日立グループ傘下の三大SIerである日立ソリューションズと日立システムズが、中国の拠点展開やビジネスパートナー連携を急ピッチで進めている。日立ソリューションズは北京法人を開設してから1年がたたないうちに駐在所も含めて7か所の拠点を展開。日立システムズはデータセンター(DC)活用型のアウトソーシングサービス、業務アプリケーションソフトの販売などの分野で地場有力ITベンダーと矢継ぎ早に業務提携契約を結んでいる。日立製作所本体が大型案件を軸に位置づける一方で、両翼を担うSIerの2社は中国で地場密着の足場固めを着々と進めている。(安藤章司)
日立ソリューションズは2011年10月の北京法人開設から3年以内をめどに、中国全土のおよそ15か所に拠点を展開し、地場密着のビジネスを立ち上げると宣言した。以後、上海や広州の拠点開設に続いて、今年4月、上海近郊の嘉興市にシステム開発・運用センターを立ち上げた。さらに、拠点周辺に駐在所をつくることで、地場の顧客に密着したビジネスを推し進める。駐在所を含めた拠点数は7か所に達しており、それぞれ地場のビジネスパートナーとの連携も進める。

日立グループの拠点展開と地場有力ビジネスパートナー一覧
中国市場の特性の一つに、外資系単独では優良案件が受注しにくかったり、DC運営の許認可が得にくかったりすることが挙げられる。そこで、日立グループでは、拠点拡大と同時に地場パートナーとの連携を積極化。例えば日立ソリューションズは、上海近郊の無錫で、物聯網(ユビキタスやスマートコミュニティに相当)をはじめとする公共分野に強みをもつ地場有力ベンダーの感知集団と連携。日立システムズに至っては、直近だけでも介護事業者向けシステム分野で上海万序計算機科技、DC運営分野で上海有孚計算機網絡、リモートアクセス分野で上海微創軟件とそれぞれ提携し、お互いの強みを持ち寄るかたちで地場ビジネスの拡大を期している。
日立ソリューションズは、システム開発・運用センターを開設した嘉興で、今年7月、新卒を50人ほど採用したことで、中国法人全体では200人規模に拡大。昨年10月の法人開設時に約70人体制でスタートしてから、1年を経ずに3倍近くの人員に達したことになる。中国法人の張若皓総経理は、「地場案件獲得を重視しているので、日本語能力よりも、ITソリューション能力の高さを基準に採用した。受注状況をみながら早い段階で500人体制を目指す」と、人材も地場市場への最適化を優先していく考えだ。日立ソリューションズ中国法人は設立当初から経営陣、幹部社員のほぼすべてを中国出身者で固めるなど、日系SIerとしては異例の速さで現地化している。迅速な拠点開設やパートナー開拓が可能になっている背景には、地場市場に精通した人材がリーダーシップを発揮しているという実態がある。
日立グループは、産業分野だけでなく、スマートコミュニティをはじめとする公共分野に世界有数の実績をもっており、この強みを生かす取り組みも進めている。日立製作所や日立システムズが大連でのDC運営パートナーとして選んだ大連創盛科技は、地元自治体をはじめ公共分野に実績があり、日立ソリューションズが連携を進める感知集団は物聯網に強みをもつ。物聯網では、中国政府がとりわけ力を入れる水や空気などの環境改善に向けた監視システムや、交通渋滞緩和のITS(高度道路交通システム)、防犯カメラの映像解析など「日本の安心安全の町づくりに相当する“平安都市づくり”に関連する引き合いが多い」と張総経理が語るように、公共分野での受注拡大に意欲を示す。
一方、日立システムズは、大連創盛と協業して建設中の2000ラック相当のDCが今年11月にも竣工する予定であり、「大連DCが開業すれば、パートナーと連携して運営している上海、広州の主要沿岸部3か所のDC設備が揃う」(日立システムズ)ことになる。日立ソリューションズが営業とシステム開発を担い、DCは日立システムズがパートナーと共に運用する設備を活用することで二重投資を避け、相乗効果を高めていく考えだ。
表層深層
課題は、日立製作所と日立ソリューションズ、日立システムズのグループ連携、そして地場の有力ITベンダーとのエコシステムをどう回していくかだ。大枠では営業・開発の日立ソリューションズ、DC運営の日立システムズに分かれるが、実際は日立システムズの得意商材である介護事業者向けシステムやクラウドサービスを地場パートナーを通じてすでに販売を始めている。日立ソリューションズ側も、大型案件を含むビジネスが本格的に立ち上がるのはもう少し時間がかかる見込みで、嘉興にシステム開発・運用センターで採用した新卒50人は「今、トレーニングの真っ最中」(張若皓総経理)という状況にある。
もう一つ気がかりなのは、中国経済が今後2~3年は調整期に入る可能性が高く、情報サービス業でも「遅効性が働くので、今年後半から来年にかけて影響が及ぶことも考えられる」と、張総経理は警戒感を強める。ただ、市場が成熟したという見解ではなく、経済成長が過熱しすぎることを警戒する政府当局の施策によるものだ。公共投資など政府主導の比重が大きいのが中国経済の特性で、SIerが中国で成長していくためには、「物聯網など公共がらみの案件獲得を重視していく必要がある」と捉える。公共色が強くなればなるほど地場有力ベンダーとのパートナーシップは重要度を増すわけで、地場パートナーとのエコシステムをどう構築していくかによって、中国ビジネスの伸び具合は大きく変わるといえそうだ。