海外でソリューション展開を強化
──2012年は、大量の情報をリアルタイムで収集し、分析するという「ビッグデータ」の概念が話題を集めました。 遠藤 ビッグデータの動きは、興味深くみています。センサを使って情報を収集・分析して、すぐにアクションを起こすためには、ネットワーク技術とコンピューティング技術が欠かせない。ですから、その二つをコア事業とする当社にとって、ビッグデータのソリューション展開は、まさに腕の見せどころだと考えています。
ここ数年、IT業界ではクラウドが注目を浴びているのですが、私は、クラウドはIaaSやPaaSだけではもったいないと思います。ICT(情報通信技術)を生かし、クラウド基盤の上で実現するデータ活用による「価値の創出」こそが、クラウドの本質だと捉えています。
現在、世界各国の人々が大きな社会問題に直面しています。とくに、アジアを中心とする発展途上国では、人口の増加に伴って、エネルギー供給の改善が喫緊の課題になっています。2050年までに、世界の人口は現在の70億人から90億人に増えるといわれています。そして、人口の増加とともに人々が都市に集中するようになり、エネルギー需要が急増します。
エネルギーをはじめ、社会問題を解決するために、ICTの活用が不可欠です。ICTのプロ集団である当社は、データの「収集」「分析」「活用」の各々の領域でソリューションを取り揃え、発展途上国をはじめとして、グローバル規模で社会問題の解決に貢献したい。
──御社は現時点で、ハードウェアの販売が海外ビジネスの中心になっていると思います。今後、海外でビッグデータをはじめとするソリューション展開を強化するために、どのように動いておられますか。 遠藤 おっしゃる通り、ハードウェアの販売を中心とする海外ビジネスの今のやり方は、もはや適切ではないと考えています。そこで当社は現在、日本側で各国の市場を分析することに取り組んでいます。さらに、現地のスタッフがお客様に密着し、彼らのニーズを吸収して日本側にフィードバックすることに力を入れています。日本側と現地スタッフをうまく連動させることによって、最適なソリューションを開発することを意図しています。
次の成長計画を策定中
──2012年は、中国リスクに対する意識が高まったこともあって、ITベンダーは海外展開にあたって、東南アジアの市場を注目してきました。なかでも、民主化が進んでおり、e-Government(電子政府)をはじめとして、IT化の需要が旺盛なミャンマーが、将来の有望市場として認識されています。遠藤社長は、東南アジアの市場の可能性について、いかがお考えでしょうか。 遠藤 東南アジアは、ミャンマーに限らず、IT化がほとんど進んでいない国や地域がたくさんあります。IT化が進んでいないということは、e-Governmentやエネルギー管理といったソリューションを、ゼロから納入することができるということを意味しています。日本は、公共機関にしても、民間企業にしても、ITシステムが複雑化しすぎて、入れ替えがなかなか難しい状況にあります。一方、東南アジアでは、そういう障壁がありません。IT化されていないからこそ、ビジネスチャンスがあるとみています。
──御社は2010年に中期経営計画「V2012」を発表し、収益体質の強化を方針に掲げました。2012年度の上期は、大幅なコスト削減によって営業利益を改善させることができましたが、2013年度以降は、どうのようにして収益体質を強化していくのでしょうか。 遠藤 「V2012」は、2011年に東日本大震災やタイの洪水、欧州の金融危機など、予想していなかったできごとが多発し、残念ながら、計画していたことを守ることができなくなってしまいました。今後、当社ビジネスの収益性を高めて、事業を継続して伸ばすために、2013~15年度の方針を決める次の中期経営計画を策定しているところです。2013年度が始まる4月をめどに新中計を走らせることを予定しています。
新しい中期経営計画では、NECの今のビジネスのあり方に区切りをつけて、方向性を大きく変えていきたいと考えています。計画は現段階で策定中なので詳細はまだ申し上げられませんが、当社の次の100年のための基盤を築く思いを込めて、「チェンジ」をキーワードにして計画づくりを推進しています。
このところ、政権交代によって国内経済の活性化の兆しがみえてきたり、当社の海外ビジネスに悪い影響を与えている為替の問題も、少しずつではありますが、解決しつつあります。こうした動きを追い風として、新しい事業にドライブをかけ、NECの長期的な成長を実現していきたいと考えています。
・FAVORITE TOOL メモ帳と7インチのタブレット「MEDIAS TAB UL」。手書きとデジタルを融合させ、情報を管理している。タブレットは、小型サイズでジャケットの内ポケットに入るので、持ち歩きやすい。多忙な遠藤社長は、メモ帳とタブレットのそれぞれの利点を生かし、効率のよい情報管理を心がけているそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
例年通りの遠藤社長への年末単独インタビュー。今回も、取材時間は写真撮影の時間を含んで約40分と、非常に限られている。場所は、クリーム色で統一されて、東京湾が一望できる役員フロアの応接室。NECのかつての黄金時代を象徴する場所だ。
インタビューの前半は、遠藤社長がデータ活用の可能性や人口問題などについて語り、NECのビジネス方針についての具体的な話をなかなか聞くことができなかった。しかし(昨年もそうだったが)、インタビューが進むにつれて、遠藤社長の口調は熱を帯び、自社のビジョンについて熱心に語ってくれた。
次の100年の基盤を築く──。NECの業績が根本的に回復しない状況にあって、IT業界の関係者の多くは、NECの今後の動きに高い関心を抱いている。収益性の低いハードウェアの販売も含め、ビジネスのあり方を大幅に見直すことに取り組んでいる遠藤社長。NECの次の黄金時代の扉を開くことが期待される。(独)
プロフィール
遠藤 信博
遠藤 信博(えんどう のぶひろ)
1953年11月生まれ、59歳。1981年3月、東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了、工学博士。同年4月にNECに入社。2003年4月にモバイルワイヤレス事業部長、05年7月、モバイルネットワーク事業本部副事業本部長。06年4月、執行役員兼モバイルネットワーク事業本部長、09年4月に執行役員常務に就任。同年6月、取締役執行役員常務を経て、10年4月に代表取締役執行役員社長に就任、現在に至る。
会社紹介
国内大手の総合コンピュータメーカーで、創設は1899年。現在は、ITソリューションやキャリアネットワーク、社会インフラなどの分野でビジネスを展開している。2011年度(2012年3月期)の連結売上高は3兆368億円。265社の連結子会社を抱えており、東京・芝に本社を構える。正式社名は、日本(にっぽん)電気。