FCA(富士通系情報処理サービス業グループ)が事業継続に向けた相互応援に取り組んでいる。計算センターにルーツをもつSIerからなるFCA会員会社の多くは、地域に密着したデータセンター(DC)を運営。自治体や病院、地場企業といった顧客を擁している。災害や事故が発生したとき、地域の情報インフラを担うDC運営を継続していけるよう、全国規模で支え合うことで、より信頼感のあるサービスを提供するのが狙いだ。相互に技術を磨き、高め合うFCAの活動について浜野一典会長に話を聞いた。
災害時の相互応援の仕組みを強化
──浜野さんが会長に就任されてから、FCAの結束が一段と強まった印象を受けます。どのような施策を打っておられるのでしょうか。
FCAは、地域の情報処理サービス会社91社からなる団体で、その会員企業の多くが地域の情報インフラを支えるDCを運営しています。私が取締役会長を務める富士通エフ・アイ・ピーもFCA会員の1社です。歴史をたどれば、1966年に地域の計算センターを担う企業によって設立されたのが始まりで、昨年5月に創立50周年を迎えました。
直近の活動は、何といってもFCAの会員のうち42社が集まって「センター相互応援コンソーシアム」を立ち上げたことです。DCは停止することが許されない情報サービスのインフラですので、災害や事故が発生したときでも事業を継続していかなければなりません。FCA会員企業は、これまでも自発的に災害時に助け合う紳士協定を結んでいたのですが、個社ごとの対応では限界もある。そこで2014年にFCAとして「災害時相互応援連絡会」を38社の会員企業で発足。16年7月に設立した今回のコンソーシアムは、それをさらに発展・拡大させたものです。
──センター相互応援コンソーシアムは具体的にどのような活動をするのですか。
災害時に必要な備品の「共同備蓄」と「緊急配送」です。過去の経験から大規模な災害が発生すると支援の手が差し伸べられるまで3日、最低限のインフラが復旧するまでに一週間ほどかかるといわれています。
DC建屋の耐震/免震の設備投資や、非常用発電機の燃料を優先的に供給してもらうよう石油会社と事前に契約するなどの備えは各社でやるしかないのですが、例えば事業継続に必要な人員用の飲料水や非常食、簡易トイレ、乾電池、懐中電灯、小型発電機といった備品は、意外に必要になるのです。コンソーシアムでは、これら備品を首都圏と関西圏にある富士通の倉庫に補完し、いざとなったら富士通のIT機器の保守部品を配送する物流網を活用して、被災会員まで届ける仕組みをつくりました。
──共同備蓄品はどのくらいあるのですか。
業務を継続する人員390人分相当の備品が2日分です。想定では、災害発生から最初の3日間は、個社が備えていた備品で対応し、少し落ち着いてきた4日目、5日目の分をコンソーシアムの共同備蓄倉庫から配送。それ以降は会員同士の応援で補い、インフラ復旧まで業務を継続できるようにします。
本番さながらの防災訓練を実施
──浜野会長ご自身は、過去の災害でどのようなご経験をされましたか。
東日本大震災はもちろん強烈な記憶ですが、個人的には富士通で現場の営業を担当していた95年の阪神・淡路大震災が印象に残っていますね。あのときはFCAに組織だった相互応援の仕組みがなかったため、富士通の物流網を十分に活用できませんでした。富士通のグループ内では、事業継続や災害復旧に必要なパソコンやサーバーといったIT機器を被災地に送ったのですが、あのとき、富士通のビジネスパートナーまでは今ほどの支援ができていなかった。
──なるほど、広い意味での富士通の顧客は、富士通本体の直接的な取引先だけでなく、ビジネスパートナーの顧客も含まれるわけで、富士通がもつインフラを顧客のために使う文脈でFCAと富士通の協業はとても意義がありますね。
そうです。富士通は全国75か所の物流拠点をもっており、災害時にはこの物流網をビジネスパートナーにも一部使ってもらうことで、直販、間接販売を問わず、すべての富士通ユーザーの事業継続に役立ててもらう狙いがあります。
もう一つ忘れてはならないのがソフト面での充実です。ただでさえ混乱する災害時に、迅速かつ的確な情報を集め、効率よく応援できるようFCAでは毎年9月、会員各社もそれぞれ独自に防災訓練を実施しています。FCAとして今のかたちでの会員各社が合同して防災訓練を始めたのは14年からで、今年9月で第4回目となります。
──防災訓練は、どのように実施しておられるのですか。
昨年9月の訓練では、新潟県沖で地震が発生し、被災会員所在地の震度は6強と想定しました。FCAでは、全国を東部、中部、西部の三つのブロックに分けて、それぞれ正副ブロック長を決めて、応援要否や応援内容を取りまとめる役割を担っています。災害発生時の各社役割に応じた手順の確認や連絡ツール、チェックリストの確認、共同備蓄品の配送手配と受け渡しなどが主な訓練内容です。
ちなみに今期の東ブロック長はエフコム、副はBSNアイネット。中ブロック長は富士通エフ・アイ・ピー、副は北陸コンピュータ・サービスと三重電子計算センター。西ブロック長はさくらケーシーエス、副は両備システムズに担当してもらっています。
──訓練を通じてどんな課題が浮き彫りになりましたか。
毎回、新しい発見や気づきがあります。缶詰を送ったときに、ちゃんと缶切りと箸は付属しているかどうかの細かな点から、応援技術者が他社のDC設備に出向いて作業するとき、スムーズに作業できるかどうかに至るまで、実際に訓練してみないとわからないことはたくさんあります。他社のDCで作業するなんて、日常では普通あり得ないですから意外にハードルが高かったりしますよ。
また、首都圏や大阪、名古屋といった大都市が機能不全となるような都市型災害が発生したとき、果たしてFCAだけの体制でカバーできるかどうかが、今後の課題としてあげられます。例えば地域の情報インフラを支えるDCの重要性を理解していただいたうえで、有事の際には自治体や国などともっと連携できないか模索していきたい。
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