富士通グループのSMB(中堅・中小企業)向けビジネスとパートナービジネスを担う富士通マーケティング(FJM)は、今年4月、新たな社長として、2010年から富士通の副社長(12年からは代表取締役副社長)を務めてきた藤田正美氏が就任した。富士通グループの代表的な営業会社でもある同社に、人事総務畑でキャリアを積んだ藤田社長はどんな風を吹かせるのか。
富士通グループでも特殊な会社
──富士通の副社長を長く務められましたが、富士通マーケティング(FJM)についてはどうみておられましたか。 FJMはもともと、富士通グループのなかで、非常に戦略的な位置を占めています。現在のFJMが発足した2010年当時、富士通が確実に利益を出せるのは国内市場だが、大きな成長が期待できるのは中堅・中小市場しかないという状況のなかで、議論に議論を重ねて社名を決め、100%子会社にしました。富士通グループとして、FJMを受け皿として中堅・中小市場に従来以上に注力する方針を明確にしたわけです。この流れを富士通側からみていましたから、FJMは非常に大きな使命を帯びていると理解していました。
──FJM発足からここまでの歩みはどう評価されますか。 戦略と実際のビジネスモデルが一致するまでの産みの苦しみのようなものがあったのは事実ですが、古川(章・元社長)さん、生貝(健二・前社長、現会長)さんが一つひとつ課題に対応して、ようやく攻めの体制が整ったと思っています。
──やはりFJB時代は横並びの競合関係だった富士通パートナーとの関係構築が課題だったのでしょうか。 それが一番ですね。富士通グループのパートナー支援のシステムを明確にして、FJMが一手にその役割を担うことになったわけですが、一朝一夕で信頼関係を築くことはできませんからね。また、経営的にも利益を出せる体質になって、成長するための基礎ができてきたことは大きいです。
──なぜ利益を出せる体質になったのでしょうか。 富士通は巨艦になってしまって、もっていた機能を各グループ会社に振り分けて分解してきましたが、FJMは特殊です。営業、SI、自社商材の開発・販売、富士通パートナーの支援、と多くの機能を自社でもっている、いまとなっては珍しい会社です。これらの機能がコンパクトにまとまり、それぞれが密接に連携して中堅・中小市場での成長に向かうかたちができたと感じています。
営業、SE、コンサル、(基幹業務アプリケーションパッケージ製品群の)GLOVIAをはじめとする自社商材の開発部隊など、これまでバラバラに動いていたチームが一緒に会議をやるような場面も増えていて、よりお客様に深く入り込んだ提案ができるようになっています。富士通側からみていた印象以上に小回りがきく会社ですね。それこそが、FJMの強みだと思っています。
生貝さんが、現場の意見も積極的に吸い上げながら「Vision2020」という2020年に目指す姿を社員が共有するためのビジョンをまとめたんですが、そのプロセスも、FJMの機能を横断的に連携させていくことで強くなれるというコンセンサスが生まれる助けになったと思います。ゴールデンウィーク前に、全社員の3分の2が横浜に集結して、このVision2020をお披露目したのですが、こうした取り組みもいままでなかったことで、変革の象徴といえるでしょう。
自社商材への積極投資ができる環境になった
──富士通パートナーの支援については、どんな手を打っていくお考えですか。 民需ビジネスでどれだけ強力な武器をパートナーに提供できるか、これがすべてだと思っています。まだ就任から2か月ですが、パートナー回りを積極的に行ってきた結果、やはり期待されているのはそこだと実感しています。
富士通は、(デジタルビジネス・プラットフォームの)「Meta Arc」や(パブリッククラウドのIaaS/PaaSである)「K5」を前面に押し出し、大企業のお客様にデジタル革新を促していく戦略ですが、中堅・中小市場はニーズがもっと多様です。いまのタイミングでは必ずしもクラウドにシフトしたいお客様ばかりではないという状況もありますので、富士通グループ全体の力も使って、武器はたくさん用意しなければならないと考えています。
FJM単体に関していえば、積極的なR&D投資ができる財政状況になりました。パートナーが売りやすく、お客様にとって価値のある商材、例えばGLOVIAには継続的にかなりお金をかけていくつもりです。また、ビジネスのサービス化が進めば、人材がより重要になりますから、教育にも積極的に投資していきます。
──FJM独自の人材育成制度をつくるということですか。 パートナーにも開かれた教育体制を整えていきたいと考えています。パートナーからは、少しでもいい商材とともに、富士通のノウハウをどう提供してくれるのかということも求められています。
中堅・中小企業のお客様は、意思決定のプロセスが大企業とは違っていて、スピード感があります。一方で、経済動向やITの技術動向の変化の早さを独力でキャッチアップするのは不得手な場合が多い。当社にしろパートナーにしろ、そうした状況に対応した提案をしていかなければならないわけです。これまで、お客様も何社か訪問していますが、「御社の○○さんだから仕事をお願いしている」というお話を何度も聞きました。営業もSEも、お客様に信頼される人材をどれだけつくれるかが重要です。

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