イノベーションを起こす“駆け込み寺”
──とはいえ、MIJSのなかには、海外展開にトライし成功しつつあるベンダーも多くあり、得たものはあったように思いますが。 この10年で「何をもって成功とするか」ということを見極められるようになった。さらには、海外市場の状況がわからないからと、海外展開するために「サーベイから始める」という段階ではなくなりました。実際に渡航して勉強し、海外進出の難しさがわかった。中国だけでなく、アジア全体に目を転じれば、他の国に可能性を見出すことができ、門戸を広げられました。
もう一つ、海外展開の活動で認識したのは、ITのノウハウやイノベーティブな考え方は、中国に勝てないと思っています。中国ではメッセージングアプリ「WeChat(微信)」を使った決済システムがありますが、日本だと法律の壁がありできませんよね。お年玉をWeChatで支払うこともできるんです。
──「中国に勝てない」という理由をもう少し掘り下げてもらえますか。単なる商慣習の違いではなさそうですね。 「勝てない」というのは、語弊があるかもしれません。ですが、自動運転車やミラーを音声認識で動かすといった車内搭載のデバイスなど、中国では新しいモノがどんどん出ています。これらは、日本の技術でもできるモノですが、恐らく日本では法律で規制されてしまう。中国では、新しいモノでお金を稼ごうとする「アントレプレナー精神」が出てきている。日本は、法律の規制や資金的な余力のなさ、新しいモノに挑戦しきれていない風土などがあり、私の感覚的には負けてしまう。
──日本は、イノベーションが起こしにくい環境にあると。 日本のベンダーは、自分たちがスタンダードだと思っていますが、海外だと異質なんではないでしょうか。世界人口の約5人に1人が中国人です。日本と中国のどちらがスタンダードですか。中国などのように、多様性を受け入れられれば、日本企業がイノベーティブなモノを生みだし、海外に出ていくことができる。
──こうした問題意識があり、日本型シリコンバレー「JAPAN Tech Valleyプロジェクト」という構想が出てきたんですね。 そうです。「新生MIJS」としてこの構想を掲げ、活動を開始しています。今年度(17年3月末)は、どれだけ加盟ベンダーが、この趣旨を理解しハッピーだと思ってくれるかどうかにかけています。この構想は、一言でいうと「エコシステム」です。イメージしているのは、米国のシリコンバレーのように成功した企業が、新しいモノを生み出そうとする企業を支え、育成し、一緒に連携し大きくなることです。
──この構想が最終的に目指すところは、なんでしょうか。 やりながら気づいてきました。最終的に目指すのは、エンタープライズビジネスの“駆け込み寺”です。情熱をもっているベンダーがくれば、ビジネスが上手くいく所です。「イノベーションが何か」ということもみつけられる場です。驚きやひらめきからイノベーションは生まれると思っています。

“外からの血”を入れて、(MIJSの)中に刺激を与えます。中は中で、
オンプレミスからクラウドへと転換する過程で、産みの苦しみを味わいながらも、
将来に向けてチャレンジする必要があります。
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