安倍政権は、成長戦略の柱として「世界最高水準のIT社会実現」を掲げている。すでに具体的な動きとして、新IT戦略案を取りまとめるとともに、国会ではマイナンバー法案も成立させた。国内産業育成のミッションを担う経済産業省は、こうした政府のIT関連施策を情報サービス産業の活性化にもつなげる考えで、戦略案策定のプロセスやマイナンバー制度の今後の運用における府省間の議論で、大きな存在感を示している。
マイナンバーの民間活用に意識を
──今国会で、マイナンバー法案が成立しました。昨年、民主党・野田政権の解散とともに廃案となった法案と内容はほとんど同じですが、かなり回り道をしたという印象があります。 三又 マイナンバーの制度設計や実行計画などの骨格は、昨年の法案と基本的には同じです。とくに経済産業省の立場からいうと、国民一人ひとりが利用することになる専用のポータルサイト「マイポータル」を、将来的に民間事業者とも連携できるようにして、新たなサービス、産業を創出したいという構想はずっと変わっていません。
とはいっても、制度の詳細については、システム整備の方針も含めてこれから議論しなければならない点も多い。その過程で、IT業界はもちろんとして、産業界の意見を吸い上げるのが経産省の役割だと意識しています。
──IT業界には「マイナンバー特需」を期待する向きもあります。その可能性についてはどうお考えですか。事実、政府の試算として、国や自治体のシステム整備コストを約2700億円と見積もっていることも明らかになりました。 三又 マイナンバー制度の施行に伴うシステム整備は、確かにそれなりの額の投資が必要になりますが、予算も有限ですし、一時的な事業です。それよりも民間企業の皆さんに目を向けてほしいのは、マイナンバーをきっかけに、新しいビジネスが生まれる可能性があるという点です。
スマートデバイスなどの普及によって、国民のインターネット利用環境は今まで以上に面的な広がりをみせています。そうしたなかで、世の中に存在する多種多様なデータ、例えば民間企業が保有するものや、公的機関のオープンデータがマイナンバーと連携すれば、波及的に新しいサービスが広がっていくでしょう。住基ネットのように、行政手続きのなかでも非常に限定的なものにしか使えないとなると、そうした効果は生まれにくいですが、その反省も踏まえてマイポータルの構想を掲げています。
現時点では、民間企業側もあまり積極的に知恵を出していないというのが私の印象です。これまでの経緯もあって、あまり国の施策を信用していないからかもしれませんが……(苦笑)、仮に新ビジネスに制度的な障害があれば、必要な制度整備を後押ししたいというのがわれわれの基本的なスタンスです。
世界的にみて、日本は番号制度の後進国です。しかし、だからこそ最新のITテクノロジーに合わせて制度を構築できるという後発の利もあります。
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