三島勉氏がブラザー販売の代表取締役社長に就任してから1年が経過した。前社長体制では家庭用プリンタ「PRIVIO」の認知率向上にリソースを割いていたが、三島体制ではビジネス向けの「JUSTIO」に注力。とくに収益力を強化するため、SOHOからSMB(中堅・中小企業)市場の開拓と販売拡大に取り組んでいる。医療や店舗、物流、製造などの業種に特化したソリューションの提案を推進している。
プリンタ市場の変化に合わせLTV戦略へ
──2016年4月に就任されてから1年が経ちました。この1年を振り返って率直な感想を聞かせてください。
あっという間に過ぎた、短い1年でしたね。社長に就任してから、振る舞いがだいぶ変わりました。もともとは慎重な性格なんです。若い頃にはいろいろトライをしましたが、成功よりも失敗のほうが多かったと思います。そのため、自然と慎重に、時にはネガティブな考え方をするようになってしまったのですが、トップがそれではよろしくない。失敗を恐れずに取り組む、というブラザーのDNAを部下や若い人には伝えなければいけない。片山俊介前社長のモットーが「明るく、楽しく、元気よく」だったのですが、それを引き継ごうと笑顔を心がけています。
──昨年はブラザー販売にとってどんな1年でしたか。
3か年の新しい中期経営計画の最初の年で、変革の年でした。今までのやり方をすべて変えようと、第一歩を踏み出した年です。この背景にあるのが、プリンタ市場の急激な変化です。プリンタ市場はまだ新興国を含めて伸びるだろうと思っていました。そのため、成長への再挑戦として、全事業、全地域で伸ばそうとしていました。とくに家庭用市場でのシェア、認知度を高めるために広告を打つなどして取り組んできました。
ところがここ1~2年で国内だけではなく、ワールドワイドでもがらりと状況が変わった。スマートフォン、タブレット端末の普及により印刷機会が減少し、プリンタの販売台数、印刷枚数が伸びない。家庭用市場でのシェア、認知度は高まりましたが、市場が縮んだため、売価が2割近くも落ちてしまいました。販売台数やシェアを追い、インクで稼ぐ時代ではなくなったのです。写真や年賀状の印刷枚数も減りました。ビジネスでも同様で、例えばこれから訪問する先までの地図や乗り換えの案内など、ちょっとしたものを印刷する機会も減り、スマートフォンで確認するようになりました。こういった状況の変化を捉え、これからはビジネスを中心にやっていく方向へと舵を切りました。
──もともとSOHO向けに強い御社が、昨年はSMB向け製品を投入しました。SMB市場への参入に踏み切った経緯を教えてください。
SOHO市場は長年取り組んできましたから、他社に負けないという自負があります。シェアも50%ほど取っています。しかし、これ以上伸ばすのは難しい。台数やシェアを伸ばそうと価格を下げると採算が合わず、意味がありません。しかも、1台あたりの印刷枚数は落ちている。これまでのインクで稼ぐビジネスモデルが難しいわけです。すると、これからはたくさん刷るお客様とどれだけつながるかを考え、LTV(Life Time Value)戦略を推し進めないといけない。LTVやランニングコスト、ユニットの価格など、TCO(Total Cost of Ownership)の高いお客様と考えた時、SOHOの一つ上のSMBまで広げていく必要があるとなったわけです。
既存業種のSMB市場を開拓
──SOHOからSMBへと、新規市場開拓に取り組まれるわけですが、オフィス向け市場に参入する予定はありますか。
オフィス向けはやはりコピー機メーカーさんが強いですから、ここでシェアを伸ばそうとするとお金や時間がかかってしまい、効率が悪い。そうではなく、ブラザーの強みを生かせる業種に注力していきます。ブラザーの強みであるモノクロのページプリンタは医療系、小売り、飲食店などから、小型、高性能、信頼性の高さで支持をいただいています。これらの業種のSMB市場を開拓していきます。
具体的には、医療系の場合、医療現場での認知度を高めるために、医療向けシステムを提供しているSIer様や販売店様へのアプローチを強化しています。電子カルテなどの医療系システムとプリンタを連携させたい、というニーズが高いので、システム連携の認証をしっかり取っていかないといけません。今年、システムとのマッチングをサポートする部隊をつくりましたので、活動を強化していきます。
また、同じくモノクロのページプリンタの需要が高い物流、製造などへも拡大していきます。まったく新しい業種に広げるのではなく、ノウハウをもっている業種に縦で展開し、中堅まで拡大する計画です。
──昨年、SMB向け製品の第一弾を投入されましたが、販売戦略を教えてください。また、製品ラインアップは拡大していくのでしょうか。
まずは提案力を強化していきます。営業、マーケティングが業種、業界に精通して、どうすれば売れるのか、提案方法を習っていくことが必要です。第一世代の「MFC-L6900DW」は、従来モデルの2倍となる60万枚の装置耐久性を備え、1枚あたりのランニングコストを2円に押さえることができました。交換部品込みの新サービスパックを用意し、保守サービスも充実させ、SMBのニーズに応えました。SOHO向けには最強だという自負がありますが、医療、物流の世界ではどうかはわかりません。ですが、ベースの機械の競争力はありますし、市場の伸びしろもあります。製品開発の部分では、お客様の声をブラザー工業にフィードバックし、製品を進化させていきます。
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