エプソン販売がセイコーエプソンと共同で今年5月に発表した「スマートチャージ」は、プリンタ市場に大きなインパクトを与えた。ポイントは二つある。一つは、プリンタ機器の貸与、消耗品、保守サービスをセットにして、初期費用ゼロのサブスクリプションサービス化し、箱売りを完全に脱したビジネスモデルを世に問うたこと。そして二つめは、一般オフィス向けプリンタ製品の「本流」ともいえるコピー機ベースのレーザー複合機に対して、インクジェット製品で真っ向勝負を挑む姿勢をはっきりと打ち出したことだ。直後の6月にエプソン販売のトップに就任した佐伯直幸社長は、この新たなチャレンジを成功に導き、全社の成長のエンジンにしたいと意気込む。
コピー機ベースの複合機に対抗
──今年前半は、消費税改正、Windows XPのサポート終了という大きなイベントがありました。今期(2015年3月期)への影響はいかがですか。 佐伯 プリンタの消耗品などは、3月に駆け込み需要があったので、第1四半期はその反動で厳しい状況になると想定していました。しかし結局、4月こそ落ち込んだものの、その後は盛り返し、第1四半期トータルでは、前年比プラスとなって計画もクリアできました。良好な出だしだったと思いますし、全体的に、市況は上向いていると感じています。製造業を中心に設備投資が進み、日本経済自体が上向いていることに加え、PCは3月末の注文残もあり、それが第1四半期に流れました。プロジェクターも、国が教育環境ICT化を本格的に推進していることで電子黒板の需要が膨らんでいて、極めて好調です。通年では、前期に駆け込み需要があった第4四半期でどれだけ追い込むことができるかが勝負になるでしょう。
──今期は、何といっても「スマートチャージ」のサービス開始がエプソンの大きなトピックです。 佐伯 近年、ビジネス用途にインクジェット製品を訴求してきましたが、徐々に浸透はしているものの、正直、中だるみの感は否めませんでした。そこで、コピー機ベースのレーザー複合機の競合となり得るインクジェット複合機を新たに開発して、スマートチャージという導入方式と合わせて市場に投入しました。つまり、当社が従来メインで扱ってきたプリンタベースのインクジェット製品よりも高性能と目され、OA機器のメインストリームとなっているコピー機ベースのレーザー製品の領域に、正面からぶつかることにしたわけです。
当社にとっては、非常に大きな飛躍の可能性を秘める新しい事業で、気合いを入れています。この分野で失うものは何もないし、市場も大きい。全社を挙げて攻勢をかけているところです。
──箱売りを脱した「初期費用ゼロの定額従量料金サービス」というビジネスモデルもインパクトがあります。やはり、低コストを訴求してレーザー機のシェアを奪っていくイメージですか? 佐伯 コストはもちろん重要な要素ですが、それだけではありません。インクを改良したことで、より水に強く、裏写りしにくくなりましたし、専用機は給紙容量や印刷スピード、耐久性もビジネスの要件を満たす機能を備えており、これが非常に重要だと思っています。そういうトータルの価値を顧客に提示できる販売店とともに、拡販に取り組んでいくことになります。
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