日系企業の競争力は中国では高くはない
──中国国内向けの事業として、現地企業向けのSI(システムインテグレーション)や受託ソフト開発には手を出さないのですか。 包 日本向けには人月で請け負うビジネスをしていますが、中国では推進したくないですね。
まず、中国のシステム開発案件は、まだ単価がそれほど高くはありません。今は円安なので、一時的に高くなっているようにみえますが、それでも一部だけです。また、売掛金の回収の観点からも、魅力的とは思えません。
そして何より、競争相手が多いのです。日本向けのオフショア開発では、当社は上位の会社だと自負していますが、そのことは中国国内では通用しません。あえて競争が激しい市場に入っていくのは得策ではないでしょう。
ですから、中国国内では、M&Aなどによって先行している分野のノウハウを取り入れて、従来とは形を変えたビジネスを推進していく方針です。実は、すでに新たな3本目のビジネスの柱として、インターネットを活用した金融サービスなどを考えています。もちろん、これは従来のような人月のビジネスではありません。
──しかし、日系IT企業の中国法人の多くは、中国国内でのSIや自社ソリューションの提供に力を注いでいます。 包 残念なことですが、日系IT企業の競争力は、現地の日系企業が相手ならまだしも、それ以外の中国国内ではそれほど高くはないのが実情だと思います。とくにオフショア開発を端に発している会社は、中国での人脈も弱い。そして、中国国内ではすでに、金融ならA社、政府ならB社、医療はC社と、各分野で強い会社が確立されています。
後発の日系IT企業が入り込むのは簡単なことではありません。だからといって、日系企業では、中国でM&Aをして過半数の株式を取得し、他の分野のノウハウを吸収することも難しい。競争が厳しい中国国内で日系IT企業が生き抜くためには、小さな案件を地道に積み重ねていって、成長の鍵を見つけだすことが重要でしょう。
──最後に、御社の今後の構想について教えてください。 包 まずは2015年に、会社をホールディングス制に再編します。事業会社として、オフショア開発会社とインターネット会社を分離して、両社を成長させていきます。
実は、買収した上海二三四五網絡科技の売上高は、オフショア開発の売上高よりも大きいので、当社は、国内ビジネスが中心の会社に一気に転換することになります。しかし、今後も対日オフショア開発の手を緩めるつもりは微塵もありません。日本のお客様の要望にきちんと応えて、「ハイロン」のブランド力を高めていきます。

‘現状の“安さ”だけを追求したオフショア開発では、日本側と中国側の双方が納得するビジネスは望めません’
眼光紙背 ~取材を終えて~
2015年に還暦を迎える包氏。自身の定めるビジネス上の到達点についてたずねると、「早く自分の役目を終えること。今の立場を続けるのは、あと3年から5年。それ以上は考えていない」と、意外な答えが返ってきた。
もちろん、やる気がないという意味ではない。次代を担う若手人材を育成して、世代交代を図ろうというわけだ。新興市場の中国は、新しい発想がなければ、厳しい競争を生き抜くことは難しい。包氏はこう続ける。「中国のIT企業では、若い経営者がどんどん増えている。彼らと競争すると、体力では勝てない。60歳になって、一晩徹夜で仕事をしたら、すぐには回復できない。でも、若い人は違う。発想も豊かで、新たな市場を開拓するのに向いている」。
一方、日本では、60歳の経営者は珍しくなく、むしろ情報サービス産業では、包氏と同じ1950年代生まれの経営者が中心だ。停滞する日本のIT市場を活性化するためには、次世代のリーダーを育成する環境の整備が鍵を握っているのかもしれない。(道)
プロフィール
包 叔平
包 叔平(Bao Shuping)
1955年生まれ。82年、南京工学院の自動制御科を卒業した後、政府派遣留学生として京都大学に留学。85年に京都大学の工学修士、88年に工学博士を取得し、修了後はオムロンに就職。89年、中国に帰国し、オムロンなど複数社と合弁で上海中立計算機(現上海海隆軟件)を設立した。
会社紹介
1989年4月、オフショア開発を目的に、オムロンなど複数社による合弁会社として設立。深セン証券取引所に上場しており、2014年度(14年12月期)の通期連結業績は、売上高が前年度比64.14%増の6億5408万元、経常利益が同301.7%増の1億1838万元、純利益が同371.97%増の1億1299万元。14年9月に、インターネット企業の上海二三四五網絡科技を買収。現在の総従業員数は約2100人。なお、現在はオムロンとの資本関係はなく、完全なローカル企業となっている。