「クラン」組織に切り替え、現場が意思決定
──今は、ウェブ広告系などのお客様を数多く獲得し、データ分析の専門事業者として初めて東証1部上場を果たすほど、ビジネスが軌道に乗っています。上場する際の手続きは大変だったでしょう。 草野 そもそも、ビジネスが軌道に乗ったターニングポイントは、05年に外部からの出資を受け、それによって分析ツールの独自開発ができるようになったことにあります。オリジナルの商材をつくるとともに、プログラミング能力と統計学の知識をあわせ持ち、ビジネスにも精通するデータサイエンティストを地道に育てることで、今のビジネス展開の基盤を築いたのです。
東証1部への上場は、いろいろな書類を出さなければならないという意味では大変でしたが、2011年のマザーズ上場と比べて、それほど苦労はしなかったというのが正直のところです。
──今のタイミングで株式をマザーズから東証1部に市場変更されたのはなぜですか。 草野 会社が小さいうちに1部上場を果たしたかったからです。1部上場によって、当社が継続的に成長するための環境を整え、それを踏まえて、組織の根本的な立て直しを図っていきたいと考えています。僕が構想している新組織では1部上場を実現しにくいと考えて、まず1部上場を成し遂げて、次に新しい組織を築く、というロードマップをつくりました。
──組織をどのように変えるのですか。 草野 簡単にいえば、ボトムアップで意思決定を行い、迅速にお客様のニーズに対応することができる会社にしたいと考えています。基本は、「アメーバ経営」的な考えですが、少人数のメンバーで構成される「クラン」(clan=一族)を形成し、クランのリーダーに広範囲な意思決定の権限を与えることによって、クランの独立性を高める。そういう組織づくりに向けて動いています。
お客様はどんなニーズをもっていて、どのようなことに悩んでいるかを詳しく把握しているのは、データサイエンティストをはじめとする現場の人間です。社長の僕ではありません。多くの企業は、管理職をマネジメントするための管理職を設けているほど組織が複雑化していて、その結果、会社としての動きが鈍くなっています。ブレインパッドで目指すのは、「上の考えがおかしくなったら、下がそれを変える」という、フラットだからこそ、迅速に動くことのできる組織です。
消費者からデータを収集、分析の材料に
──今後、どのようなことに取り組んでいくつもりですか。 草野 東証1部上場を果たして、今、ビジネス拡大に向けた投資フェーズに入っています。今年9月に、米カリフォルニア州のバークレーに現地法人を設立しました。ビッグデータの最新技術の発生地であるシリコンバレーに密着し、新しい商材を開拓して、日本のお客様に提案したいと考えています。
当社は、分析ツールの販売とインテグレーション、データ分析と関連コンサルティングの二つを事業の主な柱にしています。今後、アメリカ法人を通じて、取り扱う分析ツールをどんどん増やしていきたい。そして、単に数を増やすのではなく、「ブレインパッドはプロだから、このツールを選んだ」というように、当社の目利き力を訴求し、お客様に当社を選んでいただく価値を高めたいと思っています。
現在、約50人のデータサイエンティストを抱えています。彼らは、お客様の情報システム部門とマーケティング部門の間に入って、それぞれのニーズを調整しながら、データの分析・活用を実ビジネスにつなげる人材として、当社の貴重な財産です。ビッグデータの認知度が高まっているなか、今後、データ分析のサービスを提供する事業者が増えて、データ分析のコモディティ化が進むとみています。そうした情勢下にあって、データサイエンティストの腕を磨き、分析サービスの質の向上に取り組んでいきます。
──コンシューマ向けの無償の家計簿アプリケーション「ReceReco(レシレコ)」も提供しておられますね。その狙いは何でしょうか。 草野 「ReceReco」は、スマートフォンのカメラで買い物のレシートを撮影し、簡単にデジタルの家計簿をつくることができるアプリケーションです。当社は、ユーザーから買い物関連のあらゆる情報を集めて、それらをデータベースとして、消費者の購買行動を分析します。そして、分析の結果を有料で小売店などの事業者に提供し、回収につなげます。このような「B2C」のサービス展開によって、ビッグデータを「つくる」会社に進展していきます。
──大量のデータを抱えて、そのデータの分析を行うという意味で、御社はビッグデータ業界で非常に強力なプレーヤーになっておられると思います。トッププレーヤーとしての業績目標を教えてください。 草野 13年6月期の経常利益1億6300万円を、17年6月期までに30億円に引き上げたい。そのためには、これから先、まだ二つ、三つのイノベーションを考えなければいけないと、気を引き締めているところです。

‘お客様のニーズがわかるのは現場。社長の僕ではありません。だから下が上を変える会社にしたい。’<“KEY PERSON”の愛用品>「Evernote」と連動したモレスキン手帳 MOLESKINE(モレスキン)の手帳に、アイデアを書き留める。2~3か月で一冊を使うという。現在使用しているのは、「Evernote」と連動した情報管理ができるモデル。スヌーピー版の手帳ももっているそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
データ分析によって、社会を効率的なものにする──。これが草野隆史社長のビジョンである。例えば、食品の供給。「日本はたくさんの食品を輸入しているが、使い切ることができず、3分の1がゴミになってしまう」という。データを活用すれば、実際の需要を予測し、ムダを減らすことができるはずだ。「企業は、データにもとづいて意思決定をしてほしい」と、草野社長は訴える。
ブレインパッドは、この10月、日立製作所とビッグデータ事業で協業した。マーケティング領域で、データ分析・活用サービスを提供する。共同の展開によって、2017年3月末までに、国内で約20億円の売り上げを目指すという。データ分析・活用をいかに浸透させるか。IT基盤を強みとする日立製作所のような大手ITベンダーと、分析に精通するブレインパッドの提携が一つのモデルになりそうだ。ITインフラと分析をセットで提案して、ユーザー企業の「価値」をつくることが求められる。(独)
プロフィール
草野 隆史
草野 隆史(くさの たかふみ)
1972年、東京都生まれ。97年、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程を修了。サン・マイクロシステムズ(現日本オラクル)を経て、インターネットプロバイダ関連事業の立ち上げに参画。データマイニングと最適化に特化した事業の起業を決意し、2004年3月、ブレインパッドを設立。代表取締役社長に就任。
会社紹介
データ分析やコンサルティングを手がけるアナリティクス事業のほかに、ソフトウェア販売事業などを展開している。設立は2004年。11年9月、東京証券取引所マザーズに上場し、13年7月、株式上場を東京証券取引所第1部に変更した。13年6月期の売上高は20億8200万円、営業利益は1億8600万円。従業員数は130人。SAPジャパンやウイングアーク、Pivotalジャパン、日立製作所などのIT企業と提携し、ビッグデータ活用ソリューションを提供する。本社は、東京・白金台。