富士通は、一昨年6月の田中達也社長の就任後、利益率重視の経営に大きく舵を切り、SIを中心としたテクノロジーソリューション事業への注力姿勢を鮮明にするとともに、パソコン(PC)、スマートフォン関連事業の分社化などによる端末関連ビジネスの独立・分散を進めてきた。富士通の「かたちと質を変える」ことを宣言した田中体制のチャレンジは、2017年、どんな成果を富士通にもたらすのか。
レノボとの提携で蓄積を将来に生かす
──2016年は、富士通の変革を象徴するような具体的な動きが目立った年だったという印象です。まずはここまでの自己評価をお聞かせください。 社長に就任後、2015年10月に経営方針を出し、営業利益率10%、海外売上比率50%という数値目標を掲げました。そして、それを実現するための基本的な戦略として、テクノロジーソリューションに経営資源を集中して、(クラウド、ビッグデータ、IoT、AIなどによるデジタルビジネスを中心とした)「つながるサービス」を推進するという考え方を打ち出したわけです。
16年は、この基本戦略をもとに計画したことを一歩ずつ着実に進められたという実感があります。ただ、もっともっと富士通の体質変化は進めないといけないですし、つながるサービスはこれから成長させないといけない。まだまだ2合目、3合目あたりだと思っています。17年は、少し景色がみえる高いところまで来たと実感できるようにしたいですね。
──PC事業は16年2月に分社化後、レノボとの合弁で「FMV」ブランドを維持することを検討されています。 いままでの蓄積により、富士通は大変技術的にいいものをもっているとは思っているんです。ただ、PCがこれだけコモディティ化するなかで、当社技術の特徴をお客様により認めてもらうためには、一つの選択肢として、レノボとの事業的な統合の検討を進めた方がいいだろうということです。ご存じのとおり、レノボはグローバルのPC事業で非常に大きな実績を残している会社でもあり、高いシナジーが期待できると思っています。
──過去、レノボと合弁したり、同社に売却された他のPCブランドの例をみると、富士通が伝統的に高いシェアを誇ってきた国内の公共・文教市場などでシェアは下がってしまうのでは。グローバルで勝負していくということですか。 個別の産業領域ごとにお客様をみれば、いろいろな影響はあるでしょう。ただ、独立会社にした富士通クライアントコンピューティング(FCCL)にしても、事業の将来性が重要であり、どうやって成長していくのかをよく考えないといけないわけです。その結果の方針なんです。
例えば、コスト競争力がなければ、せっかくいいものをもっていても世界ではお客様に受け入れられないのは事実ですね。レノボとも細部は徹底的に議論しているところですが、結果的に彼等との提携が、富士通のPCでの蓄積を将来に生かし、いい結果を生むことになると考えています。おっしゃるようなマイナスがあったとしても、です。
コア事業以外の売上減は問題ではない
──田中社長が掲げた営業利益率10%というのはかなり意欲的な目標だと思います。ただ、その実現のために、売り上げの規模の縮小はどの程度まで許容できるのでしょうか。 企業というのは、お客様から価値を認められて生きていくものですから、利益ある成長が必要だというのが私自身の考え方です。世界で戦っていくための投資を続けるためにも重要なことです。もちろん、本来は、売り上げも利益も、両方が右肩上がりというのが理想ですよ。富士通自身、あらゆるニーズに垂直統合で応えるビジネスモデルでそれを実現した時期もありました。しかし、(もはやそれでは利益を出せないという)いまの富士通の課題を考えて、まずは売り上げを追うのではなく、テクノロジーソリューションにきちんとわれわれの強い基盤をつくることを優先したわけです。だから、テクノロジーソリューション事業の売り上げが減るのはまずいですが、それ以外の分野でいろいろな施策の影響から売り上げが減るというのは大きな問題ではないと思っています。
──PCを含む端末系の「ユビキタスソリューション」は約1兆円、LSIや電子部品の「デバイスソリューション」にしても約6000億円と、テクノロジーソリューション以外の事業の売り上げも依然としてかなりの規模ではありますが……。 例えばカーナビの富士通テンは、トヨタ、デンソーとの間の資本比率の見直し(によって富士通の連結から外すこと)を図っていますが、当社グループにいるよりももっと生きるはずです。重要なのは、これによって、非常に重要なお客様である自動車業界に対して、富士通が成長領域として注力していく、つながるサービスとのシナジーがある提案が、できるようになるということなんです。ユビキタスとデバイスについては、独立したビジネスとしての強さを追求し、外部との連携、アライアンスを含めていろいろな選択肢を検討したうえで、コア事業とのシナジーを考えていくということです。
──戦略ではあっても、急激に売上規模が減少すると市場でのプレゼンスが下がりませんか。 絶対的に強い基盤をつくれば、M&Aでシナジーを出して市場のシェアを高めることもできますから、焦ることはありません。むしろ、基盤がはっきりしていないと、M&Aをやってもしっかりマネージできなくて失敗することになると思っています。とにかく、コア事業の基盤を固めること、そして外との関係をよくみながらコア事業とのシナジーを出せるような手をタイムリーに打っていくことを重視しています。
クラウド基盤だけでは不十分
──コア事業の基盤固めという意味では、SE子会社3社の統合とデジタルビジネスのフロント組織立ち上げ、セキュリティの司令塔となる組織の新設といった動きが象徴的でした。さて、ここからどう成長軌道を描くのでしょうか。 富士通には、日本であらゆる業種のSIをやってきた経験があり、これをSoR(Systems of Record)にもSoE(Systems of Engagement)にも生かすことができます。アプリケーション開発から運用まで、トータルの品質と価値で勝負するということに尽きるでしょう。
私は、富士通をより専門的なICTベンダーにしたいと思っているんです。誰でも提供できるものしか品揃えがないなら、特徴を出せないまま価格競争のなかに埋没してしまう。そうではなくて、お客様自身の製品やサービスのあり方を考えるときに、一緒にアイデアを出してくれるかけがえのないパートナーだと思っていただけるようにしたいんです。そのためには、技術を追求するだけでなく、お客様により深く入り込んでいくことが必要です。
──勝負しているレイヤはアマゾンやマイクロソフトとは違うと。 多大な投資をして、「世界中で同じクラウド基盤を提供しますから、この上に乗っかってください」というビジネスのやり方は、確かにあります。手離れがいいですしね。実際、グローバル大手ベンダーのクラウド基盤の品質は高いとも思います。しかし、それだけではお客様のニーズに応えられないわけです。お客様は、より複雑化するIoT、大量のデータをどう成長につなげるのか、セキュリティの脅威にどう立ち向かうのか、自力のみでの対応に限界や不安を感じておられる。そういうところにこそ富士通のチャンスはあるんです。
だから、富士通も、グローバルビジネスには自分たち自身のクラウド基盤が必要だということで、「K5」ブランドでOpenStackベースのIaaSを世界展開していますが、それだけでなく、オラクル、マイクロソフト、BOXなど非常に有力なノウハウ、技術をもっているベンダーと積極的に組み、マルチクラウドでいろいろな選択肢を用意しています。
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