非英語圏では初の現地法人
──営業先は業務部門なのか、情シスなのか、どちらになるのでしょうか。 河村 ケース・バイ・ケースですね。業務部門の個人ユーザーから、「全社的に使えるように情シスを説得してくれ」という要望をいただくこともありました。ただ、多くの場合、まだ情報システム部門はDropboxの導入には消極的ですので、彼らに説明して、導入の決断をしてもらうという働きかけが重要になってくるのは間違いないでしょう。
Dropboxは、いったん導入すると多くの社員が積極的に使ってくれるというのが大きな強みで、ユーザー一人あたり一日平均100回くらい操作しているというデータがあります。でも、情シス担当者にいわせると、それは困るという声もあるんです(苦笑)。「ITリテラシーが低い人間が、Dropboxをどんどん使っていろいろなファイルを社内外でやりとりし始めたら大変なことになってしまう」と。そうした声もきちんと汲んで、APIをリリースしたときに、セキュリティ関連、監視機能を中心としたアライアンスも発表しました。これは非常に評価されています。
──ところで、日本市場のポテンシャルをどうみておられますか。 河村 グローバルの3億人のユーザーのうち、日本のユーザーは1000万人弱なので、2.8%くらいですが、もっともっと拡大の余地はあると思っています。非英語圏ではドロップボックス・ジャパンが初の現地法人で、コンシューマアプリからのスライドでビジネスを獲得するということを考えれば、中小企業の数が多い日本市場は当社のビジネスと親和性が高いはずです。さらに日本は、アクティブユーザーの割合が世界有数の水準なので、間口を広げることで爆発的に伸ばすことも可能だと考えています。今年はさらにデータセンターに投資してコストを下げる計画で、競争力はさらに上がりますので、楽しみです。
──数値的な目標は何かありますか。 河村 それはありません。私自身、数値目標を強引につくるやり方は好きじゃない。値引きして無理に案件を取ってくるようなやり方ではなくて、常にクリエイティビティをもって、お客様にもっと喜んでもらうためにはどうしたらいいのかという提案を考える。そういうことが会社の哲学として浸透しているのがドロップボックスなんです。その意味では、私の理想の会社に近いんですよ。

‘ストレージのあるべき姿ってこんなイメージかなと漠然と考えていたものに、Dropboxは非常に近くて、興奮を覚えました。’<“KEY PERSON”の愛用品>プライベートでもDropboxを愛用 以前からDropboxのヘビーユーザーだという。写真や家計簿、年賀状作成ソフトのデータなど、よく使うアプリのデータを一元管理している。「若手社員からは使い方のレベルが低いといわれる」と苦笑いしながら、さらなるスキルアップを目指す。
眼光紙背 ~取材を終えて~
米ドロップボックスの創業者であるドリュー・ヒューストンCEOは、32歳。グローバルの社員数は900人以上だが、その平均年齢は28歳だ。河村社長にとっては、「私の面接官もみんな若くて、自分の子どもたちと同じくらいの世代という感覚だった」という。大企業を相手にビジネスをしてきた従来の大手ベンダーとは勝手がまったく違う。それでも、「顧客に製品を押しつけるのではなく、過去のしがらみにとらわれないクリエイティブな発想でお客様にとってベストなことを実行していく」というドロップボックスのカルチャーに心底惚れ込んでいる様子で、充実した日々を送っていることを、言葉の端々に感じさせた。
河村社長は、20代の頃に米国へ5年間赴任した経験をもつ。時は80年代の前半。「当時はIT業界が若くて、とにかく激しく市場が動いていた。このダイナミズムをみていて、いつかこういう企業でビジネスをやってみたいという気持ちをずっと抱いていた」という。30年越しの夢の実現を謳歌する河村社長が、このスタートアップ企業を日本の法人向けIT市場にどう根づかせるのか、興味は尽きない。(霞)
プロフィール
河村 浩明
河村 浩明(かわむら ひろあき)
東京大学工学部物理工学科卒業。1979年、日製産業(現日立ハイテクノロジーズ)に入社。96年10月にEMCジャパンに移籍。日本オラクル常務執行役員ジャパンライセンス事業システムテクノロジー営業統括、サン・マイクロシステムズ代表取締役社長、シマンテック代表取締役社長などを経て、14年4月から現職。
会社紹介
世界3億人以上のユーザーをもつオンラインストレージサービスベンダーである米ドロップボックスの日本法人。2014年10月設立。無償アプリの「Dropbox」のほか、有料サービスとしては、管理コンソールを備える法人向けの「Dropbox for Business」、コンシューマ向けの「Dropbox Pro」がある。ただし、Dropbox Proも仕事用に使うユーザーがほとんど。Dropbox for Businessのユーザーは、世界で10万社以上。