ミッションは「Live at Alibaba」
──アリババは、ECや電子決済サービスで市場に革新をもたらしてきました。グループ副総裁の立場としての喩さんにうかがいたい。アリババが次に革新を起こすのはどの分野でしょうか。 喩 この質問に十分な回答するには、1時間以上の時間を要します。だから、簡潔にお答えしましょう。すべては「Meet, Work at Alibaba」に集約されます。
アリババがインターネット企業として、自らに課したミッションとは、企業のビジネスのやり方に変革を起こすことです。そのなかで、最初に掲げたキーワードは、「Meet at Alibaba」でした。例えば、ビジネスマッチングサイト「Alibaba.com」がその実現手段です。次に掲げたのは「Work at Alibaba」。「淘宝網」「天猫」では、企業のEC上でのセールスマーケティングを実現しました。そして現在、掲げているのが「Live at Alibaba」です。これは、人間の生活サイクルに関わる変革です。
また、中国政府は現在、あらゆる産業のインターネット化を推進する「互聯網+(インターネット+)」政策を推進しており、私は今後の10年間について、中国の伝統企業がインターネット化に歩み出す時代だと確信しています。創業当初からアリババは、“讓天下没有難做的生意”、つまり、企業にとってできない商売をなくすことを目指してきました。「淘宝網」「天猫」は中小企業の販売方式を変え、「支付宝」は伝統的な決済の方式を変えました。今度は「阿里雲」によって、伝統企業のIT環境をインターネット化の方向へ導きたい。
──最後に、革新的なサービスを市場に投入し続ける原動力がどこにあるのかを教えてください。 喩 使命感です。強い使命感をもつことこそが、アリババのすべてのイノベーションの源泉にほかなりません。そして、現在のそれは、“人の生活を変えたい”という使命感なのです。

‘強い使命感をもつことこそが、アリババのすべてのイノベーションの源泉にほかなりません。そして、現在のそれは、“人の生活を変えたい”という使命感なのです。’
眼光紙背 ~取材を終えて~
中国最大手のクラウドベンダーが海外に飛び出したのは、グローバル市場に大きな影響を与えることになる。この動きに触発されて、その他の中国ベンダーも海外市場へ打って出る可能性が高いからだ。
実際、中国政府は、国内企業の海外進出を促す「走出去」戦略を推進しており、中国の対外直接投資は、ここ10年間、増加の一途をたどっている。中国企業の海外拠点から、現地で使用するシステムへのニーズが高まることは確実だ。
プレイヤーが増えれば、その分だけ、グローバル市場は、競争が激化する。喩・副総裁が「ユーザーの優先順位はつけていない」と語るように、中国ベンダーは、非中国系の顧客開拓も推し進める可能性がある。日系ベンダーにとって、この状況は看過できない。
中国ベンダーに共通する特徴は、安価でサービスを提供できることだ。日系クラウドベンダーは、価格競争に陥っては勝ち目がない。差異化の工夫が不可欠となる。(道)
プロフィール
喩 思成
喩 思成(Ethan Yu)
カナダLakehead Universityの工学修士、北京大学光華管理学院のEMBA学位を保有。米FactoryMall、米BEA Systemsを経て、2008年6月、米オラクルに移籍し、グローバル副総裁兼大中華地域技術総経理に就任。技術チームを統括するとともに、データベース・ミドルウェア・ERPなど主要商材の中国大陸・香港・台湾での販売を率いた。2014年7月、阿里巴巴集団に移籍し、副総裁に就任。「阿里雲」のグローバル事業を統括している。
会社紹介
中国最大の電子商取引(EC)事業者。1999年に馬雲(ジャック・マー)氏らによって設立された。ECショッピングモール「淘宝網」「天猫」や電子決済サービス「支付宝(Alipay)」、法人向けクラウドサービス「阿里雲(Aliyun)」などを手がける。総従業員数は約3万人。株式の約3分の1は、ソフトバンクが出資している。2014年9月19日に、ニューヨーク証券取引所に上場しており、2014年度(15年3月期)の売上高は前年度比45%増の122億9300万米ドル。このうち「阿里雲」を含むクラウド関連の売上高は同64%増の2億500万米ドル。