──あくまでもクラウド基盤はツールであって、デジタル変革の上流工程から、システム構築、運用までのトータルな品質こそが、富士通が市場に問う価値だということですね。海外も同じコンセプトで伸ばしますか。 基本的にはそうです。ただ、日本のようにトータルなSIの実績があるわけではないので、そこはやはり、それぞれの地域、国ごとのこれまでのビジネスを踏まえ、強みを生かしたコア事業をつくっていく必要があります。例えば欧州なら、英国でかなり大型の政府系システムをやっていますから、そうした実績を生かしたかたちですね。そのうえで、シナジーを考えたM&Aをやれば、積み重ねるようなかたちでビジネスを大きくしていけると思います。場合によってはかなり大型のM&Aも出てくるかもしれませんよ。
まだまだ2合目、3合目あたり。
2017年は、少し景色がみえる高いところまで来たと
実感できるようにしたいですね。
<“KEY PERSON”の愛用品>常に富士通の理念とともに 米TechShopと富士通が協業し、2016年4月、TechShopのアジア第一号店を東京にオープンした。その開所祝いで配られた革製のカードケースを愛用しており、富士通の理念・指針が書かれたカードも常に携帯している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
富士通の大きな変革に向けた具体的な戦略が実行段階に入り、これを何が何でも進めていくという強い意志を言葉の端々に感じさせるインタビューだった。営業利益率10%、海外売上比率50%という数値目標は、「いまの富士通の実力値からすると非常に高い目標ではあるが、そこまで根本から変えないと、世界と戦っていけない」という危機感の表れなのだ。
富士通やNEC、日立といった国産の大手総合ITベンダーには、日本の威信をかけてグローバルメガベンダーに対抗すべしという、ある種の誤解や幻想にもとづいた市場の期待がいつの世もつきまとう。しかし田中社長は、クラウドのプラットフォーマーとしてアマゾンやマイクロソフトと勝負しようとは思っていない。富士通は、自らの強みを冷静に見極め、グローバルの市場で「富士通ここにあり」という旗を立てるための現実的な取り組みを着実に進め始めたといえそうだ。(霹)
プロフィール
田中達也
1956年9月生まれの59歳。福岡県飯塚市出身。東京理科大学理工学部卒業後、1980年4月に富士通に入社。国内営業部門で大手鉄鋼、石油、化学分野などを担当。2000年4月、産業営業本部産業第二統括営業部プロセス産業第二営業部長。03年4月より、富士通(上海)有限公司に。09年12月、富士通産業ビジネス本部長代理(グローバルビジネス担当)就任。執行役員兼産業ビジネス本部長、執行役員常務兼Asiaリージョン長を経て、15年6月より現職。
会社紹介
日本を代表する総合ICTベンダー。2015年度(2016年3月期)の業績は、売上高が前年度比0.3%減の4兆7392億円、営業利益は同32.5%減の1206億円で減収減益となったが、基幹ビジネスであるSIの成長は死守している。