ビジネスアプリケーションベンダーとして、グローバルではSAP、オラクルに次ぐ第3位のシェアを誇る米インフォア。日本法人であるインフォアジャパンも、自動車部品などの製造業や流通業向けのERPなどではそれなりに存在感を示してきたが、日本市場におけるシェアはまだ数%にとどまり、グローバルでの実績との乖離は否定できない状況だった。しかし、今年7月、ビジネスアナリティクスのトップベンダーであるSAS Instituteの日本法人など、IT業界の営業畑で活躍してきた尾羽沢功氏が新社長に就任。早くも新たな施策を打ち出して、攻勢を強めている。尾羽沢社長のミッションは、今後3年間で売り上げを2倍に伸ばすこと。意欲的な数字に思えるが、尾羽沢社長は「達成は簡単」と言い切る。その真意とは──。(本多和幸)

ティム・モイラン
米インフォア
アジア太平洋地域
代表取締役 米インフォアのグローバルでの総売上高は28億ドル(約2800億円)。194か国で7万件のユーザーを抱えている。インフォアジャパン単独での業績は明らかにしていないが、同社のインフォアグループ全体に占める売上高の割合は約3%なので、80億~85億円程度の実績と推測される。同社の目標は、これを2015年までに2倍の160億~170億円に引き上げるというものだ。米インフォアのティム・モイラン アジア太平洋地域代表取締役は、「目標達成に向け、とくにセールスにおけるリーダーシップを発揮してもらうために尾羽沢氏をインフォアジャパンの社長に任命した」と説明する。
尾羽沢社長は、3年間で売り上げを倍にするというこの目標について、「達成が困難だとは、まったく思わない」と自信満々だ。ERPの市場環境が良好であることに加えて、これまでの同社の課題を踏まえて、すでに有効な施策を明確に打ち出したという手応えを感じているからだという。
調査会社の矢野経済研究所によれば、2012年のERPパッケージライセンスの市場規模は1091億円で、前年比約13%の伸びを示している。尾羽沢社長は就任直後からユーザー訪問を開始し、そのニーズに直接触れた。インフォアの主力製品であるERP「SyteLine」は、年商500億~1000億円の中堅企業がメインターゲットだが、まさにこのレンジのユーザーが海外に拠点をどんどん拡大しており、本社からガバナンスを効かせるために各拠点にERPを導入するニーズが急速に高まっている。しかし、本社でSAPなどの大規模なERPを導入している場合、それをそのまま水平展開するのはコスト・労力とも効果に見合わないと考えるユーザーが多く、「業種・業界別に特化したソリューションをラインアップして、そのなかから必要な機能だけを実装してスピーディにカットオーバーするインフォアの『マイクロバーティカル戦略』に対する期待は高く、間違いなく大きなマーケットがある」(尾羽沢社長)と実感している。

尾羽沢功
インフォアジャパン
代表取締役社長 では、尾羽沢社長がこれまでのインフォアジャパンの課題を踏まえて打ちだした施策とは何か。最もドラスティックに変えたのは、社内の営業体制だ。営業部隊を、特定の顧客を専任で担当する「インダストリー営業」、中小規模の顧客や新規顧客に対応する「ソリューション営業」、そして「パートナー営業」の3部門に厳密に分けた。
業績拡大に向けてとくに重視しているのは、既存の重要顧客をフォローするインダストリー営業の機能だ。尾羽沢社長は、「インフォアの従来の営業体制は、アカウントごとというよりは案件ごとに対応していた。しかし、既存ユーザーの拠点拡大に伴うERP導入のニーズが急成長している状況を考えれば、重要な顧客については、案件単位ではなく、ユーザー単位で専任の営業担当者がきめ細かくフォローしていくほうがいい」と断言。インダストリー営業の部隊には、「自分にアサインされたアカウント以外の案件にはタッチさせない」という徹底ぶりで、ここでしっかりと売り上げを確保し、目標達成のベースにする意向だ。
パートナー戦略についても、「尾羽沢色」を打ち出している。現状、インフォアジャパンの国内のパートナーの数は約30社だが、今後1年間で5社との新たなパートナー契約締結をめざす。また、間接販売の比率は現在約35%だが、この比率を50%以上にするという目標を打ち出している。
尾羽沢社長が新規に提携すべきパートナーとしてとくに重視しているのは、グローバル・コンサルティングファームだ。前職までの人脈を生かして、すでに契約締結間際までこぎ着けており、「コンサルティングファームには、ユーザーの要求に応えるだけでなく、マーケットをつくり出す力がある。新規ユーザーの獲得に向けてERPのすそ野を拡大するためには、彼らとの協業が重要なポイントになる」と力を込める。
表層深層
米インフォアやインフォアジャパンが自らの強みとしているのは「マイクロバーティカル戦略」だ。しかし、SAPがクラウドへのシフトを発表した際、アプリケーションを「バラ売り」していく方針を明確にするなど、有力ERPベンダーは、業種・業務別ソリューションにこぞって注力しているのが実際のところだ。このような競合のベンダーとの差異化をどう訴求するのか。尾羽沢社長は、「プリセールス部隊の質は他のベンダーに負けない。テクニカルの知識と業界知識を非常に高いレベルでもっていて、高度な提案ができる。彼らの知識・ノウハウをもっとうまく営業にトランスファーできれば、それがブレークスルーにつながる」との見方を明らかにする。このような構想の下に、社内教育の仕組みも早急に整備しようとしている。
同社が得意とする製造業分野では、国産ベンダーの東洋ビジネスエンジニアリングも、海外現地法人へのERP導入で実績を伸ばしている。これについては、「昨年、日本企業の海外展開を支援する組織を立ち上げて、ユーザーやパートナーに評価していただいている。現地でのサポートには絶対の自信がある」(尾羽沢社長)と余裕をみせる。
競合ベンダーとしのぎを削り、「3年で売り上げを倍にする」という大胆な目標を達成できるのか。尾羽沢社長の手腕に注目が集まる。