野村総合研究所(NRI)は、マーケティング手法を積極的に採り入れることで、デジタルイノベーションをより迅速に巻き起こしていく。此本臣吾社長は、ユーザー企業自身の課題と、市場のニーズ分析の両方に長けた「チーフデジタルオフィサー(CDO=最高デジタル責任者)」の重要性を指摘。テクノロジーと市場のギャップを埋める橋渡し役が強く求められるようになると話す。NRI自身も強みとするコンサルティングとITソリューションを組み合わせた「コンソリューション」を切り口に、顧客とともにデジタルイノベーションを実現していく構えだ。
業界と生活者に大きな温度差
──2017年の経済活動も本格的に動き始めましたが、情報サービス業界にとって、どんな年になるとお考えですか。 IT業界は、新しい技術が目白押しで、17年もこうしたテクノロジーの話題で盛り上がることでしょう。当社もテクノロジー企業である以上、新しい技術は積極的に採り入れていきますし、海外企業との提携やM&A(企業の合併と買収)によって知見を吸収する取り組みも加速させていきます。
新春早々に少し水を差してしまいそうですが、一方で、目新しい技術だけで押し通そうとするとうまくいかないことも、念頭に置いておく必要があると考えています。
当社が3年ごとに実施している「生活者1万人アンケート(金融編)」で、興味深い結果が出たのです。生活者に向けて「主なFinTechサービスへの関心度」を複数回答で答えてもらったところ、「家計簿アプリ」や、自動車の運転状況をセンサで読み取って保険料を決める「テレマティクス保険」は、それぞれ29%、12%と辛うじて2桁の関心度がありましたが、それ以外のクラウドファンディングや仮想通貨、P2P融資などは1割未満の人しか関心を示していないという結果になりました。
──これはまた、IT業界の盛りあがりとは、ずいぶんの温度差がありますね。 そうなんですね。私も驚いたのですが、ここが目新しい技術だけで牽引するテクノロジードリブンの手法の限界だと感じています。よく「ハイプ曲線」と言われるもので、新しい技術が登場すると、それを知った関係者で一旦は「わー」と盛りあがるのですが、往々にして生活者(市場)とギャップが開いたままなので、いざ、事業化しても思うようにはいかずに消沈。その後、実態に合わせて緩やかにビジネスの機運が高まるといった曲線を描いていく。FinTechはまさにこの曲線をなぞっているといえそうです。
──新しもの好きが多いIT業界にとっては耳の痛い話ですが、技術革新こそがIT業界の成長を支えている側面も否定できないわけで、何かギャップを埋めるようなよい方法はありませんか。 ユーザー自身が、ビジネスをどう変革したいのか。そして、市場のどのあたりにニーズがあるのかというマーケティング手法を採り入れないと難しいでしょうね。デジタルトランスフォーメーションとか、デジタルイノベーションとかいわれていることを成功させるには、自社の課題と市場創出のマーケティング力を発揮できるチーフデジタルオフィサー(CDO)的な存在が求められているように思います。
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