業界をリードするポジションに
──当時のプリンタ事業は、どこかSI(システム構築)や組み込みソフト開発に通じるものがありますね。 だから、今のITソリューション事業も、私のなかで割としっくりきますし、今だって複合機やネットワークカメラ単体での差異化は限界がある。これらデバイスを活用したサービスにこそ、ユーザーに本質的な価値を提供するものだと考えています。
もう一つ“販売力”という側面でも、他のSIerとの差異化になる。旧キヤノン販売の時代から受け継いでいる力で、パソコンなどのIT機器の販売では一定のポジションにあります。とはいえ、今期は昨年のWindows XPサポート切れに伴う更新特需の反動減で、今年はみる影もないのですが、一方で例えばスロバキアのウイルス対策ソフトの「ESET(イーセット)」では、トップグループに食い込むほど国内シェアを伸ばしているし、直近ではスウェーデンの次世代ファイアウォールの「Clavister(クラビスター)」の国内販売も始めています。
海外のこうした有力ベンダーが当社と組んで日本での販売を手がけるのは、ひとえに当社の“販売力”を見込んでいるからです。
当社はSIerなので、これら商材を先述のキヤノン製品と同様、自社の提案するシステムに組み込むかたちで、ユーザーの要望に応えるサービスや品質を提供していく。これが私の考える“キヤノンらしさ”と“販売力”、そして“品質・サービス”なのです。
──販売という意味では、パブリッククラウドサービス「SOLTAGE(ソルテージ)」の外販も始めましたね。 せっかく自社で100億円以上投資して最新鋭のDCを首都圏や沖縄にもっていますので、これをもっと活用しない手はありません。パソコンやPCサーバーを販売する感覚で、クラウドも販売していくとともに、パソコンやサーバーと同様、クラウドも当社ならではのキヤノンらしいイメージング系や、業務アプリケーション、サービスとたくさん連携させて、ユーザーのニーズに応えていきます。
当社は中国・ASEANなどに7拠点を展開して、主にアジア成長市場への進出に取り組んでいます。また北米、欧州を担当するキヤノン系列の会社がITソリューション事業を手がけていますので、当社が国内のみならず、グローバルでも存在感を発揮していくために、キヤノングループや国内外のさまざまなベンダーと連携・協業をもっと加速させていきたいですね。
冒頭に「ITトレンドになんとか追随している」状態だと話しましたが、いずれ業界をリードするポジションに躍り出たときが、当社の業績も飛躍的に伸びるときだと確信しています。

‘キヤノンらしさと販売力、そして品質・サービスをユーザーに届ける’<“KEY PERSON”の愛用品>常に身につけられる小さな文具たち 「常に身につけていたいから、文具はできる限り小さいものが好み」と話す。客先での会話や向こう数か月のタスクなど、こまめにメモをとる。小さなペンポーチは、そんな神森社長の習慣を熟知する家族から贈られたものだそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
神森社長が現場でプリンタの販売を担当していたときの失敗談がある。当時、年商140億円規模のOEM事業を任されていて、全国を飛び回っていた。最後はトップ同士が握手をして商談をまとめることも多く、「上司だった重役は、全国どこへでも快くトップセールスに出向いてくれた」と振り返る。
トップセールスは諸刃の剣で、成功すれば大きいが、失敗するとメンツが潰れる。そもそもトップセールスは最後の「切り札」。ある商談で周到にお膳立てをして、いつものように握手をして成約する手はずだと思っていたら、客にその気がなかった。
「あのときは重役に赤っ恥をかかせてしまった」と猛省するも、その重役は「神森くん、場数を踏んでこそ受注の確度がわかるようになる」と、励ましてくれた。以来、客の反応や感触、間合いの取り方に一層の磨きをかけ、一段と頭角を現していくことになる。(寶)
プロフィール
神森 晶久
神森 晶久(かみもり あきひさ)
1952年、兵庫県生まれ。76年、早稲田大学理工学部卒業。79年、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン)入社。03年、ソフトウェア商品企画本部長。04年、キヤノンシステムソリューションズ(現キヤノンITソリューションズ)執行役員SI事業推進本部長。06年、同社取締役。10年、キヤノンMJアイティグループホールディングス常務取締役。13年、専務取締役。15年3月、代表取締役社長に就任。キヤノンITS、キヤノンソフトウェアの社長も兼務。
会社紹介
キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)のITソリューション事業セグメントの今年度(2015年12月期)連結売上高は、前年度比3%減の1440億円、営業利益は25%増の40億円の見込み。中期経営計画では、17年12月期の同セグメントの売上高は1736億円、営業利益は84億円を目指している。