DCを丸ごと仮想化して自由度を高める
──「サーバー仮想化」という小さな領域から抜け出しつつあるわけですね。 三木 そもそもVMwareが米国で起業した当初は、デスクトップを仮想化するソフトをつくっていました。今からみれば、結果的にサーバー仮想化のビジネスのほうが先に立ち上がったものの、デスクトップの仮想化を軽視しているわけではまったくありません。現在は「VMware Horizon View」という製品名で販売しており、ビジネスの伸び率はむしろサーバーよりデスクトップのほうが大きくなっているほど。いよいよデスクトップの仮想化ビジネスが本格的な成長期に入っていると手応えを感じています。
──出荷台数から考えて、ITユーザーの頭数の数倍はあるとみられる端末向けのビジネスの成長余地は大きそうです。 三木 先に申し上げたように、パソコンに縛られていたデスクトップも、仮想化してしまえば理論的に世界中、どこのパソコンからでも自分のデスクトップを呼び出せますし、パソコンでなく、iPadのようなスマートデバイスに自分のデスクトップを呼び出すことも可能です。サーバーのほうは、多くの場合、データセンター(DC)に収容されていますので、当社では「ソフトウェア・デファインド・データセンター」というコンセプトを打ち出し、DCそのものを仮想化して運用しましょうと提案しています。
──「ソフトウェア・デファインド・データセンター」をもう少し補足してご説明いただけませんでしょうか。 三木 「デファイン」とは「定義する」といった意味で、つまりDCをソフトウェアで定義していく考えです。DCではサーバーやネットワーク、ストレージなどさまざまなIT機器が稼働していますが、これらを丸ごと仮想化してしまうわけです。こうすることでハードとソフトの管理を分離して、ハードウェアの制約に縛られずに、運用の自由度を高めることができる。DCはサーバーだけで構成されているわけではありませんので、やはりすべての機能をソフトウェアでデファインしていくべきだと考えています。
誤解を恐れずに言えば、ハードウェアは厳密に管理しなくていい。Amazonだろうが、自社の電算室だろうが、SIerに預けていようが、ユーザーは仮想化されたソフトウェアをネットワーク越しに管理すればいいわけです。端末側もパソコンやAndroid、iPhone、iPadなど、あらゆるハードの違いを意識しなくて済む。当社はサーバーを仮想化してハードウェアから切り離したことで、まさにそうした世界を実現しました。これをストレージやネットワーク、端末などに応用していくわけです。
ある日突然、埋めようのない差が開く
──三木社長は、かつてNECを脱サラしてVMwareの経営に参画されました。誰もが知る超大手企業から、当時まだ無名の外国のソフト会社へ転職されたわけですよね。不安ではなかったですか。 三木 ひと目見て、製品がよいことがわかりましたので、抵抗はありませんでした。ただ、外資系特有の四半期単位で結果を求められますし、正直、私は英語があまり得意ではありませんので電話会議は今でもしんどい。そうしたなかでも、日本は米国市場より2~3年立ち上がりが遅れることや、地場のパートナーとの「ロングターム・リレーションシップ」なしにはシェアは獲れないことを、何度も訴えました。社長兼最高執行責任者(COO)のカール・エッシェンバックとは前職時代から10年余りいっしょに仕事をしていて、彼は日本市場と日本の顧客のよき理解者なのです。こうした米本社トップの理解があったことがプラスになっています。
──米IT企業のなかでも最も成功したといっていい会社で仕事をされて、日本のITベンダーは彼らのどういった点を学ぶべきだとお考えですか。 三木 サーバー仮想化は「コスト削減」で普及に火がついたわけですが、これだけで削減できるコストはせいぜい全体の2~3割程度でしょう。日本のベンダーも、がんばればこの程度のコスト削減は提案できる。しかし、これがまったく新しいアーキテクチャによって、コストが20分の1、30分の1になったらどうなります? 絶対に太刀打ちできませんよね。これがITの本質的な力であって、ビジネスの観点からみれば脅威になります。米国企業はそういうことを平気で考えてくる。
これまでだったら何百台ものハードウェアを買い揃え、何か月もかかって構築しなければ得られないITリソースを、ものの数分で手に入れられる。しかも、手元のスマートフォンからこうした巨大なITリソースをいとも簡単に操ることができるようになれば、その効率性の高さは今の20倍、30倍ではきかないですよね。繰り返しになりますが、ITの本質は「コストを2~3割削減する」程度のものでは決してありません。逆にその程度のものと捉えていると、ある日、気づいたら埋めようのないほど大きな彼我の差が開いてしまい、キャッチアップできなくなってしまう。そうならないよう、ITの捉え方そのものから変えていくことが求められていると考えています。

‘まったく新しいアーキテクチャによってコストが20分の1、30分の1になったらどうなります?絶対に太刀打ちできませんよね’<“KEY PERSON”の愛用品>TUMIの鞄 ヴイエムウェアの三木泰雄社長のお気に入りグッズはTUMI(トゥミ)の鞄だ。自社の技術によって、デスクトップを自在にiPadに呼び出せるので、「出張にいくときはiPadをTUMIの鞄に放り込むだけ」とのこと。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「デスクトップの仮想化では、珍しく日本市場の立ち上がりが早い」と三木泰雄社長は手応えを感じている。だが、その反面、もしこれが昔ながらのシンクライアント的な情報セキュリティや、災害対策の流れだとすれば「注意が必要」とみている。日本では、いまだにパソコンの社外持ち出しを禁止したり、スマートデバイスも個人レベルでしか活用しきれていない企業の例が散見される。単に情報セキュリティの強化やITコストの削減の観点だけでITが評価されているのなら、「とてもじゃないが、世界のITの進化についていけない」。
ITはイノベーションによって、ある日突然、これまでの常識が覆る特質がある。禁止や抑制、コスト削減の道具としか捉えていないのであれば、「ITの本質を見誤る」と警鐘を鳴らす。国内IT業界を見渡してみても、この“ITの本質”にどこまで真剣に取り組めているか疑問が残る。ITは、ある日を境にビジネスのルールをがらりと変える“本当は怖いもの”なのである。(寶)
プロフィール
三木 泰雄
三木 泰雄(みき やすお)
1955年、愛媛県松山市生まれ、大阪府育ち。77年、大阪大学工学部通信工学科卒業。同年NEC入社。製造業向けのシステム販売を担うプロセス・CPGソリューション事業部長などを歴任。主に化学や繊維、医薬、食品業界の顧客を担当する。05年10月、ヴイエムウェア日本法人の社長に就任。
会社紹介
2012年の売り上げは、グローバルで46億ドル(約4600億円)と、前年より8億ドル(約800億円)ほど増えた。2003年当時の売り上げが1億ドル(約100億円)程度だったことからすれば、ここ10年で約46倍に増えたことになる。直近の世界全体の社員数は1万4000人で、うち国内は約320人。国内販売・技術パートナーは1500社余りで、日経225企業のうちヴイエムウェアを採用しているユーザー企業は約93%に上る。