一社独占で勝ち残るとは思っていない
──あるSIerから、最近は、AWSから違うクラウドへの移行案件が出始めているという話を聞きました。最大の要因は、価格だと思います。その意味では、今年は3月にグーグルが大幅な値下げを断行しました。また、マイクロソフトも、価格では負けないという方針です。競合企業の動きは、気になりませんか。 長崎 周りの会社に目を配ってしまうと本質を見誤る可能性があります。重要なのは、お客様が何を求めているのか。どのような理由でAWSをお使いいただき、どうしたらお客様のビジネスに貢献できるのかに焦点を当てています。
──とはいえ、グーグルが大胆な値下げを決めたら、AWSも追随したではありませんか。 長崎 値下げはグーグルとは関係ありません。サンフランシスコで開催した3月のAWS Summitで発表することが、もともと予定されていました。これまでAWSは値下げを42回行いましたが、競合企業のプレッシャーではなく、利益をお客様に還元するというビジネスのフィロソフィーにもとづいて実施しています。
クラウドのビジネスでは、ある程度のスケールと経験が必要です。AWSには8年の経験があり、その期間で培ったノウハウや、お客様との対話のなかで得た知見があります。価格についても、アマゾン・ドット・コムのローマージンで、ハイボリュームのビジネスオペレーションで培ったノウハウが生きています。
おそらく将来は、何社かがクラウド市場で勝ち残ると思っています。われわれが一社独占で勝ち残るとは思っていません。お客様にとっても、選択肢はたくさんあったほうがいいですよね。
常に期待以上のサービスを展開する
──グローバルでサービスを提供しているAWSにとって、日本はどのようにみえるのですか。 長崎 まず、重要な地域の一つであることは間違いありません。AWSのリージョン(データセンター群)は世界に10拠点ありますが、1年目の成長率という観点では日本リージョンが一番伸びています。それだけお客様の意識も高いということです。
──以前は、日本ではクラウド化が遅れているといわれていました。 長崎 日本は遅れていないと思います。企業のIT基盤そのものをすべてAWSにもってくるという動きが、グローバルで出てきています。例えば、定額ネット動画配信の米国ネットフリックスの事例が有名ですが、日本の企業も同じ。多くのお客様が、3年から5年のスパンで社内の全IT基盤をAWSに移行する計画を進めています。
──デベロッパーコミュニティのJAWS-UG(AWS User Group-Japan)も熱い。異様なほどの盛り上がりをみせています。なぜにそれほど盛り上がっているのでしょう。 長崎 熱いですよね。デベロッパーのコミュニティがあるのは、とても心強い。熱い理由はなんでしょうね。お客様が必要とするサービスを矢継ぎ早に出していく、そういったAWSの姿勢と関係しているのかもしれません。
──新しいサービスがどんどん出てきているので、技術者がキャッチアップするのは大変じゃないですか。 長崎 確かに大変です。ただ、そこがAWSの強みだと思っていますので、そのスピードを緩めることはありません。あるお客様からは、「AWSは本当にかゆいところに手が届く。こういったサービスがほしいと思っていたら、数か月後に出てきた」との言葉もいただいています。われわれとしては、お客様の期待値を常に上回っていくようなかたちで、サービスを展開していきたいですね。

‘ビジネスの未来を担うようなITのあり方の変革が、AWSというソリューションによって実現できている。’
眼光紙背 ~取材を終えて~
JAWS-UGは、地域に根差した活動をしており、その数は40を超える。開発者コミュニティは都市部で活動するのが一般的だが、地方で成り立つところに、AWSの魅力やパワーを垣間見ることができる。
ただ、JAWS-UGの異様と思えるほどの盛り上がりぶりが気になる。中に入れば楽しいが、出遅れた者にとっては近寄りがたいのではないか。長崎社長はその意見に異を唱えるが、いつの時代もコミュニティの維持は大きな課題だった。
とはいえ、今は確かに盛り上がっている。AWSと同じ分野のクラウドベンダーが、同等以上のクラウドサービスを提供できるとしても、JAWS-UGを超えるデベロッパーコミュニティを形成できなければ勝ち目がない。競合ベンダーが、AWSのサービスだけを気にしているうちは安泰だ。
長崎社長には「競合ベンダーが気になるはず」を意味する質問を言葉を変えながら何度も聞いたが、その質問に関する明確な答えはとうとう出てこなかった。どこまでその勢いが続くのか。機会があるごとに同じ質問を投げてみたいと思う。(弐)
プロフィール
長崎 忠雄
長崎 忠雄(ながさき ただお)
1969年、福岡県生まれ。93年、米カリフォルニア州立大学ヘイワード校理学部数学科卒業。同年、西武ポリマ化成入社。海洋資材の海外販売に従事。98年、デル入社。00年、F5ネットワークスジャパン入社。06年、同社代表取締役社長兼米国本社副社長。11年8月、アマゾン データ サービス ジャパン入社。12年2月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
アマゾン データ サービス ジャパンは、パブリッククラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」の日本における運営会社である。AWSの東京リージョン(データセンター群)設立は2011年3月。海外よりも遅れているとされていた日本のクラウド市場を開拓し、競合サービスが乱立する現在でも圧倒的な存在感を放っている。