海外事業は中国への注力を鮮明に
──海外売上高比率を現状の25%から2015年度までに35%に引き上げる方針も掲げておられます。 岩田 情報・通信システム事業は、近年、売り上げがあまり伸びていません。グローバル事業はこの状況を打破するための起爆剤と位置づけています。新規注力分野は、最初から世界で戦うことを意識しないと成功はおぼつかないでしょう。
グローバル事業を拡大するためのインフラは整えてきました。現在、米国にはHDS(Hitachi Data Systems)と、HCC(Hitachi Consulting Corporation)という子会社があって、合わせて1万人規模の従業員がいます。経営トップは両社とも米国人で、現地の一流の人材も採用できる企業に成長しています。これはわれわれの大きな財産であり、レバレッジを効かせてグローバル事業を伸ばすための重要なプラットフォームです。
グローバル事業における日本人の役割は、ガバナンス、テクノロジーのトランスファー、教育に限定すべきだと考えていて、基本的なオペレーションは現地にもっと任せたいと思っています。日本人が海外に出て行って営業までやろうとしても無理です。それは外資系の企業が日本に進出した時のことを考えれば自明ですね。
米国以外に、中国などのアジアでも事業展開していますので、そうした方針は共有して、整合性をもたせた施策を展開していくつもりです。
──やはりHDS、HCCの存在があるので、日立グループとしては米国の売上比率が多いですね。今後の海外ビジネスにおける地域的な戦略や、現地化推進策についてはどのようにお考えですか。 岩田 現状のビジネス規模はまだ小さいですが、伸びているのは中国、インドです。とくに中国は、今後、一層注力していきます。
日中の間には政治摩擦の問題もありますが、コンシューマ系以外の案件は、それほど落ち込んでいません。結果的に、当社の業績にそれほど影響は出ていないのです。
現地化のための施策としては、コンサルティングのカバレッジを拡げることに重点を置きます。現地の優秀な人材を確保して、マンパワーを整えるということですね。SI部隊も日本人中心のオペレーションが残っていますので、現地化を進めます。
2015年度の営業利益率を2ケタに
──岩田さんは4月から、日立製作所の副社長として、グループ全体の経営の舵取りを担われますね。現在の中期経営計画は今年度が最終年度ですが、新たな中期経営計画の見通しはいかがですか。 岩田 5月にグループ全体、6月にセグメント別のものを発表する予定ですが、基本的な考え方としては、売り上げよりも利益を重視する方針です。現在の中期経営計画では、先ほどおっしゃったように2015年度売上2兆3000億円という目標を打ち出していますが、これにこだわるつもりはありません。その代わりに、営業利益率は現計画の8%超から2ケタに引き上げます。収益性を高めてキャッシュフローをスムーズにし、事業の成長を早めたいと考えています。
ちなみに、海外売上高比率は、従来の35%からさらに上乗せした数字を出すつもりです。
──組織・体制整備の方針はいかがですか。 岩田 これまでは、グループ企業同士でもそれぞれの会社が独立して動いている部分が多かったんですが、連結の経営効率を上げていくことが重要だと考えています。日立グループ全体としても、事業を5グループに集約しています。情報・システム事業内の組織統合も同じベクトルで、新しい事業領域では、ある程度組織をまとめないと、エンジニアリング能力は出てきません。個別最適から全体最適への移行を、加速度的に進めるということです。
そのためには、事業ベースの組織論だけでなく、人事、財務、情報システムなど管理部門も含めて世界で戦える組織をつくり上げなければなりません。幸い、基礎となるプラットフォームはできつつあるので、日本人、外国人を問わず、この分野の優秀な人材も確保したいと考えています。
──世界で戦う組織を構築していこうという方針はよくわかりましたが、一方で、縮小傾向の日本のIT市場についてはどうみておられますか。 岩田 あらゆる産業に共通して、企業価値とその企業のIT投資額には明確な相関関係があるはずです。日本は、産業全体が地盤沈下したからIT分野も落ち込んだと考えるべきです。日本の元気を取り戻すためにも、産業界全体が今こそ行動して、世界で戦う競争力をつけなければならない。そのためには、ITへの投資が不可欠です。
日本人は頭がよくて、新しいことをやろうとすると先に欠点や課題がみえてしまうことが多い。それで新しいアイデアをつぶしてしまうこともあります。しかし大事なのは、夢や可能性を追いかけることです。チャレンジすると障害は必ず出てきますが、それをどう克服するかを考えればいい。そう考える人が増えれば、日本でもポジティブなムーブメントが実際に起こってくるでしょう。そういう雰囲気をつくるのが、われわれの世代の責務だと思っています。
・FAVORITE TOOL 1年以上使っているアップルのタブレット端末iPadは、ほぼメールのチェック専用。社内メールの処理ができるように設定してある。多忙を極めるなか、クルマでの移動中はiPadの出番で、仕事の効率化に大いに役立っているという。「3G回線が遅いのが不満」とのこと。
眼光紙背 ~取材を終えて~
クラウド、ビッグデータ、スマートという新領域で攻めの事業を展開するための体制づくりには手応えを感じているというが、岩田氏は「ここからのマインドセットに時間がかかる」と漏らした。戦略とそれを実行するためのプロセスを形成しても、働く人の意識を転換し、行動を変えるまでには時間を要するということだろう。
また、「新しいことをやるには認知度が大事。クラウドやビッグデータについて日立に相談してみようと顧客が思うような環境をつくらなければならない」とも話す。その背景には「いいものをつくればそれでいい」というシーズ・オリエンテッドに偏り気味だった同社の従来の技術開発に対する反省がある。
長い海外経験から獲得したのだろうか、言葉の端々に、自社事業や日本の市場に対する客観的かつ独自の視点を感じた。変化の激しいITの世界で、いかにスピーディに事業を進められるか、日立グループ全体の経営を担うべく、執行役副社長に就任する氏の手腕に大きな期待がかかる。(霞)
プロフィール
岩田 眞二郎
岩田 眞二郎(いわた しんじろう)
1972年4月、日立製作所に入社。グローバル事業開発本部部門本部長、日立データシステムズCEO、日立製作所執行役常務情報・通信グループサービス・グローバル部門CEOなどを経て、2011年、執行役専務情報・通信システム社社長に。2012年より現職。4月1日付で、日立製作所執行役副社長情報システム担当情報通信システムグループ長兼日立グループCIO兼日立グループCISOに就任する。
会社紹介
日立製作所の情報・通信システム社は、IT関連事業の中核を担う社内カンパニーだ。ストレージ、サーバー、ミドルウェア、通信ネットワーク機器などのITプラットフォーム、コンサルティングやシステムインテグレーションなどのソリューション・サービスまで幅広く手がける。社会のイノベーションをITで実現する「Human Dreams. Make IT Real.」を事業コンセプトに掲げている。