障害発生時にも、一瞬の処理中断も起こさず正常稼働を継続するフォールトトレラント(FT、耐障害性)システム。最高の可用性を実現する「無停止技術」の専門ベンダーとしてFT製品を手がけてきたストラタステクノロジーが、日本市場に進出して今年で30年を迎える。かつては専用設計の独自ハードウェアで構築されていたこの分野でもオープンアーキテクチャの採用が進み、最近ではソフトウェアで無停止を実現する製品も登場している。日本ストラタステクノロジーで20年以上にわたってFT製品の販売に携わり、昨年9月からトップを務める三村俊行社長に、市場の変遷とこれからをたずねた。
FTの価格は100分の1になった
──三村社長が日本ストラタステクノロジーにこられたのは1993年ですが、まずは当時の会社の様子などをお聞かせいただけますか。 今でも覚えているのは、入社3日目のことです。引き継ぎもすんでいないなか、前任者が担当していたお客様から朝7時に呼び出されました。行ってみたら、お客様は灰皿を投げつける勢いで怒っていらっしゃる。「何でお前のところのシステムは止まるんだ!」と。結果的にはハードウェアの問題ではないことがわかったのですが、お客様がそこまでお怒りになるのは、私どものシステムに障害が起きると、インフラが止まって社会的な問題になったり、人命にかかわることになりかねないからでした。それだけ重要な役割を担っている会社なんだ、ということがわかりましたが、私も若かったし、まだ3日目でしたから、いきなり怒られて相当へこみましたし、そのときは「とんでもない会社に入ってしまった」と思いましたね(笑)。
──これは転職に失敗してしまったかと。 それに、当時の営業の現場にはちょっと殺伐とした雰囲気もあったんです。そのときのストラタス製品は一式1億円以上のシステムばかりでした。そんな高価なものを導入できる企業は限られていますから、他の営業担当者とお客様の取り合いになることも多く、“隣は敵”だったんです。でも、やりがいのある仕事でした。何億円のシステムですから、こちらは小さな会社の若い営業マンでも、商談の相手は大きな組織の幹部の方で、学ぶことばかりでした。今、私は経営者の立場になりましたが、マネージャーに必要な資質とは何かというところでは、当時のお客様から教えていただいた部分が非常に大きいですね。
──当時と今とでは、何が一番違いますか。 「業務を止めないシステムのご提供」というビジネスの根幹は、当時から今までまったく変わりません。しかし、それをどう実現するかという環境が大きく変わりました。当時の市場には多くのメーカーが存在し、独自のハードウェアに独自のOSをのせていました。私たちもそうやって“止まらない仕組み”を提供していました。それが90年代以降、エンタープライズUNIXでも実現可能になり、その後インテルのCPUとWindowsやLinuxに移り変わっています。そして最近は仮想化、クラウドの時代です。数億円の案件ばかりという時代は終わり、今では、ハードウェアFTの製品でも百数十万円くらいからご提供できるようになりました。
──素朴な疑問として、過去1億円以上していたシステムが、100分の1くらいの値段になってしまったとすると、どのようにして収益を確保されているのでしょうか。 単純にいうと、100倍の台数を売らなければいけないわけです。となると、「隣の営業マンは敵」の殺伐とした現場ではダメで、われわれのチーム自身、そしてパートナー様が一体となって、お客様に提案していくスキームを構築する必要がありました。幸いなことに、無停止型の市場においては競合製品があまりなかったので、ある程度の量が売れる環境をつくることはできました。それに以前から、FTという技術は気に入っているけれど「うちの会社じゃ高くて買えないよ」というお客様は非常に多かったんです。価格が下がったことによって、多くの方にFT製品を導入いただけるようになり、ユーザー層、パートナー網とも広がってきています。また、以前は本当に大事な一つのシステムだけでFTを使っていたお客様が、「これだけ安くなったならもっといろいろなところで使えるね」ということで、より多くの台数を導入いただくというケースも増えてきているのです。

[次のページ]