グローバルの本格化はなお課題
──業績は順調に伸びているようですが、経営トップとして感じておられる課題もあるのでは? 遠藤 一番の課題と捉えているのは、グローバル展開がプロセスとしてまだ落ち着いていないということです。当社は海外事業を拡大するために、シンガポールにグローバルセーフティ事業部を開設し、さらには、ビッグデータやSDNといった海外でニーズが旺盛な商材を揃えつつあります。
しかし、これらの施策を海外の各地域で事業として確実な成長につなげるには、やるべきことがまだクリアになっておらず、模索しているというのが正直なところです。
──御社は2014年の7月に、元経済産業審議官の岡田秀一さんを副社長として迎え入れ、グローバル事業のトップに据えました。岡田さんは、霞が関時代に日本とアジア諸国との経済協力に携わった実績をもち、海外との太いパイプを築いてこられたとうかがっています。就任からおよそ半年が経ちましたが、海外展開に関して“岡田さん効果”はありましたか。 遠藤 岡田は非常に積極的に動いており、海外を回って現地で商談を詰めています。直近での成果として、エボラ出血熱の拡大を防ぐべく、アフリカ諸国の空港に体温を測るための機器をNECが提供させていただいた例があります。
──遠藤社長は、2014年の秋に、南アフリカやタンザニアなどに出張し、ICT提供の可能性について視察されたと聞いています。アフリカの市場開拓はまだこれからだと思いますが、海外展開の重点地域を教えてください。 遠藤 日本と地理的・文化的距離が短いこともあって、直近で最も重視しているのは、ASEAN諸国をはじめとする「アジア」です。アジアは、経済の成長が著しく、物理的なインフラの整備とともに、例えば、空港で顔認証によって入出国を管理するなど、ICT活用に関する需要が急速に高まっています。アジアに次いで、中期的な重点地域と位置づけているのは、中南米、とくにメキシコです。岡田と一緒に戦略を練って、早いうちに市場開拓に向けて動きたい。
しかし、冒頭でお話ししたテキサス州で水道を管理する事例が示すように、先進国も決して、社会インフラソリューションに対するニーズがないというわけではありません。物理インフラの更新時期を見計らって「ICTでつくり直そう」というふうに提案すれば、米国や欧州でも商機をつかむことができると捉えています。
アジアの次に、中南米に目を向ける
──ちなみに、中国についてはいかがですか。重慶市で子会社を立ち上げ、クラウドサービスを活用したスマートシティづくりを進めておられるとうかがっています。 遠藤 重慶での取り組みは、進めてはいるけれども、事業拡大につながるのは、もう少し時間がかかるような気がします。
中国はご存じのように、市場の規模が大きい反面、規制や価値観の違いなど、ビジネスを展開するにあたって、さまざまな障壁があります。そのため、当社は中国の市場にまだ十分に入り込めていないのが実際のところです。しかし、中国市場を軽視するわけにはいきません。だから、難しさを承知のうえで、中国を重点領域と位置づけて、投資を慎重に決めながら、医療・ヘルスケア分野などで市場開拓に注力していきます。
──2015年度(16年3月期)は、現中期経営計画の最終年度ですし、次の中期経営計画の策定に向けた準備期間でもあると思います。新年の重点施策についておたずねします。 遠藤 社会インフラソリューションに力を入れるという意味で、今後も事業のベクトルは変わりません。2015年に重点的に取り組むのは、エンジニアの強化です。新たに技術者を投入し、国内外での提案力を磨きたい。
次の中期経営計画にどんな施策を盛り込むかに関しては、2015年、社会インフラソリューションの領域で、どのくらい実績を上げることができるかが決め手になります。
NECが決意を固めて、全力を挙げて、本当に社会インフラソリューションに舵を切ることができるのか──。
新年は、社員に「本気」を定着させて、当社の実力を確認するための重要な年になります。そして、その確認ができたことを踏まえて、新しい中期経営計画の内容を決めます。
──ちなみに、新しい中期経営計画は、引き続き遠藤さんが社長を務めるかたちで実行していくつもりですか。 遠藤 さあ、人事のことなので私にはわかりませんが(笑)、とにかく今の方針をしっかりと根づかせ、新しいNECをつくるための基盤を固めることを最大のミッションと捉えて、頑張りたいと思います。
<“KEY PERSON”の愛用品>白で揃えた端末セット 携帯電話は通話に、タブレット端末はウェブ検索にというふうに(もちろんNEC製の)端末を使い分けて、業務効率を高めている。2014年は、アフリカなど海外に行くことも多く、「出張先でも大いに活用した」とか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
今回のインタビューで、遠藤信博社長は珍しく、本題とは直接関係のないエピソードを語ってくれた。2014年の秋、アフリカに出張した際、「若者を中心に、現地で柔道や空手が盛んな様子をみて、こうして日本の文化が浸透しているのは、すごいことだなと思った」という話が、それだ。
アフリカは、ビジネスを展開するうえで、まだインフラの整備が不十分。しかし、ミャンマーもそうであるように、道路など物理インフラの整備と、ネットワーク環境をはじめとするICTインフラの整備がほぼ同時に進められることが多い。遠藤社長は、明言はしていないが、次期の中期経営計画に「アフリカ」を盛り込む可能性が十分にあると考えられる。
日本は、中国が先行して市場開拓に力を入れているアフリカで、格闘技だけではなく、ICTに関しても存在感を発揮することができるのか──。独自性の強いソリューションを提案できるかどうかが、そのカギを握りそうだ。NECにとっての「重要な海外市場」は、アジアや中南米だけとは限らない。まさに全世界なのだ。(独)
プロフィール
遠藤 信博
遠藤 信博(えんどう のぶひろ)
1953年11月生まれ、61歳。81年3月、東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了、工学博士。同年4月にNECに入社。2003年4月にモバイルワイヤレス事業部長、05年7月、モバイルネットワーク事業本部副事業本部長。06年4月、執行役員兼モバイルネットワーク事業本部長、09年4月に執行役員常務に就任。同年6月、取締役執行役員常務を経て、10年4月に代表取締役 執行役員社長に就任し、現在に至る。
会社紹介
創立は1899年で、正式社名は日本電気(にっぽんでんき)。主に(1)パブリック、(2)エンタープライズ、(3)テレコムキャリア、(4)システムプラットフォームの四つの分野でビジネスを手がける。2014年3月期の連結売上高は3兆431億円。従業員は10万914人(14年3月末時点)。258社の連結子会社をもつ。本社は、東京・港区の芝。