国内Dynamics事業はほぼ倍増
──マイクロソフトの基幹業務パッケージソフト製品「Dynamicsシリーズ」を活用したSIビジネスに、ずいぶんと力を入れておられますね。 Dynamicsシリーズは戦略的に取り扱っています。民需を伸ばすにはグローバル対応は不可欠で、欧米やアジア成長市場でそれなりにビジネスの実績をつくっておかなければなりません。そこで世界的に知名度が高いDynamicsシリーズを前面に押し出すことによって、海外のユーザー企業に「あぁ、Dynamicsをやっている日立ソリューションズね」と、名前を覚えてもらいやすくなる効果を狙っているわけです。
──Dynamics事業について、もう少し詳しく教えてください。 昨年4月に米国でDynamicsシリーズの取り扱いに実績があるシステム会社を買収したのに続き、今年5月にはシンガポールに新会社日立ソリューションズアジアパシフィックを設立して、ASEAN市場におけるDynamics事業を強化する布陣を固めました。さらに、今年9月1日付で、当社インド法人が開発センターを拡充し、Dynamics事業のグローバルな開発、運用保守をより強力に推し進められるようにしました。こうした施策を通じて、今年度のDynamics事業のグローバルでの売上高200億円規模の達成を目指しています。
──M&A(企業の合併と買収)も織り交ぜながら、海外ビジネスを順調に立ち上げておられますね。アジア最大市場の中国ではどうですか。 大きな市場ですが、独自色の強い市場ですので、あまり誇大に考えず、腰を据えて取り組んでいきます。直近では浙江省・嘉興市のITパートナーに選ばれたり、設備管理や地理情報システムなど個別商材の商談が活発化しています。
最初はぎこちなかったグローバルでの連携も、最近では各国法人のスタッフがそれぞれの国や地域の情報を交換しながら、自発的にビジネスを結びつけていく動きが目立つようになりました。こうしたグローバル市場での取り組みが国内ユーザーにも評価され、この上半期の国内Dynamics事業は前年同期比でほぼ倍増でした。国内は母数がまだ小さいこともあり、まだまだこの勢いが続きそうです。
当社ではDynamicsを柱としつつも、中国を含めて多様なビジネスを展開していくことで、海外売上高比率15%を視野に入れています。日立の情報・通信システム事業全体での今期の海外売上高比率は36%を目指していることを踏まえ、当社も早期にグループのグローバルビジネスをリードできるようにしていきたいですね。

‘ITとOTの両方に強みをもっていることが日立らしさであり、日立ソリューションズらしさ’<“KEY PERSON”の愛用品>三葉虫の化石 日立製作所本社オフィス近くの文具店で、たまたま見かけた三葉虫の化石がお気に入り。文鎮にもなるが、それよりも 「5億年前の太古の世界に思いをはせると、どこか気持ちが落ち着く」と、主に“癒やしグッズ”として愛用している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
SIerの価値は、ユーザー企業の課題を解決する力量、技術力にあるのはいうまでもない。そして、これらノウハウは往々にして属人的である。佐久間嘉一郎社長は、「人のマインドがついてこなければ、いかなる改革もうまくいかないし、実行できない」と言い切る。
民需特化、グローバル進出の加速、Dynamics事業で世界トップクラスへと成長させるにあたり、「国内外の社員のマインド、モチベーションを高めることが成功への近道」と、人心を一つにまとめあげるべく努力してきた。
佐久間社長は、ただまとめるのではなく、物理学用語の「衝突断面積を増やす」という言葉を使って、人と人との融合や反応を促進する。国内や北米、中国、ASEAN、南アジア、欧州と世界主要市場に展開する社員同士が、いい意味でぶつかり合うことで、ユーザーの課題解決能力や技術力に一段の磨きをかけていく。(寶)
プロフィール
佐久間 嘉一郎
佐久間 嘉一郎(さくま かいちろう)
1954年、福島県生まれ。79年、東京大学大学院(理学系研究科)修了。同年、日立製作所入社。05年、産業・流通システム事業部長。07年、日立データシステムズソリューションズホールディング社シニアエグゼクティブバイスプレジデント。09年、日立製作所執行役常務システムソリューション部門CEO。13年4月、日立ソリューションズ代表取締役 取締役社長に就任。15年4月、日立製作所執行役専務、情報・通信システム社副社長を兼務。
会社紹介
日立ソリューションズは、日立製作所の情報・通信システム事業の中核的SIerである。兄弟会社の日立システムズとともに日立のITビジネスの両翼を担う。今年度(2016年3月期)の年商は連結約2500億円。グループ従業員数はおよそ1万1000人。欧米・アジアの主要市場に約20拠点を展開している。