NTTデータ経営研究所は、産業界や学界、国・役所の異なるセクターの「橋渡し役」を積極的に担っていくことで、ビジネス・コンサルティング会社としての存在感を増している。顧客の競争力を高めるには、ITの仕掛けだけでは不十分で、最先端の科学をふんだんに取り込んだ「緻密なロジックを構築していく必要がある」と、同社の佐々木康志社長はみている。例えば、脳科学をビジネスに応用することで、マーケティングや金融サービスの高度化を推進。顧客のビジネスの成長につなげていく。
「脳科学」で脳にやさしい社会に
──脳科学の研究支援にずいぶんと力を入れておられますが、昨今のAI(人工知能)ブームと何かつながるものがあるのでしょうか。 当社はビジネス・コンサルティングを手がける会社ですので、脳科学そのものを扱うわけではなく、あくまでも脳科学研究の領域でのオープンイノベーションを支援・推進する立場です。具体的には、脳科学の研究者や日本神経科学学会をはじめとする関係団体のご協力をいただきつつ、「応用脳科学コンソーシアム」の運営を手がけています。脳科学とAIは、ご指摘のとおり密接な関係にありますので、今後のAI開発に役立てたり、近年注目を集めている金融とテクノロジーを融合させたFinTechへの応用も推進しています。
──脳科学とコンピュータのつながりがまったくみえてこないのですが、もう少し言葉を補っていただけますか。 そんなに難しく考えることはなくて、人間の脳がどのように機能し、ものごとを感じ取っているかの研究です。これってコンピュータ・システムをつくるときにとても重要で、使いにくいとか、わかりにくいシステムって、だいたい“脳に優しくない”んですよ。システムだけでなく、店舗や公共施設の設計やデザインでも同じことがいえます。
──“脳に優しくない”とは? そうですね、もっと端的にいってしまうと、人間がものごとをどこで感じるかを突き詰めていくと、最終的に脳を解析することになるんです。だって、五感で感じ取っても、それを処理するのは脳ですからね。
人が明るいところに引きよせられる「サバンナ効果」を踏まえて、コンビニなんかは深夜でもとても明るくして、人を店舗に誘導しています。また、地面に線が書いてあると、人は心理的に線に沿って歩く習性があって、ショッピングモールや空港などの導線をつくるときに、「線」に相当するデザインを採用することが多いんですよ。建物の構造上、多少、入り組んでいても、こうした人の習性をうまく採り入れることで、脳が快適に感じる設計やデザインが可能になる。
他にも、脳がどのように感じているのかを「fMRI」と呼ばれる核磁気共鳴画像法(MRI)を応用した機材で調べることができるのですが、広告制作をするうえで、制作者が「視聴者にこう感じてほしい」と意図する通りに感じさせるには、どう制作すべきかを導き出すニューロマーケティングの技術も確立されつつあるんです。広告を例に挙げましたが、別に服でもメガネでもシステムでも、なんでも応用できます。
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