勝ち残るための“経営戦略”
──足下は堅調に推移している情報サービス業界ですが、東京五輪後の景気の反動や、ソフトウェア開発の規模縮小、派遣法改正による中小の特定労働者派遣の問題などが山積しています。 言うまでもありませんが、日本は少子高齢化が進行する成熟社会です。建設土木で例えるなら、ブルドーザーを何百台も並べて新しい高速道路を何本もつくり、次から次へと宅地を造成する時代ではありません。ソフトウェアも同様で、派遣でも何でも大量に人員を動員する大規模な開発はぐっと少なくなるでしょう。つまり「規模から価値への転換」が起きているのです。ソフトウェアの規模=人月と単価で勝負するのではなく、そのソフトウェアがどれだけ利益を生みだしたかの価値で勝負する時代だということです。
──言うは易しで、とくに中小ベンダーにはハードルが高い印象が拭えません。 私が会長になって、まず頭に浮かんだのが、そうした中小ベンダーの支援です。正直、大手は自分たちでなんとかなりますからね。JISAに来れば、何か有益な情報が得られる、あるいはJISAの活動に参加することでビジネスのヒントが掴めることを、もっと多くの、とくに中小のベンダーに知ってほしい。いい技術をもっているベンダーと異業種のユーザーとをマッチングするのもいいでしょう。
──中小ベンダーにどのようなメッセージを発していこうとお考えですか。 少々辛口になってしまいますが、ソフトウェア開発で世界トップクラスのエンジニアに比べて、日本の水準はまだまだです。サッカーW杯でいえば、ブラジルやドイツと試合する日本チームのようにみえます。
JISAが世界各地を訪れて政府系団体や業界団体と積極的に意見を交わしているのは、まずは日本のユーザー企業が海外で成功するためにどうすればいいのか。次にグローバル企業のITパートナーになるための方策。そして海外の同業者がどうやってエンジニアのすそ野を広げ、底上げして、トップエンジニアを育成しているのかを探り、よく学ぶ点にあります。サッカーでもトップのチームは、それぞれ独自の育成法や練習のノウハウをもっていますからね。
中小ベンダーは人が限られていて、優秀なエンジニアであればあるほど途切れることなく仕事が回ってくる状況はよくわかります。しかし、そこをあえて一時的にでもラインから外して、新しい技術を習得する機会を与えることこそ、勝ち残るための経営戦略ではないでしょうか。JISAとしても、優秀な若手エンジニアの知見を広げるための支援は惜しまないつもりです。せっかくJISAがあるのですから、もっと活用し、使い倒すくらいの勢いで、情報サービス業界や日本の産業振興のヒーローを輩出してもらいたいし、JISAは今後もこうした活動に役立つ場の提供に努めていく方針です。

‘情報サービス業界で働くエンジニアの応援団であり続ける’<“KEY PERSON”の愛用品>手帳サイズの大人びたデザインのノート メモ好きの横塚会長のお気に入りグッズは、手帳サイズのノートだ。背広のポケットにぴったり入る大きさで、しかも薄い。「学生向けの派手目のデザインではなく、大人びた色合いで違和感なく使える」のが気に入っている。
プロフィール
横塚 裕志
横塚 裕志(よこつか ひろし)
1951年、東京都生まれ。73年、一橋大学商学部卒業。同年、東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)入社。98年、情報システム部長。07年、常務取締役IT企画部長。09年、東京海上日動システムズ社長。11年、情報サービス産業協会(JISA)理事。13年、東京海上日動システムズ顧問。JISA副会長。15年6月、JISA会長に就任
会社紹介
情報サービス産業協会(JISA)は、SIerやソフト開発会社などからなる情報サービス業の業界団体。正会員547社。国に対する政策提言や、各種委員会活動を通じて情報サービス業界の振興に貢献している。