新領域を求める貪欲さがまだ足りない
──トップに就いておよそ3か月。率直なところ、会社をどうみておられますか。 加藤 正直にいえば、コマツ以外に向けたビジネスの勢いが少し足りないと実感しています。SIビジネスの特性からいえば、金融基幹系システムは、規模も巨大で構築に要する期間も数年単位、維持運用は数十年単位になります。だから農耕民族的なビジネススタイルといわれますが、産業系は市場の変化適応力が問われることが多く、SIの営業も狩猟民族的で、ユーザーの動きを先取りすることが多い。私もTISで産業系をみていたときは、新規案件やユーザーの開拓を貪欲に追い求めていましたし、マーケットで何か動きがあると、皆で「おー!」と咆哮しながら突進していく。産業系のビジネスはそうでなきゃならんと今でも思っています。
前任の西田さんは、それはもうバイタリティ溢れる熱血漢ですから、全社員700人余りを率いて国内外のビジネスをここまで引っ張ってきました。社員も西田さんや私が言わんとしていることは、すでにわかっているはずなので、できる限り社員に権限を委譲し、リーダーの責任でそれぞれのチームが動けるようにしていく。そうでないと、将来に向けた成長は難しいと思うからです。
──グローバルについてですが、ASEANでのビジネス拡大に向けて、今年4月、シンガポール子会社の体制を強化されましたね。 加藤 製造業ユーザーの動向をみると、ASEAN地域への投資が活発化していますので、シンガポール拠点の強化は必然です。社名も「TKソフトシンガポール」から「クオリカアジアパシフィック」へと変更し、ASEAN全域を強く意識したものにしました。
大手製造業がASEANのどこかに製造拠点をつくれば、このサプライチェーンに関連する多くの製造会社もこぞって進出します。鋳造シミュレーション「JSCAST」や生産管理の「AToMsQube」は、こうしたユーザーに求められるものですし、これまで中国で日系企業など26社に納入した実績があります。外食産業向け営業支援システムの「TastyQube」も、およそ250店舗に納めてきました。
日本の製造業の多くは中国に進出しているのですが、「JSCAST」や「AToMsQube」の販売対象となる「製造拠点」という側面でみると、あまり楽観できない部分も出てきています。中国の年率10%ともいわれる人件費の高騰や、為替リスクを最小限にとどめるという意味合いからも、ASEAN方面など広域化せざるを得ないでしょう。
上海を軸にアジア広域展開を進める
──ASEANといっても10か国があるわけで、どこまで対応していくお考えですか。 加藤 当社の製造業向けシステムは、建機からスタートしていますので、やはり自動車メーカーの動きは常に注目しています。必要に応じてASEANでの拠点拡充を検討するとともに、ITHDグループの拠点も最大限活用していきたい。タイにはインテック、ベトナムにはTISが展開していますし、この7月にはアグレックスもベトナムに合弁会社を開設する予定です。インテックは東洋ビジネスエンジニアリングの生産管理システム「MCFrame」のトップセラーで、つい先日も9回目の「MCFrame Partner of the Year」を受賞しているほどです。
──海外でのグループ連携は、「言うは易く」ではないでしょうか。 加藤 そんなことはありません。中国では比較的大規模な製造業ユーザー向けにインテックが扱う「MCFrame」が好調で、サプライチェーンに傘下の中堅・中小製造業には当社の「AToMsQube」がよく売れています。とくに当社の「AToMsQube」はクラウド方式でも使えるので、自社にサーバー機材を設置する手間を嫌うユーザーからの評価は高いですね。また、日本の本社が生産状況をリアルタイムで把握できる点も好評です。TISの産業部門にいたときも「AToMsQube」を売ることを心がけてきましたし、今は古巣の面々に「おまえら、もっと売れ!」とハッパをかけているところです(笑)
──投資がASEANを向いているとすれば、中国ビジネスはどうなりますか。 加藤 アジアビジネスは変化が激しく、将来を予測するのは難しい。ただ、上海は技術者を中心に50人ものスタッフがいますので、アジア市場に向けては、やはり上海が本拠地であることに変わりはありません。シンガポールはまだ10人規模ですし、スキルの面でも上海で育ててきた技術者は代えがたいものがあります。SIerは人材こそが資産ですので、上海やシンガポールともに、人材を最大限に生かすキャリアパスをこれからも重視していきたい。
中国/ASEANで受注したシステムは、上海を中心に開発やカスタマイズして、極力、日本は関わらないようにします。上海の技術者が培ってきた知見やノウハウのレベルは高いですし、コストも今はまだ日本に持ち帰るよりは抑えられます。将来は、中国・ASEAN地域で経営者になる人材を育てて、その人たちが経営を行い、ビジネスを伸ばす体制にできれば理想的だと考えています。
・FAVORITE TOOL クロスのボールペン。TIS時代に最も難航した金融向け大型プロジェクトのカットオーバー(本稼働)の記念品だ。2007年7月2日と08年11月3日の二つの日付が記され、プロジェクトに参加した人数分が用意された。「くじけそうになったとき、このペンを見ると多少の困難は乗り越えられる気持ちになる」という。
眼光紙背 ~取材を終えて~
加藤明社長が経験したなかでいちばんつらかったのは、TIS時代の某金融向けの案件だそうだ。最盛期で数千人規模の人月を動員した、同社史上で最も難航したプロジェクトだった。もてる力のすべてを投入したといっても過言ではなく、そのなかには現在のTIS社長の桑野徹氏を筆頭に、加藤氏など多数の精鋭幹部が含まれていた。
「忘れられない案件となったが、あの瞬発力があれば、どんなプロジェクトでもこなせる気がする」と、加藤氏は自信を得た。瞬発力を発揮するには「上意下達の指示待ち人材ではダメ」で、個々人が問題意識をもち、いざとなったら、われ先にと渦中に飛び込む気概と士気が求められる。
ただ、同時に経営者にもそうした仕組みをつくる義務が課せられる。“すべて社長が決める”企業風土では人は育たない。ふだんから権限委譲を進め、「組織の細胞一つひとつにエネルギーを充填した状態にしておく」ことで、初めて危機に面して爆発的な力を発揮できると加藤社長は断言する。(寶)
プロフィール
加藤 明
加藤 明(かとう あきら)
1956年、大阪府生まれ。80年、神戸大学工学部計測工学科卒業。同年、東洋情報システム(現TIS)入社。00年、産業第2事業部ビジネスシステム第4部長。08年、執行役員 産業事業統括本部産業第1事業部長。11年、常務執行役員 産業・公共事業統括本部副本部長。12年、常務執行役員 産業事業本部長。13年4月、クオリカの社長に就任。
会社紹介
クオリカは1982年、建機メーカーのコマツの情報システム子会社としてスタート。2000年、東洋情報システム(現TIS)グループの傘下に入る。生産管理システムや設計シミュレーション、外食産業向け営業支援システムなど、業務パッケージソフトの開発を得意とし、近年はクラウド方式での提供にも力を入れる。中国やASEANといったアジア市場へ積極的に進出している。