認知度向上とエコシステム拡大が課題
──日本市場での課題はどう分析されていますか。 まず一つは、認知度向上ですね。市場が広がってきているとはいえ、まだまだクラウドERPそのものの認知度をもっと高めていく必要がある段階ですし、同時に、クラウドERP市場でネットスイートが提供できる価値の大きさも正確に知っていただけるように努めなければなりません。
ERPを買うときに、お客様は何を考えて、組織内のどんな立場の人がどのように情報収集をして意思決定をし、購入に至るのか。お客様のいわゆるペルソナ情報をきちんと分析したうえで、デジタル中心の戦略的なマーケティングをやっていくことが重要です。
──ユーザー企業がERPを導入する場合は、まずつき合いのあるSIerなどに相談するというケースが多いと思いますが、ユーザーへの直接的なアプローチを強めるということでしょうか。 それは少し違いますね。私の大きなミッションとして、国内のネットスイートのパートナーエコシステムを拡大しなければならないと考えています。日本でネットスイートを担いでいただいているパートナーは公称で15社ですが、SIerだけでなく、周辺ソリューションを開発してくれるISV、ディベロッパー、さらには会計事務所などのコミュニティももっと大きく育てていくべきでしょう。おっしゃるような日本のIT業界の構造に、ネットスイートのビジネスをマッチさせていくことも重視しています。
──そうすると、エンドユーザーへのデジタル・マーケティング的なアプローチにはどんな意味があるんでしょうか。 これはパートナービジネスの神髄だと思っているんですが、パートナーの背中だけ押していても何も起こらない。だからこそ、われわれが直接マーケティングなどを通じて市場をつくって、ニーズをつくって、さらにいうとリードをつくっていく必要があるんです。そのうえで、パートナーと一緒にお客様に対応していくのが、まずは踏むべきステップだと思っています。
ポイントソリューションに逃げない
──市場に対しては具体的にどんなメッセージを打ち出す予定ですか。 ネットスイートの製品は、一言でいうとシリコンバレーのデファクトスタンダードになっているERPです。この認識を日本の市場にも浸透させることが非常に大事だと思っています。シリコンバレーにはどういうプロファイルの会社が多いかというと、設立後まもなく急成長を遂げている会社が多い。そういうお客様に、ネットスイートの柔軟性、拡張性といった部分が大きく評価されて使っていただいています。これはクラウドのよさを生かした使い方ですので、メッセージとして非常にわかりやすい。
──日本でも、そういうユーザーが増えているということですか。 私がいまネットスイートのビジネスにとって市場環境が追い風だと思っている理由の一つに、経営世代の若返りというのがあります。新しく起業される方も増えていますし、歴史のある企業でも経営層の世代交代が進んで、若い経営者がどん欲に成長を目指す企業が間違いなく増えています。そういう会社は、ITの導入でも先進的な取り組みをしようというケースが多く、ネットスイートの柔軟性がうまく受け入れられるかなと思っています。当社の製品は決して先進的な企業しか使えないものではなく、大企業も含めて全方位にニーズをカバーできるものとして自信をもっています。その価値を市場に浸透させていくためにも、パートナーエコシステムの拡大は不可欠だと思っています。
──ネットスイートは、多くのERPベンダー同様、年々ポートフォリオを拡大しています。以前からあったCRM、Eコマースのほか、最近ではデジタル・マーケティング・ツールなどもM&Aで手に入れています。しかし、他社がそうした機能のバラ売りも進めているなか、ネットスイートはあくまでもスイート製品としての提案にこだわっていますよね。 おっしゃるとおりで、ネットスイートはポイントソリューションを売ろうとはしていませんし、そのスタンスは変わりません。
──しかし、ポイントソリューションのほうがユーザーにとっては導入のハードルが低くなりますよね。例えばセールスフォース・ドットコムが急成長できたのは、そういう理由だと思いますが……。 確かに、営業部門が自分たちで気軽に導入できるのが、クラウドのCRM/SFAが広がった大きな要因ではあります。これに対して、ERPを導入するというのは、一業務部門だけで片付く話ではなくて、ユーザー企業にとっては、会社全体の戦略の見直しが必ず伴い、経営層の決断が必ず要ります。どのお客様にも、社運をかけた投資、プロジェクトだといわれるんです。
当社としても、提案にはある種の覚悟が求められるわけで、私はこの“重たい”ビジネスの市場で、一個一個の案件をこなして実績を挙げていきたいという思いがあります。ポイントソリューションに逃げたら楽なのですが、「お客様のビジネスを成長させるためのERP」というネットスイートのコンセプトを現実のものにするためには、そこは退いてはいけない部分だと思います。あくまでも、王道で勝負したい。それが私の考えです。

パートナーの背中だけ押していても何も起こらない。
だからこそ、われわれが直接マーケティング活動を通じて市場をつくって、
そのうえでパートナーと一緒にお客様に対応していく。
[次のページ]