組織再編で重要顧客を囲い込み
──打つべき施策といえば、先日の事業戦略発表会では、営業体制の変革や、パートナープログラムの強化の方針を打ち出しておられました。やはりこのあたりがポイントになるのでしょうか。 尾羽沢 そうですね。社内の営業体制は、特定のユーザーを専任で担当する「インダストリー営業」、中小規模の顧客や新規顧客に対応する「ソリューション営業」、そして「パートナー営業」の3部門に編成し直しました。これは、最も重要な施策です。
これまでのインフォアジャパンの営業は、案件ごとに担当営業をアサインするやり方が一般的で、当社にとって重要なユーザーであっても、一つの案件が終わると、担当者は新たに発生したほかのユーザーの案件を手がけるといったケースが多かったんです。しかし、現在のERPのニーズのあり方を考えると、重要な顧客企業に対しては、先方の事業を深く理解したうえで、長期的・継続的にソリューションを提案していくというアプローチが必要です。
そういう意味で、インダストリー営業は従来のインフォアジャパンの営業体制に欠けていた機能をもつセクションで、彼らには、自分にアサインされたアカウント以外の案件にはタッチさせません。ユーザーと業務部門についての話がしっかりできる営業パーソンは結果を出します。私はそういう営業のスターをたくさんつくりたい。それによって売り上げのベースを確保するつもりです。
──インダストリー営業でカバーするユーザーは何社くらいになりますか。 尾羽沢 100社前後というところです。ただし、それ以外のユーザーが600社あり、新規ユーザーの開拓も当然やらなければなりません。ある程度小さい案件もしっかりカバーして、ユーザーのすそ野を広げます。プリセールス部隊のサポートが必要な時にすぐに受けられる体制も整備して、取りこぼしをしない組織にしたつもりです。
また、営業部隊の半数はパートナー営業を担当します。ERPの引き合いはどんどん増えていて、直販だけでは対応しきれません。しかし、誰でも売れる商材ではない。パートナーを教育して育てることも、拡販戦略上、非常に重要です。そのためにパートナー営業が果たすべき役割もまた大きいといえます。
──それぞれの営業部隊に求められるスキルはかなり違ったものになりそうですね。 尾羽沢 その通りです。そのために、営業の教育プログラムも、インダストリー、ソリューション、パートナーと別々に用意します。ただ、共通しているのは、プリセールス部隊のノウハウを営業にトランスファーできるようにするというコンセプトです。当社のプリセールスの質は、メガベンダーに決して劣りません。テクニカルな知識と業界固有の知識を非常に高いレベルであわせ持っていて、彼らの知識・ノウハウをうまく使えば、提案の質が1ランク上がるはずです。
コンサルティングファームとの協業に期待
──どちらかというと、新規開拓よりも、既存ユーザーの事業展開に伴う新たなIT投資をキャッチするというやり方で、売上拡大を目指すということでしょうか。 尾羽沢 案件が計算できて、かつ開拓の余地が大きいのは既存顧客の深掘りだと考えています。これは絶対にやらなければなりません。今回の営業体制の再編は、そのための施策だと考えてもらって構いません。
──パートナープログラムの方針についてはいかがですか。 尾羽沢 現在、国内のパートナー総数は約30社で、間接販売の比率は約35%です。これを、50%以上にしたいですね。さらに、今後1年間で新たに5社とパートナー契約を結びたいと考えています。ただし、先ほども申し上げたように、インフォアのソリューションは誰でも簡単に売れる商材ではありません。グローバルで使えるERPを扱った実績があって、そうした商材だけではカバーできない市場を取り込んでいきたいと考えているSIerなどとうまく協業できればと考えています。
パートナー企業の皆さんにお願いしたいのは、「これだけ売る」というコミットメントを明確にしてほしいということです。そうすれば、インフォアのサポートのリソースをどう配分するか、場合によってはどの程度拡充するかということが決められます。良好な協業関係をつくるためには、このコミットメントが非常に重要だと思います。
──新規のパートナー候補として注目しておられる企業はありますか。 尾羽沢 グローバル・コンサルティングファームとのパートナー契約締結は、必ず実現したいと考えています。実は、前職でつき合いのあった2社と、すでに契約間際まできています。
コンサルティングファームには、マーケットをつくり出す力があります。彼らの知見と当社の業界・業種特化のノウハウを融合させれば、ユーザーに新たな価値を提供するソリューションを生み出すことができるでしょう。それが、市場に期待されているインフォアの役割でもあると思っています。
・FAVORITE TOOL ドイツの高級筆記具メーカーであるモンブランのボールペン。インフォアジャパンの社長就任にあたって、前の職場の部下たちが贈ってくれたもの。インフォアジャパンが交わすすべての契約書に、このボールペンを使ってサインしているという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
生粋の営業マンだ。立居振舞から経営に対する考え方まで、尾羽沢社長のバックボーンとなっているのは、営業の最前線で磨いてきた、ユーザーのニーズや市場に対する鋭敏な感覚だ。
社長就任からわずか1か月で、インフォアジャパンの営業体制の課題を整理し、新たな施策も打ち出した。このスピード感はいかにも営業畑出身の経営者らしい。尾羽沢社長のポリシーは「トップダウン」だ。ボトムアップでものごとを決めることはない。「これだけ市場がスピーディーに動いているのだから、そうでなければついていけないですよ」と笑う。
では、尾羽沢社長は独裁者なのか。実は、インフォアジャパンの社長に就任することが決まり、前職を辞めるときに、「当時の部下が、私が辞めることを納得してくれなくて、説得に苦労した」という逸話がある。彼らとの絆の証が、現在愛用しているボールペンだ。インフォアジャパンにドラスティックな変革をもたらした人情家が、どんな成果を市場に示すことになるのか──。(霞)
プロフィール
尾羽沢 功
尾羽沢 功(おばざわ いさお)
1959年12月生まれの53歳。長野県生まれ。立教大学経済学部を卒業後、電子機器部品の製造販売を行う高見澤電機製作所(現富士通コンポーネント)に営業職で入社。ドイツ支社長などを歴任。その後、日本アバイアなどを経て、2005年よりBIベンダーのSAS Institute Japanで執行役員営業統括部長を務めた。今年7月より現職。
会社紹介
ビジネスソフトウェア分野では世界第3位のシェアを誇る米インフォアの日本法人。平成7年10月設立。グローバルで共通の特徴として、製造業や流通業の顧客に強く支持されている。主力製品は、年商500億~1000億円規模の中堅企業をメイン顧客とするERP「SyteLine」。昨年7月に、旧社名の「日本インフォア・グローバル・ソリューションズ」から社名を変更した。従業員数は200人。