ほぼゼロの海外事業、3年で150億円を目指す
──統合の効果は、技術の集約にとどまりますか? 3~5年先を見据えて、富士通システムズ・イーストが進む道を教えてください。 石川 今年後半から中期経営計画の作成を始めるので、具体策はこれからですが、絶対に伸ばさなければならないと感じているのが、海外でのビジネスです。3年後には、全売上高を1500億円に引き上げる計画を立てるつもりですが、そのなかの10%、つまり150億円を海外で獲得しようと思っています。
──現在の海外売上高はいくらですか。 石川 ほぼゼロです。
──ゼロから3年で150億円とは強気ですね。「絶対」という言葉に強い意気込みを感じます。石川社長が海外を重視される理由を教えてください。 石川 私どもの顧客のなかに、海外進出を果たしている企業が非常に増えてきて、「海外拠点のシステムも面倒をみてほしい」という要望を、たくさんいただいているからです。それと、富士通で海外事業を担当している時、成長国の経済発展を肌で感じてきたこともあります。
残念ながら、日本経済が今後、大きく成長することはないでしょう。とはいっても、国内に力を入れないわけではありません。担当地域のお客さんに対して、これまで以上に高品質のサービスを提供し続け、長くおつき合いしてもらえるパートナーを目指します。東日本を担当する立場として、東日本大震災からの復興支援活動も重要です。ただ、海外に目を向けなければ、5年先はかなり厳しい状況が待っているという気がしてなりません。きっと、会社と社員が苦労します。だからこそ、準備も含めて、海外事業は今、一気に立ち上げなければならないのです。
──主にターゲットにしている地域はどこですか。 石川 アジアです。
──中国ですか。 石川 魅力的なマーケットです。ただ、知的財産をしっかりと守る状況をつくることができれば、の話ですがね。中国以外にもインドネシアとタイは元気がいいな、という印象をもっています。
──海外を攻略するための商品と組織づくり、人材育成をどう進めますか。 石川 まずは、日本企業の海外拠点が対象になりますから、日本と同様のITサービスを提供することに力を入れます。ただ、それだけでは150億円は不可能でしょう。現地資本の企業にも受け入れられる強みをもたないといけません。
──現地資本の企業向けビジネスは、海外進出した日本のITベンダーが共通して強化点に置いている分野ですが、なかなか簡単にはいかないようです。 石川 われわれの技術力と、ユーザー企業の業務を把握したうえでつくったソリューションには、自信があります。日本発のソリューションを、世界の現地資本の企業に販売したい。富士通グループの海外ビジネスはハードウェアが多いので、私たちはソフト・ITサービス事業で海外で存在感を示したい。
そのためには、日本のスタッフだけではダメです。海外の事情を知っていて、円滑にコミュニケーションをとるには、その国の現地スタッフが必要になるでしょう。海外事業を伸ばすためには、外国人の採用は必須です。先ほど、3年後の海外事業の目標売上高を150億円と言いましたが、その頃に外国人スタッフは200人くらい雇用しているというイメージです。
・お気に入りのビジネスツール 「愛用のビジネスグッズを用意してください」というリクエストに、石川社長が用意してくれたのは、意外にも歩数計だ。「いい仕事をするには体調管理が一番重要」。3~4年前から持ち歩き、写真の品は3代目という。朝のウォーキングを日課にしており、「毎日2万歩が目標」とか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
記者は、富士通システムズ・イーストの取材を、母体である富士通システムソリューションズから数えれば10年ほど前に始めた。社長は石川さんで3人目だが、これほど海外事業に強い思いを表明したトップは初めてだ。正直にいえば、今回のインタビューを行う前に、4社合併の新会社が生まれたとはいえ、着任まだ間もないトップからは、新たな方針は出てこないだろうと思っていた。事業基盤を再整理して、富士通の傘下で効率的に高品質のソフトを開発する──。経営の常道ともいえるコメントが語られるのではないかと推測していた。確かに、石川社長はそれに類することに触れてはいたが、それ以上に突っ込んで語ってくれたのは海外事業だった。
ほぼゼロからスタートする富士通システムズ・イーストの海外事業。どこまでのことができるのかは未知数だが、トップの思いは相当強い、ということがひしひしと伝わってきた。「5年後に会社と社員が苦労する」という言葉に、記者はそう感じた。(釣)
プロフィール
石川 享
石川 享(いしかわ すすむ)
1956年3月21日生まれ。77年3月、バージニア州立工科大学コンピュータサイエンス科卒業後、同年4月に富士通入社。02年、ソリューション事業本部プロジェクト統括部長(住基ネット・事業企画担当)。06年、経営執行役(兼)自治体ソリューション事業本部長。10年、執行役員常務(兼)公共ソリューションビジネスグループ長。11年、執行役員常務(兼)グローバルビジネス推進グループ長(兼)公共・地域ソリューションビジネスグループ副グループ長(行政ソリューション担当)。2012年4月1日、富士通システムズ・イーストに移り、代表取締役社長に就任。富士通の顧問も務める。
会社紹介
富士通システムズ・イーストは、東日本地域にある富士通グループのソフト開発会社(SE会社)4社が、2012年4月1日に経営統合して誕生した。母体は、富士通システムソリューションズ(Fsol)。ソフト開発のほか、SIとシステム運用サービスも手がける。従業員数は約4500人。富士通グループ会社のなかで最多のSEがいる。資本金は5億円で富士通の100%出資。昨年度(12年3月期)の売上高は1214億円。