ユーザー利益の最大化を優先せよ
──確かに規制対応だけでユーザーのIT予算が消化されたとしたら、売り上げや利益を伸ばすための戦略的なIT投資予算が確保しにくくなり、結果的にユーザーのメリットは限定されてしまいます。 嶋本 Windows XPからのマイグレーションであれば、例えば仮想デスクトップへ移行して、手持ちのスマートデバイスから自分のデスクトップを、いつでもどこからでも呼び出せるようにするなど、従来のクライアント/サーバーシステムの置き換えでない提案をしてこそ、ユーザーから評価されるというものです。
折しも景気の浮揚感が強まっている時期ですので、ユーザーの間では、10年、20年と運用してきた古いシステムを刷新しようという機運が高まっています。規制対応のタイミングと合わせて、これまで保留されてきたシステム刷新を支援することで、ユーザーの利益を最大化することが大切です。コンサルティング事業部門には、こうしたユーザーからの相談が山のように来ていて、2013年9月末時点のコンサルティング事業セグメントの連結受注残高は前年同期比で17.6%も増えました。古くなった現行システムの分析に追われる日々を送っています。
──番号制度をはじめとする規制対応のほとんどは期限が決まっているので、かなりひっ迫した状況なのではないでしょうか。先日も情報サービス産業協会(JISA)が、技術者不足を懸念する提言を政府CIOに提出したばかりです。 嶋本 ぎりぎりになって仕様が決まるので、厳しいものがあるでしょう。期限と人手が限られるなかで、市況改善による繁忙感が加わることで、コストオーバーランが発生しやすい条件が揃う。当社も含めて、ユーザーに迷惑をかけることのないよう、受注が伸びているときこそ、気を引き締めて、一つひとつのプロジェクト管理を従前にも増して徹底していかなければなりません。
2013年を振り返ってみると、当社もデータセンター(DC)の一部電源障害や、東京証券取引所との接続障害など痛恨のミスをしてしまいました。今年は昨年より仕事量が増えることが期待できる反面、こうしたミスを事前に防ぐ取り組みをしていきたい。
産業分野から3社が主要顧客にランクイン
──御社は先進的でスマートな技術やサービスを駆使し、常に高収益を上げる「情報サービス業界のサラブレッド」と評される一方、「二大顧客依存」「金融一本足打法」と、ややもすれば顧客層が片寄っている点が指摘されます。このあたりの改善は進んでいますか。 嶋本 当社にとっての二大顧客は、野村ホールディングスとセブン&アイ・ホールディングスですが、直近の上期(2013年4~9月期)の売り上げをみると、大型案件が収束した反動減などによって両社での売り上げは減少しているのです。しかし、上期全体の売り上げは前年同期比4.7%増え、営業利益は13.1%増やすことができました。これは、二大顧客以外の顧客での売り上げが増えていることを意味しています。もう一つ、当社の受注高ランキングの上位10社のうち、この上期は産業系のユーザーが2社ランクインし、セブン&アイ・ホールディングスと合わせて計3社になりました。
依然として金融分野の売り上げは全体の6割弱を占め、流通や製造、サービスなど、産業分野の売り上げは2割余りではありますが、産業分野の売り上げは着実に増えつつあります。コンサルティング部門は産業分野の顧客開拓を積極的に進めており、システム構築(SI)部門とうまく連携させることで、金融分野への過度の依存を是正していくつもりです。
──グローバルビジネスはいかがですか。NTTデータや伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)などのライバル企業は、海外で積極的なM&A(企業の合併と買収)を続けています。 嶋本 当社の基本的な考え方は、「顧客の価値を高められるか否か」にもとづいています。つまり、NRIがもつ技術やサービスで、その顧客のビジネスを成功に導くことができるかどうかにかかっている。顧客価値を絶対に高められると確信したユーザーに向けて重点的に提案を行っていきますので、海外では業務の流れが比較的よく理解できている日系ユーザーがどうしても多くなってしまいます。M&Aにしても、ターゲットとする顧客があって、その顧客価値を高められるかどうかで判断しています。
また、中国地場のユーザー企業の価値を高めるには、当社だけで臨むよりも、オフショア開発を通じて当社のことをよく理解しているパートナーや、地場の商慣習や業務ノウハウをもっているパートナーと組まなければ、うまく力を発揮できない。ASEANなど、他の市場でも同様で、当社の価値を認めてくれるパートナーや顧客を連携して、顧客価値の向上につなげていきます。

‘当社の基本的な考え方は、「顧客の価値を高められるか否か」にもとづいている。つまり、NRIがもつ技術やサービスでその顧客のビジネスを成功に導くことができるかどうかだ。’<“KEY PERSON”の愛用品>「乾坤一擲」の額 「中学校の同窓会での歓談が縁で、元同級生の一人に書いてもらった」(嶋本正社長)ものだ。シンクタンク(研究所)の「研」と、コンピュータの「コン」が合わさって、大勝負をかける意味が込められている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
嶋本正社長に2013年で最も印象に残ったことを問うたところ、即座に「STARが、野村證券でも問題なく動いたことだ」と返ってきた。STARとは、野村総合研究所(NRI)が証券業界向けの共同利用型サービスとして提供しているバックオフィスサービスを指す。業界最大手の野村證券がユーザーの1社として加わったことで、証券業界向けのシステムにおける事実上の「業界標準ビジネスプラットフォーム」の地歩を固めた。
NRIは、ほかにも金融リテール営業支援や富裕層向けラップ口座管理システムなどの共同利用型サービスに力を入れており、「STAR」が野村證券参加後の2013年を通じて問題なく稼働したことで「共同利用型サービスの一段の拡充を推進することができる」(嶋本社長)という自信や裏付けが得られた。NRIではかねてから「所有から利用」の潮流をリードするかたちで、自らのIT商材の共同利用型を推進。2014年も金融や産業、グローバルのあらゆる局面でサービス化を推進していく考えだ。(寶)
プロフィール
嶋本 正
嶋本 正(しまもと ただし)
1954年、和歌山県生まれ。76年、京都大学工学部卒業。同年、野村コンピュータシステム(現野村総合研究所)入社。01年、取締役情報技術本部長兼システム技術一部長。02年、執行役員情報技術本部長。04年、常務執行役員情報技術本部長。08年、専務執行役員事業部門統括。08年、代表取締役兼専務執行役員事業部門統括。10年4月1日、代表取締役社長に就任。
会社紹介
野村総合研究所(NRI)の今年度(2014年3月期)連結売上高は前年度比3.1%増の3750億円、営業利益は同11.3%増の490億円の見通し。長期経営展望「ビジョン2015」で示した経営指標は売上高を年率7%ずつ増やしていって、営業利益率13%以上を確保する力強い事業ポートフォリオの実現だ。2014年はラストスパートに向けた「最終コーナー」と位置づけ、“的確な手綱さばき”でビジョン達成に迫っていく。