサプライヤーから調達しているケースがあるので、いろいろなやり方を模索していきます。いずれにしてもこれからですね。
ラピン 部材については三つに分けられると思います。一つはレノボとNECが共通の部材を活用しているケース。これについては、協業効果を発揮できると思っています。二つ目が、同じ部品をまったく使っていないケース。この場合はシナジーは期待できません。そして最後が、同じサプライヤーから調達しているものの、微妙にスペックが違うケース。これは、今後どのようなやり方でシナジーを出せるか検討していきます。
――ラピンさんの発言にあった3パターンで、共通化できるのは何%くらいですか? ラピン まだそこまでの情報は入ってきていません。公正取引委員会の承認がおりるまではなかなか共有できなかった部分ですので、今後、私に報告が入ってくると思います。
――製品開発面での連携について、例えば今後レノボとNECのデュアルブランド製品が登場する可能性はありますか? ラピン 「まったくない」とはいえません。ですが、当面はお互いのブランドを、レノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータがそれぞれ展開することになります。
高須 ニーズがあればやる。なければやりません。
――今回の協業は、NECのパソコンが世界に再び打って出るきっかけになりますか。 高須 NEC全体の戦略を僕の立場で話すことはできないのですが、企業向けパソコンについては、グローバル展開をもう一度やろうという意思決定がなされています。ただ、コンシューマについて可能性はありません。
ラピン つけ加えさせてもらうと、NECの技術は素晴らしいですから、そのテクノロジーを使ったレノボブランドのパソコンを、海外のコンシューマ市場で販売する可能性はあります。
――「国内市場で3年後に30%のシェア確保」という目標を高須さんは公言しておられます。ラピンさんはレノボの世界シェアを今回の協業でどこまで高められると思っていますか? ラピン 調査会社のIDCによると、レノボの前期シェアは10.2%でした。今回のNECの提携で0.8%上がるので11.0%になります。加えて、ドイツのメディオンを買収したので、あくまでも私の個人的な見解ですが、これによって0.4~0.5%アップすると思います。ただ、当然ながらこれで満足しているわけではありません。具体的な数字は言えませんが、今以上に競合ベンダーにプレッシャーをかけていきます。
<プロフィール>
ロードリック・ラピン氏
1996年、米デルに入社。アジア太平洋地区や日本、オーストラリアでグローバル・セールスやリレーションシップ・セールス、教育・官公庁向け事業を担当。07年2月にレノボに移籍。レノボ・シンガポールで、日本を含むアジア太平洋地区の直販とマーケティング担当の副社長を務める。08年10月1日、レノボ・ジャパンの代表取締役社長に就任。11年7月1日からLenovo NEC Holdings,B.Vの会長を兼務。
高須英世氏
1971年、NEC入社。00年4月、NECソリューションズ第一パーソナル事業本部コマーシャルPC事業部長。01年10月、NECカスタマックス取締役常務就任。03年7月、NECパーソナルプロダクツ取締役常務就任。05年4月、NECパーソナルプロダクツ代表取締役執行役員専務就任。06年4月、代表取締役執行役員社長就任。11年7月1日からLenovo NEC Holdings,B.Vの社長を兼務。