工場向けIoEを「パッケージ化」
──御社が強みとするシスコシステムズ(シスコ)をはじめ、多くの外資系ITメーカーで社長の交代が行われています。川口社長は、こうした動きをどう捉えておられますか。 川口 日本市場は、予想以上に伸びが鈍いので、外資系メーカーの日本法人は事業の拡大に苦戦しているのが実際のところです。しかし、米本社は「成長」を絶対視する傾向が強いので、日本法人の業績が悪く、目標達成ができなかったら、トップを置き換える。そういう動きだとみています。当社は、このところ、ネットワングループのシンガポール現地法人を通じて、メーカーのアジア太平洋(APAC)部門との直のコミュニケーションを強化し、どんな対策で販売の活性化につなげられるかについて、一緒に知恵を絞っています。
──この11月、シスコの平井(康文)社長が退任し、その後暫定的に日本法人の社長に就任したアーヴィン・タンさんは、APAC/日本を統括するプレジデントでもあります。 川口 実は、私がシスコ(日本)の執行役員を務めた経験があって、タンとは古くからの知り合いです。先日、タンと話したときに、彼が日本での事業拡大に関して当社に大いに期待してくれていることを実感し、その期待にしっかり応えたいと考えています。
──シスコが提唱する「Internet of Everything(IoE)」(すべてのモノがインターネットでつながって情報を交換し合う仕組み)を御社としてどう事業化していこうと考えておられますか。 川口 シスコは、今年10月、日本のベンチャー企業で生産現場向けのシステム設計やソフトウェア開発を手がけるsmart-FOAに出資し、同社を積極的に支援することを決めました。シスコが日本の企業に出資するのは13年ぶりだと聞いています。当社は、シスコのルータなどをsmart-FOAのソフトと組み合わせて、工場ラインの情報を分析して生産効率の向上に結びつけることができるパッケージとしてSIerに提供しようとしています。現在、一部の工場でパイロット稼働を開始しており、その経験を踏まえて、来年から本格的な営業活動を展開していきます。
──それに向けて、直近でどのような課題がありますか。 川口 IoEという概念を事業化するために、製品のラインアップを拡充する必要があると捉えています。センサやカメラなど、データを入手するための端末を揃え、IoEのソリューションに組み込んで提供していくつもりです。
売上比率25%へ、存在感を発揮
──10月に社長に就任されたとき、社員にどんなメッセージを送りましたか。 川口 下期のキックオフ会のとき、当社はネットワーク機器を中心に取り扱っていることを引き合いに出して、「仕事においても『ヒューマン・ネットワーク』を築くことが重要だ」と、みんなに伝えました。今後のグローバル展開に備え、国内だけではなく、海外も視野に入れて、人脈をつくることが欠かせません。グローバル人材の数を増やし、当社のビジネスを「第二のステージ」に導きたいと思います。
──御社は現在、来年4月に始まる中期経営計画を策定している最中とうかがっています。どんな方針で事業拡大を図っていこうと考えておられますか。 川口 おかげさまで着実に業績を伸ばし、今年度の売上目標として220億円を掲げています。グループでの売上比率は、設立当初は約4%しかなかったのですが、ここにきて10%以上に高まり、やっと足元がしっかりしてきたと捉えています。この勢いを生かし、グループ内の売上比率を早いうちに20~25%に引き上げたい。私は、NOPという、ネットワンシステムズの営業会社を率いながら、海外に関しては親会社とも密に連携し、両社の動きを融合してグローバルでの事業拡大につなげることを構想しています。
──海外、とくにASEANで、可能性が大きい市場として着目しておられる国はありますか。 川口 多くの経営者がそう捉えているように、私もインドネシアやベトナムは非常にポテンシャルが大きいと思います。もう少し先を見据えれば、ミャンマーも視野に入ってきます。
──ミャンマーではNTTデータやNTTコミュニケーションズが先駆けて市場開拓に取り組んでいて、NTTデータがミャンマー政府から貿易・通関システムを受注するなど、実際に案件も獲得しています。NTTデータなど、大手SIerをお客様とする御社にとって、商機がありそうですね。 川口 そうですね。具体的な話はできませんが、おっしゃる通りです。
──いよいよ年の瀬が近づいてきました。来年に向けたメッセージを聞かせてください。 川口 当社のビジネスをみると、これまで一方通行でSIerに製品を提供することが多かったけれども、今後はSIerと一緒になってソリューションをつくるスキームを定着させ、お互いのビジネスの活性化を図りたいと思っています。

‘今後のグローバル展開に備え、国内だけではなく、海外も視野に入れて、人脈をつくることが欠かせません。グローバル人材の数を増やし、当社のビジネスを「第二のステージ」に導きたいと思います。’<“KEY PERSON”の愛用品>初ボーナスで購入した腕時計 30年ほど前、社会人になって初めてのボーナスで購入した「Grand Seiko(グランドセイコー)」の腕時計。当時流行った華やかなデザインではなく、シンプルで優雅な造形がお気に入りだとか。「先月、オーバーホールに出して、今も愛用している」そうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
やや華奢な感じの川口貴久社長は、堂々たる雰囲気を醸しだす齋藤普吾・前社長とは対照的な印象を受ける。海外でのビジネス展開に関しても、両氏の“温度差”を感じる。しかし、積極的に海外でSIerをサポートする体制を築いて事業領域を広げるという川口社長の構想は、グローバル時代にあって実に堂々としたものだ。
ネットワンパートナーズが本社を構えるのは、旧東京中央郵便局の敷地に建設された「JPタワー」の一角だ。川口社長の部屋からは、様子が大きく変わっているJR東京駅を見下ろすことができる。シスコが提唱する「IoE」の事業化に取り組んでいる川口社長にとって、2020年の東京五輪は、IoEを普及させるための「一つのビッグイベント」だそうだ。スマート工場やスマート病院、スマート交通など、街のあらゆる場所でITが動いて、人と人がつながる活用シーンを想定している。
二代目の経営トップとしてNOPを「次のステージ」に導こうとしている川口社長。グローバルとIoEが成長のけん引役を果たしそうだ。(独)
プロフィール
川口 貴久(かわぐち たかひさ)
1953年、東京都生まれ。1976年、東京エレクトロンに入社。その後、兼松エアロスペース代表取締役やシスコシステムズ執行役員を経て、2008年にネットワンシステムズに入社。09年、ネットワンパートナーズ取締役兼常務執行役員に就任。14年、ネットワンシステムズ経営企画本部グループ事業推進室の担当執行役員として、ネットワングループのグローバル戦略の立案・実行に携わった。14年10月から現職。
会社紹介
ネットワンシステムズのグループ会社として、ネットワーク機器をはじめとするIT製品のディストリビューション事業を手がける。提案先は、大手・中堅のシステムインテグレータ(SIer)。SIerを通じて、主に直販を手がける親会社のネットワンシステムズがアプローチできない市場の開拓を狙う。設立は2008年。社員数は204人(2014年10月現在)。東京・丸の内に本社を構える。