Dynamics対応の第一号案件に
──なるほど、オリジナルパッケージソフトの「Synシリーズ」は、地域ビジネスをもとにつくりだしたもので、その背景には日立グループの技術的な裏づけがあるという構図ですね。 森 そうです。地域ビジネスだけでは、さすがに1000人規模の技術者の確保は難しく、新しい技術の習得にも時間がかかる。日立と連携した首都圏大規模案件をこなしつつ、ここで得た技術や新しいビジネスモデルを、人員の異動も含めて迅速に地域へ展開していきます。さらに主力製品となった「Synシリーズ」のように、例えば生産計画系で競争力を得られそうだということになれば、製品化に乗り出し、国内外に展開します。
──「国内外」とおっしゃいましたが、海外でどうやって売るのですか。 森 先ほどもお話ししたように、まず日系製造業ユーザーが海外へ積極的に進出していますので、そうしたユーザー層にニーズがあります。そして、もう一つがMicrosoftのERP「Dynamics」との連携です。日立ソリューションズグループの海外戦略の柱の一つと位置づけているのがDynamicsであるのはご存じかと思いますが、今、このDynamics上でSynシリーズの主要なモジュールを稼働できるよう開発を進めているところです。
日立ソリューションズグループは、自前で海外法人を立ち上げたり、事業譲渡やM&A(企業の合併と買収)などを駆使しつつ、今や北米や中国、インド、欧州に主要拠点を展開し、海外で勤務する社員はすでに1000人規模に達しています。
Microsoftのお膝元である北米拠点にDynamics事業の本部を設置し、日立グループの業種・業務ノウハウをテンプレートとしてDynamics上に搭載します。この設計作業を北米で行い、実際の開発はインドの開発センターで行うというグローバルデリバリ体制を構築しています。生産計画系のパッケージを中心としたSynシリーズは、日立ソリューションズグループの商材でDynamics対応を決めた第一号案件です。
──メジャーERPの一つであるDynamicsのモジュールとして展開すれば、世界のDynamicsユーザーにとって、導入の敷居はぐっと下がりますね。 森 実際、日本の製造業で培った管理システムは、製造業のメッカになりつつある中国やASEANのアジア主要市場で、とてもニーズが大きいのです。これまでのように、製造工程を請け負うスタイルではなく、自ら自国の市場で自社製品を販売する割合が高まれば高まるほど、生産管理のレベルをITによって引き上げる必要が出てきます。
農業や水産業への応用を加速
──生産計画系以外での自社パッケージソフト事業は、どうお考えですか。 森 例えばある製品をつくるとき、必ず需給予測にもとづいた生産計画を立てなければなりません。つくりすぎたら過剰在庫で利益を失い、在庫が少なすぎれば機会損失につながってしまうからです。当社の担当地域である東北や北海道は農業や水産業が盛んな地域ですので、なんとかこのノウハウを応用できないかと考えて、2013年4月に開発したのが農業分野向けクラウドサービス「AgriSUITE(アグリスイート)」です。
農産物は市場価格が最も高いときに出荷することで収益を得やすくなります。価格変動を予測しつつ、生産した農産物を最も適切なタイミングで出荷するには、当然ながら需要と連動した適切な生産計画の立案が不可欠です。この点に、当社の生産計画の技術が存分に生かすことができると判断しました。
──計画系が農業に生かせることはわかりましたが、そもそも価格変動を予測できるのですか。 森 実はそこが当社AgriSUITEのキモで、天候や生育状況など過去のデータを蓄積して、ビッグデータ的アプローチで分析することで需給状況を予測します。データ蓄積が十分でなければ予測の正確性に欠けますので、地域の農業水産関係に強い大学や研究機関などと密接な連携をしつつ、日々、改良を続けています。AgriSUITEの当社若手開発者のなかには、自分の家の庭を畑にして、どうしたら生産者にとって使いやすい製品になるのか、自ら農業を実践するものも出てきているほど熱心に取り組んでいます。
生産物を最適なタイミングで市場に投入するには、生産者自身が出荷のタイミングを完全に制御してはじめて成り立ちます。水産業の養殖でも同じことがいえることから、AgriSUITEの水産業向けバージョンも、目下、研究開発を進めているところです。これまで水産卸などの流通向けのシステム開発には実績がありますが、養殖は初めての取り組みですので、産学連携や、地元の養殖業者の方たちの協力を得ながら、開発を進めています。
これら農業、水産系のパッケージソフトも、Synシリーズと同様、国内外に積極的に展開していきます。Dynamicsに対応させるかどうかはまだ検討中ですが、日立ソリューションズグループはすでに欧米アジア市場向けの販売チャネルをもっていますので、まさにこれから農業・水産の近代化を推し進めようとしている新興国など海外成長市場に向けた拡販も十分に可能です。

‘農産物を最も適切なタイミングで出荷するには、需要と連動した適切な生産計画の立案が不可欠です’<“KEY PERSON”の愛用品>シャイニーの日付印と鉛筆 社会人になった頃から文具にこだわるようになった。最近の愛用品はシャイニーの日付印と、芯ホルダータイプの鉛筆。「名刺や資料に日付印を押して整理している」と、お気に入りの様子だ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
日立ソリューションズ東日本の森悦郎社長は、日立製作所で第一線のSEとして活躍したのち、日立ソリューションズでは長らくプロジェクト管理の要職を歴任してきた人物だ。それだけに、大規模プロジェクトの管理進行には造詣が深く、日立ソリューションズ東日本社員のうち約6割が従事する日立グループと共同での大規模プロジェクトのトップとして、まさに最適な経営者といえる。
そんな森社長が、2012年4月、仙台の本社に着任して感じたことが、およそ30年前の創業時から「地域から全国、そして世界へ」という夢をもち続けて仕事に従事している社員の姿だった。「歴代社長も創業時からの夢をずっと大切に育ててきた」ことを知るやいなや、森社長は地域のユーザーとともに開発してきた自社パッケージをさらに発展させ、グローバル市場への進出を加速することを決意。地域会社である日立ソリューションズ東日本の存在感を高めて、ユーザーの期待に応えていく考えだ。(寶)
プロフィール
森 悦郎
森 悦郎(もり えつろう)
1952年、愛知県生まれ。75年、日本大学法学部卒業。同年、日立製作所入社。98年、情報システム事業部技術部長。05年、情報・通信グループ経営戦略室販売計画本部長。06年、日立ソフトウェアエンジニアリング(現日立ソリューションズ)プロジェクトマネジメント統括本部長。11年、常務執行役員。12年4月、日立東日本ソリューションズ(現日立ソリューションズ東日本)社長。
会社紹介
日立ソリューションズ東日本は、東北・北海道地域を担当する日立ソリューションズの地域子会社である。2014年3月期の年商は約190億円の見込みで、社員数はおよそ1000人。うち600人が首都圏における日立グループと連携した大規模プロジェクトに従事し、約300人が地域ビジネス、約100人が独自のパッケージソフトやサービスの開発を手がけている。