リーマン・ショックを乗り切って軌道に
──御社の2013年12月期の海外売上比率は9.5%です。前年同期の2.6%と比べ、3倍以上の成長をみせています。ベンダーにとっては、いくらすぐれた製品があっても、成功のカギを握るのは販売の仕方だと思います。御社は海外でビデオ会議をどういうふうに売り込んでおられますか。 間下 現時点をみると、海外では直販がメインになっています。市場環境が整っている国だと、現地の代理店に販売を任せてもいいのですが、現状のアジアでは、市場づくりのための取り組みが必要です。だから、まずは当社の営業部隊を動かして、提案活動を行います。スタッフは、もちろん現地採用の人材です。テレアポから入って、積極的にターゲット企業を攻めています。
アジアは、まだセキュリティの意識が日本ほど高くないこともあって、受付を突破して営業訪問につなげられる確率が高い。10社に電話をかければ、1社はアポが取れるという具合です。中国では、自動車メーカーに当社システムを採用していただくなど、大型案件を獲得しています。こうした実績をパターン化して、横展開に生かしていきたい。
アジアでの事業を本格的に伸ばすために、時間が必要だと思います。今でも、ウェブ会議の必要性を感じてもらえず、提案が受注につながらないなど、苦労することが多いです。しかし、アジアのウェブ会議市場は未開拓のブルーオーシャンです。誰よりも早くその開拓に取り組みたいので、販売体制を強化し、現地でパートナーと手を組みながら、当社の存在感を高めていきます。
──今は海外事業が軌道に乗り、ビジネスが順調ですが、ここに至るまでは、たくさんの苦労を経験してこられたと思います。 間下 そうですね。(以前、本紙の取材に応じた)2010年は本当にきつかったです。リーマン・ショックで経営状況が悪化して、銀行との交渉も難航し、個人でお金を借りて成長基盤の構築に投じる時期がありました。
当社は、昨年末に東京証券取引所マザーズに上場しましたが、実は、2010年も上場の準備を進めていました。お客様やパートナーに対して、上場していることは「信用」の証となり、事業拡大のために絶対に必要だと思います。しかし、売り上げの落ち込みによって、上場をいったん中断せざるを得ませんでした。そのとき、経営者として、非常にしんどい思いをしました。今から考えれば、当時は上場をしなくてよかったと思いますけれども……。
販社にクラウドの可能性を訴える
──そのときに上場しなくてよかったというのはなぜですか。 間下 上場をすれば、会社に対する信用が高まる反面、投資家からいろいろな要請を受けて縛りが強くなり、事業展開の大胆な舵取りが難しくなるからです。リーマン・ショックをきっかけとして、顧客ベースをクラウドに移し、さらに、思い切って海外で事業基盤をつくったのは、上場していなかったからこそできたことだと捉えています。
そういう意味で、2010年ではなく、今のタイミングで上場したのは、本当によかったと思います。
──1部上場も目指しておられますか。 間下 もちろん、目指します。企業を成長させるうえで、自然な流れだと考えています。
──国内では、今後、どのような施策で事業の拡大を図るのでしょうか。 間下 現在、進めているのは、業界に特化したかたちでウェブ会議を展開することです。遠方の治療所の先生が中央病院の専門医と情報を共有する医療機関や、遠隔から製造現場に指示を出す工場など、業種によってウェブ会議の使い方が違います。だから、製品をカスタマイズして、各業種のニーズに対応していきます。
この3月に、オンラインで講座やセミナーをライブ配信し、課金もできるサービス「V─CUBE マーケット」を投入しました。ウェブ上で講座を開く塾の講師などをターゲットにしていて、今、提案を進めているところです。このサービスを使えば、場所を問わずに生徒やセミナー参加者を募集し、ビデオ会議を通じて、全国規模で事業を展開することができます。反応がいいので営業活動に力を入れたいと思っています。
──国内と海外の売り上げに関して、どのような構成を目指しておられますか。 間下 海外売上は現在、9.5%ですが、2014年までに20%に伸ばして、将来は40%まで引き上げたい。海外では今後、間接販売網も築き、売る気のある中間管理職がいるパートナーをいかに獲得するかがポイントになるとみています。海外は、日本よりも人件費が安いので、海外売上高が伸びれば、伸びるほど利益率が高くなるといううれしい副次効果があります。
──国内でもパートナー販売の強化に力を入れておられますね。 間下 日本は市場環境が整っているので、まさにパートナーを活用できるマーケットだと思います。間接販売の比率を現在の40%から、90%に拡大することを目標に掲げています。クラウドは、月額課金なので、毎月入ってくる金額は小さいけれども、その積み重ねに大きな商機がある──。販社にこう訴えて、当社のクラウド製品を積極的に提案していただくよう促しています。

‘アジアには、トップダウンで決断する文化が深く根づいています。私が現地のキーパーソンと面談して、トップ層に動いてもらうことによって、案件が迅速に進むようになります。’<“KEY PERSON”の愛用品>「リモワ」のスーツケース コンパクトで収納力にすぐれる、出張のお供。間下直晃社長はシンガポール在住で、飛行機で移動する距離は年間50万kmに及ぶそうだ。「PCが取り出しやすく、膝の前に置けば机代わりになる」のが気に入っているという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
東京とシンガポールの時差はマイナス1時間。朝9時に、ブイキューブの日本本社で仕事が始まる時刻は、シンガポールでは8時。朝ご飯を終えたばかりの間下直晃社長はビデオ会議を使って、自宅から東京にいる経営メンバーと会議し、その日のタスクを決める。「昼頃に出社し、夕方に家に帰って自宅で作業する」。ビデオ会議などのITツールを活用したワークスタイルの変革を、間下社長は身をもって実現している。
需要のある製品を未開拓の市場で提供する──。ブイキューブが事業を伸ばしている背景には、こうした合理性のあるビジネスモデルがある。成功の裏には、間下社長の苦労をうかがうことができる。業績が悪化したときは「人を切るという手もあった」という。しかし「それでは成長ができない」。間下社長はそう判断し、海外展開の本格化に踏み切った。今後、海外の売上比率を40%に引き上げる。アジア市場をエンジンにして、事業拡大に意欲を示している。(独)
プロフィール
間下 直晃
間下 直晃(ました なおあき)
1977年、東京都生まれ。2000年3月、慶應義塾大学理工学部卒業。02年3月、同大学院理工学研究科開放環境科学専攻を修了。大学在学中の98年10月に、ウェブサイト制作などを手がけるブイキューブインターネットを設立し、CEO(最高経営責任者)に就任。その後、社名をブイキューブに変更し、ウェブ会議システムの展開に切り替える。2013年1月に、活動拠点をシンガポールに移し、ビデオ会議を駆使して、アジアを中心としたグローバル展開を統括する。
会社紹介
テレビ会議とウェブ会議の開発・販売を手がける。1998年、ウェブソリューションサービス事業のブイキューブインターネットとして設立された。2002年、社名をブイキューブに変更。2013年12月、東京証券取引所マザーズに上場した。13年12月期の売上高は前年同期比25.9%増の25億2500万円、営業利益は162.9%増の2億7600万円。従業員数は220人。東京・目黒に本社を置く。米国やシンガポール、マレーシア、中国などに海外拠点をもつ。