「業者選定リストから外される」可能性も
──欧米市場には、1980年代にも、主に邦銀を中心とするユーザー企業に追随するかたちで多くの日系SIerが進出したことがあります。御社もニューヨーク法人を1989年に、ロンドン法人を90年に設立しておられます。以来、20年余りが経ちますが、海外売上高が伸びたという話は、あまり聞きません。 酒匂 80年代の情報サービスは、まだ輸出型でした。つまり、日本人が受注して、日本人がつくる。当時はまだ為替相場が1ドル150円とか170円とかの時代でしたし、サプライチェーンも今ほどボーダレス化していませんでした。しかし、その後、円高が進み、日本人による労働集約型の労働による採算が合わなくなるのと軌を一にして、中国やASEAN諸国、インドといった新興国がグローバル経済の表舞台で活躍するようになりました。今後、円安に振れることがあっても、80年代の輸出型モデルはすでに通用しなくなっているとみるべきでしょう。古いモデルのままで海外で売り上げが伸びるわけはありません。
──グローバルデリバリーモデルを指向することによって、どのような成果が上がっていますか。 酒匂 先ほどもお話ししたように、当社の強みとする領域は金融と医薬ですが、この領域はグローバルデリバリーを実行できなければ、RFPの段階で業者選定リストから外されてしまう恐れさえあります。
医薬に関しては、BPO事業の一環として医薬品開発支援業務(CRO)が挙げられます。当社はCROをインドで手がけていて、メンバーは医師や薬剤師といった専門的な資格と知識をもつスタッフを中心に構成しています。医薬品として承認されるまでには、どの国でも多くの手続きや段階を踏まなければならず、これには途方もない時間と労力を必要とします。そこで、製薬メーカーが効率よく迅速に新薬を生み出すことができるように、当社がBPO方式でこうした医薬品承認に向けた業務を代行し、サポートしているのです。インド法人は2010年に立ち上げたばかりですので、売り上げとしてはまだこれからですが、海外リソースを存分に活用し、しかも高度な専門知識が必要なBPOを中心に拡大を図っていこうと考えています。
また、インドのiGATEと一緒に、つい先日もニューヨークで顧客向けの共同セミナーを開催しました。BPOは、ある業務工程をそのまま請け負うかたちになりますので、ユーザー企業はその部門の人員数を大幅に削減できます。日系企業は抵抗感をもつ傾向がまだみられるのですが、欧米系のユーザーにはBPOが受け入れられやすい面があります。
専門知識による知的創造を基軸に
──お話をうかがうと、日欧米で受注して、作業的な工程はアジアで行うというイメージがありますが、アジアの成長市場へ進出するという側面ではどうでしょうか。 酒匂 アジア市場は、シンガポールを含めて検討している段階です。製造やBPO拠点については、すでに中国やインドに展開済みですが、マーケットという観点に立てば、中国が圧倒的に大きく、その次にシンガポールを中心とするASEAN地域ということになろうかと思います。とはいえ、中国の存在感が圧倒的に大きいようにも思いますし、しかし、当社が得意とする金融や医薬という分野での受注可能性の高さという点でみると、シンガポールを中心とするASEAN地域だったりします。
──日中の政治摩擦はいっこうに改善の兆しがみえませんが、ビジネス面への影響はいかがでしょうか。 酒匂 当社は自動車とか家電のメーカーや小売りなどの顧客が多くありませんので、直接的な影響はありません。ただ、日中関係全体でみれば、昨今の政治摩擦の激化によってプラスになるような要素は一つもないわけで、懸念されるところです。中国の蘇州では200人ほどの体制でオフショア開発やBPOを手がけていますが、これを最終的には700人に増やし、収容できる新社屋の建設もすでに決めています。2013年春に着工する予定で、グローバルデリバリーモデルの基盤を一段と強化していきます。
──中期的な海外売り上げはどれほどになりそうですか。また将来目指すべき姿についても聞かせてください。 酒匂 グローバルITサポートを前提とした案件は多いのですが、純粋な外貨売り上げはまだそれほど多くありません。グローバルデリバリーモデルの整備も着々と進んでいますので、早い段階で外貨売上高を40億~50億円規模にもっていきたいと考えています。
将来目指す姿ですが、本来、情報サービス業は知識集約型による知的創造を基軸とすべきなのですが、ややもすると労働集約的になる傾向がみられます。当社本体はもちろん、オフショア開発や海外BPOといったグローバルデリバリーモデル全体で、得意業種の専門知識を前面に押し出していくことで、付加価値の高いビジネスを創りあげていくつもりです。
・FAVORITE TOOL 編み目が特徴的な「Bottega Veneta(ボッテガ・ヴェネタ)」の名刺入れ。2011年、社長に就いたとき、大学の仲のいい同級生らがお金を出し合って贈ってくれた。「憧れのブランドだが、目が飛び出るほど高い。一人あたりの負担額を考えると申し訳ないが、でも、うれしくて、大切に使っている」と話す。
眼光紙背 ~取材を終えて~
シーエーシー(CAC)は、2016年に設立50周年を迎えるのを前にして「ReBirth!(生まれ変わる)」という標語を策定した。酒匂明彦社長は、「国内市場の成熟度が増すなかで、従来型の受託ソフト開発だけでは成長できない」として、ビジネス構造の本質的な変革を遂行するという意志を「ReBirth!」に込めている。
金融や医薬などの得意分野を伸ばして、グローバルデリバリーモデルを実践する。業績面ではグローバルITサポート体制への投資効果も相まって、医薬などの主力とする分野での売り上げが増えているのに加え、BPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)をはじめとする安定収益源の拡大にも一定の成果を上げてきた。
客先常駐型のモデルが依然として多い情報サービス業界だが、世界に展開した経営リソースの最適な活用や業種ノウハウに裏打ちされた高度な専門知識を活用して、「ビジネススタイルを根本から見直していく」と力強く語る。(寶)
プロフィール
酒匂 明彦
酒匂 明彦(さこう あきひこ)
1960年、神奈川県生まれ。83年、慶應義塾大学法学部卒業。同年、コンピュータアプリケーションズ(現シーエーシー)入社。00年、執行役員SI推進本部長兼金融システム第一事業部長。05年、取締役兼執行役員経営統括本部長。08年、取締役兼常務執行役員経営企画本部長。11年1月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
シーエーシー(CAC)の今年度(2012年12月期)連結売上高は前年度比2.9%増の400億円、営業利益は3.4%増の27億円の見通し。中間期(12年1~6月期)連結売上高では、金融分野が端境期にあってへこんだものの、医薬分野は前年同期比18.5%増の67億円と好調に推移。業務別では注力事業のBPO関連が32.7%増の42億円となった。