デスクトップ環境を仮想化してサーバーに集約する「VDI(仮想デスクトップインフラ」のニーズが高まっている。容易な管理やセキュリティ対策で導入意欲が高まり、ITベンダーはOSのリプレース時に案件を獲得するチャンスが増えている。仮想と物理の混在環境で導入するユーザー企業が目立っているが、クライアント端末すべてをVDI化するケースが多くなれば、さらにビジネスチャンスが大きくなる。(文/佐相彰彦)
figure 1 「市場規模」を読む
2016年までの年平均成長率は25.3%
VDIを中心に国内クライアント端末の仮想化市場が伸びている。IDC Japanによれば、2011年の国内クライアント仮想化ソリューション市場は、前年比31.7%増の2493億円。12年に49.5%増の3728億円、16年に17.7%増の7715億円まで拡大し、11年から16年までの年平均成長率は25.3%になると予測している。
12年以降に仮想化関連の大規模導入や追加導入が増えると見込まれており、また、Windows XP機のパソコンを利用しているユーザー企業が、2014年のサポート切れによってOSをリプレースする際に仮想環境へと移行する可能性が高いことが要因として挙げられる。さらには、クラウドサービス型の「DaaS」への拡張、モバイル端末への仮想化などによって、市場は大きく拡大。今後、クライアント端末には、ユーザーが認識しないレベルで仮想化技術が組み込まれて浸透するとIDC Japanではみている。
国内クライアント仮想化市場の推移(2011年実績と2016年までの予測)
figure 2 「製品」を読む
導入や管理が容易な点をアピール
VDIを検討する企業のなかには、仮想環境を含めて新たに導入するところもある。そのため各メーカーは、導入が容易で導入後の管理もしやすいことを訴求している。とくに中小企業では、VDIを導入することを高い壁と意識しているようだ。そうした懸念を取り除くために、メーカーは、企業のクライアント端末を使う社員とシステム管理者の双方の業務を効率化できることをアピールしている。
例えば、シトリックスは「中小企業向けVDI」と銘打って「VDI-in-a-Box」を提供している。これまでは、共有ストレージやプロビジョニング、セッション管理などを行うサーバーを別に設置する必要があったものを、VDIの構築に必要な各機能をパッケージ化することで解決している。またヴイエムウェアは、最新版の「VMware View 5.1」でデスクトップのパフォーマンス状況を一元把握や、問題点の迅速な特定と解決、リソース使用率の最適化を改善した。
メーカー各社のVDI製品
figure 3 「導入率」を読む
2016年には導入率が3倍へ
IDC Japanによれば、VDIを含めたクライアント端末の仮想化導入率は2011年の時点で16.6%だったという。これが、12年に20.6%、16年には46.6%まで膨れ上がると予測している。
現在、VDI化に取り組んでいるユーザー層は主に大企業だ。ただ、ベンダー各社は大企業だけでなく、新規開拓を図るために中堅・中小企業(SMB)にもVDI化のアプローチをかけており、クライアント端末すべてをVDI化するための「準備」を提案するケースもある。
例えば、ネットワールドでは、「検討開始」「移行」「展開後」などユーザー企業がVDIのライフサイクルが把握できる米Liquidware Labs製のソフトをリセラー経由で販売しており、企業からの導入案件を獲得している。ユーザー企業の多くが「どこから始めればいいのか」「どのような手順で移行すればいいのか」などの課題を抱えているからで、さらには「既存OSを残すことができるのか」という質問もあるという。完全なVDI化というよりも、一部のクライアント端末だけVDI化するニーズが多く、システムの状況を把握しながらVDI化できる製品が受け入れられているようだ。ネットワールドではLiquidware Labs製ソフトを販社が売りやすく、VDIの普及につながる製品として期待をかけている。
クライアント端末の仮想化導入率の予測
figure 4 「ROI」を読む
ソフトの平均ROIは325.2%
VDIを含めたクライアント仮想化製品の導入は、ROI(投資対効果)が高い。IDC Japanによれば、クライアント仮想化ソフトのカテゴリ別ROIは平均で325.2%、投資の回収期間が13.3か月だったという。投資に対して3年間で3倍以上の効果をもたらし、およそ1年1か月で投資コストが回収できることを意味する。カテゴリ別のROIは、「プレゼンテーション仮想化」が378.5%、「アプリケーション仮想化」が376.3%、「イメージストリーミング」が323.6%、「ブレードPC」が339.9%、「その他のクライアント仮想化」が327.8%、「デスクトップ仮想化」が315.2%となった。
一人あたりの初期投資額は25万7837円、これに対する効果は67万6870円に相当するという。ユーザー企業内の社員がクライアント仮想化製品を使用する時間は、1日8時間勤務と想定した場合に52.0%(約4時間)。製品の導入によって得られたROIは、社員が26.8%、IT管理者/ITスタッフが28.5%、企業全体が19.3%としている。このような調査結果から、IDC Japanではクライアント仮想化を投資対効果の高い戦略的製品と捉えている。調査は、クライアント仮想化導入実績のある企業のIT管理者957人を対象にウェブ経由で回答を得たものだ。総じてクライアント仮想化ソフトウェアカテゴリー全区分でROIが高い結果となっている。
クライアント仮想化ソフトのカテゴリ別ROI