京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は、この2月からLPWA(低電力広域)無線ネットワーク「SIGFOX(シグフォックス)」サービスを順次立ち上げる。黒瀬善仁社長は、「今が将来に向けて一段と成長をしていくための転換期」と捉え、SIGFOX事業を事業転換の象徴プロジェクトだと位置づける。2015年末の就任以来、大胆な組織改編を遂行し成長に向けた布石を着々と打つ黒瀬社長に話を聞いた。
「SIGFOX」でIoT向けLPWAに参入
──フランスのLPWA無線ネットワーク「SIGFOX」の国内サービスをこの2月から順次スタートするわけですが、まずはその意気込みからお話しください。
IoTが注目を集め、本格的に導入する動きが出ているなか、IoTに適した無線ネットワークサービスへのニーズが高まるのは自然な流れです。であるならば、率先してIoT向け無線ネットワークを提供すべきということで、フランスのSIGFOXと組むことにしました。
当社は、携帯電話の基地局の建設やアンテナの設置、
保守運用などを担う通信エンジニアリング事業部門があり、SIGFOXのアンテナも自前で設置することができるのです。SIerで、当社ほどの規模の通信エンジニアリング部門を持っているのは、非常に珍しいのではないでしょうか。自社で無線インフラを構築できる当社ならではの強みを生かしつつ、グローバルでサービスのノウハウがあるSIGFOXと協業することで、LPWA無線ネットワークのインフラを迅速に国内展開していきます。
――15年末にトップに就いてから、KCCSの改革に力を入れてこられた印象です。どういった狙いがあるのでしょう。
京セラ本体から95年に独立して20年余りがたち、従来ビジネスの延長線上での限界がみえてきたのと同時に、新しいビジネスに向けての展望もみえてきた。今が将来に向けて一段と成長をしていくための転換期だと捉えてのことです。
社員には、「どうせやるなら、新しいこと、もっとおもしろいことをやろうじゃないか」と、機会あるごとに声をかけてきました。私自身、「自分たちがこんなものをつくりました」と、後々語り継がれるようなものをつくりたいし、世の中にまだないものをつくることで、社会の在り方、働き方もどんどん変えていきたい。
今回のSIGFOXのプロジェクトも、IoTのサービスインフラとして長く使ってもらい、将来的には「これって、あのKCCSがつくったんだよね」「このインフラがあるから、こうした新しいビジネスが立ち上がった」などと、ずっと社会の皆さんの記憶に残るような仕事にしていく思いで取り組んでいます。
──子会社も相次いでKCCS本体に取り込んでいます。
そうですね。アメーバー経営を軸とする旧KCCSマネジメントコンサルティングは16年3月1日付で、また、文教や医療分野に強い旧京セラ丸善システムインテグレーションは同12月1日付で合併しています。大きく変化をしていくときは、なるべくひとつの組織にまとめたほうが、風通しがよくなりますからね。
日本の産業の活性化につなげる
──アメーバー経営は、組織や部門単位での独立採算が基本と捉えていましたが、随分と思い切った組織統合です。
独立採算は間違いないのですが、組織がくっついたり離れたり、柔軟に変化するのもアメーバー経営の特色のひとつ。なので、別会社であまり離れすぎてもダメなんです。ましてや、今、私がやろうとしている大きなビジネスの転換は、有機的に組織を変えていったり、一時的に収益が期待できない先行投資もしなければならない。それぞれの組織がうまく協力し合ったり、融合したりする化学反応のような動きをするには、ひとつにまとめたほうが効率はいいのですよ。もちろん、この先もずっとそうするという意味ではなく、ついたり、離れたりを繰り返しながら成長していくことが大切なのです。
──ビジネスの転換期を象徴するのが今回のSIGFOX事業ということですね。
そうです。「すべてのモノが『つながる』新たな未来へ」をキャッチフレーズに推進していきます。実は日本って、電気・電子メーカーが多く、IoTとの親和性が高いと手応えを感じています。京セラ本体もさまざまな電子部品やデバイスを開発していますし、産業向けの組み込みソフトや、国内で独自に展開してきた制御用OSのITRON(アイトロン)も根強い人気がある。日本の強みとしている産業を活性化させる役割をIoTが担っていくことも、私は期待しています。
これまで野外において無線でIoTを使おうとすると、LTEや3G、Wi-Fiなどの高速回線しかありませんでした。ZigBee(ジクビー)などの比較的安価な近距離無線通信はありましたが、決して広域サービスではない。SIGFOXのようなLPWAは、これまでなかったIoT向けの広域無線通信なのですね。1デバイスあたり年額100円から、電池で5年運用可能な低消費電力がSIGFOXの特徴で、17年度(18年3月期)までに全国主要都市でSIGFOX回線サービスを提供していく予定です。
──どのような用途を想定していますか。
温度や湿度、花粉、水位、加速度、振動などあらゆるセンサと組み合わせて、社会インフラや医療、物流、農業、環境といった幅広い領域で使われることを想定しています。IoTのサービスを提供するベンダーやデバイスメーカーと連携して、市場を一段と拡大させていきます。
もうひとつ違う側面からみると、SIGFOXはとにかく安く使えますので、例えばランドセルに位置情報センサを埋め込んで、小学校の6年間、自分の子どもがどこにいるのか分かるサービスとか、いわゆるママチャリや電動自転車に組み込んで1日1回信号を出すようにしておけば、万が一、盗難に遭ったときでも、乗り捨てられた場所がすぐに分かるとか、アイデア次第でIoTがもっと身近な存在になるはずです。
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