もはや「寄り合い所帯」ではない
──2008年にITホールディングスを立ち上げたときは、ややもすれば「寄り合い所帯」のイメージすらあったのですが、この8年でグループ内の雰囲気も、ずいぶん変わったのではないでしょうか。 いえ、まだまだですね。今回の事業持ち株会社体制への移行で、グループ各社と話し合いをするなかで、初めてわかったこともけっこうありますし、コミュニケーションの量が不足している側面も垣間みられました。ITホールディングス発足当時に比べれば、グループの一体感が格段に高まっていることは確かではあるものの、まだ足りない。抽象的な言い方になってしまいますが、グループの隅々まで行き渡った企業文化、あるいは経営哲学のようなものを、もっと醸成していかなければならないと感じています。
ITホールディングス発足から8年、今のTISインテックグループは9年目ということになりますが、人間で例えれば8歳のときにやるべきこと、9歳のときにやるべき「順番」みたいなものがあると思うのです。成熟度に合わせた達成目標というべきでしょうか。企業文化や経営哲学って、よほどのカリスマ創業者が率いている会社でもない限り、8年や9年で根づくようなものではありません。2020年、2025年と区切りをつけながら、コミュニケーションをよくとって、必要であれば組織を再編し、一歩一歩、グループとしての成熟度合いを高めていくことが重要です。
──グループの経営トップとして、桑野さんご自身がイメージする企業文化、経営哲学とはどのようなものでしょうか。 現時点の「グループ経営理念」はもちろん策定しており、公式HPに公開していますのでご覧いただきたいのですが、それとは別に、私個人の思いとしては、人の暮らしや社会にITの側面から貢献する企業グループであり続けたい。
1970年代末、入社3年目のときでしたが、ある流通・サービス業の顧客のシステム化を担当したとき、「電算化することで仕事がなくなる。どうしてくれるんだ!」と、顧客の従業員の方から叱責されたのです。労働組合が強い伝統的な会社さんでしたので、厳しい押し問答が続きましたが、「誰でもできる単純・反復作業を減らして、みなさんしかできない仕事に集中できるようにするのがシステム化の目的」だと、説明して納得してもらいました。
私のなかでは、「IT」とは、ユーザー企業はもちろん、世の中全体をよりよくするためのツールであるべきとの思いが根底にありますので、現実とのギャップに打ちひしがれた思いでしたね。
まるで「食べ放題」のレストラン
──今のAI(人工知能)議論みたいですね。「AIによって仕事が奪われる」といった風な。 私は、現場からの叩き上げですので、どうしても顧客とのやりとりの話が多くなってしまうのですが、突き詰めれば「お客さん、それは違いますよ」と現場で言えるかどうかで、SIerの価値が決まると思っています。
1990年代に入ると、システムがどんどん肥大化し、いわゆる失敗プロジェクトのリスクが高まりました。あるシステムの開発を受注したとき、唯々諾々と顧客の指示に従っていると、往々にしてとんでもないものができ上がるんですよ。まるで「食べ放題」のレストランで料理を皿に山盛りにするような感覚ですね。料理の食べ放題なら私も大好きですが、ことシステムに限ると、あれもこれもと機能を詰め込むことで、保守性が落ち、バージョンアップもままならなくなってしまう。そうなる前に、「保守やバージョンアップのことを考え、まずは基本機能をしっかりとつくり込みましょう」と言えるかどうかで、顧客のビジネスの成否、満足度、当社側の収益を決定づけることを経験則で学んできました。
──発注者、受注者の関係がある以上、そのハードルは高そうですね。 だからこそ重要なんです。中長期でみた場合、顧客のビジネスの成功こそが経済の活性化につながり、当社の存続にもつながる。でもね、それを実現するには、顧客の置かれた事業環境や最新技術の把握、場合によっては提携やM&Aで外部の知見を取り込んだり、顧客との実証実験を通じて確度を高めるなどの取り組みが不可欠。総花的な請け負い開発集団、客先に常駐するSEを送り出すだけでは絶対にできない技です。顧客が海外でビジネスを立ち上げるのなら、一緒に海外に進出し、支援するサポート力も必要でしょう。TISインテックグループの規模と人材がいれば、必ず成し遂げられる。
──中期経営計画の進捗についてもお話をいただけますか。 中期経営計画では2018年3月期に連結売上高4000億円、営業利益300億円を目指しています。足下の16年3月期は、計画を上回る水準で推移しており、今年度(17年3月期)は売上高ベースでは計画を上振れ、利益面では計画値とほぼトントンを見込んでおり、中計の目標値達成に向けて着々と進捗しています。
FinTechやAI/ロボティクス、モビリティ(自動車)、IoT/ビッグデータといった分野での技術革新も盛んに行われており、注目度も高い。TISやインテック、アグレックス、クオリカ、AJSをはじめ当社グループ会社は、それぞれの分野で中核となる技術や人材を多く抱えていることから、こうしたイノベーションを先回りして事業化できるポジションにいます。グループ各社それぞれの力を結集することで、ビジネスを伸ばしていく方針です。

「お客さん、それは違いますよ」と現場で言えるかどうかで、SIerの価値が決まる
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