働き方改革は好業績と密に関係か
──SCSKは社員の健康管理を経営的な視点から捉える「健康経営銘柄」、女性活躍推進に積極的に取り組む企業として「なでしこ銘柄」にそれぞれ3年連続で選定されるなど、働き方改革で成果を挙げておられます。働き方改革は、業績や顧客からの評価向上に役立っていますか。
どうでしょう。数字をみると合併直後の2011年度の有給休暇取得率は66.7%、平均月間残業時間は27時間でした。これを13年度以降は有休取得率95%台の水準に高めており、14年度以降の残業時間は17~18時間までに減らしています。一方、業績は合併以来の増収増益ですので、相関関係があるのかもしれません。
ただ、いえることは有休取得率を高めようと思ったら組織の生産性を高めなければならないということです。10人でやる仕事を9人で回せるようになれば、有休もとりやすくなり、産休育休への対応も余裕が出てきます。残業については、もっとわかりやすくて、残業コストを削れば利益率も上がりますし、コスト競争力も高まる。
例えば、システム開発で製造工程にかかる時間を自動化や部品化技術によって半分に減らせたら、設計にかける時間を1.5倍に増やせます。これまでの経験から不採算案件の大半は設計の段階での問題に起因している。ここの問題を徹底的に潰せば不採算対応で残業時間が増えることも、利益が減ることも防止できます。もちろん生産性の向上、顧客満足度の向上にもつながります。
──働き方改革は、生産性をより高めようとする動機づけになったり、不採算案件の抑制という点において、大きな効果が出ているといえそうです。
そうであったらうれしいですね。当社グループは、アウトソーシングサービスのニアショア拠点として、北は岩手、南は沖縄まで全国6拠点、約500人の体制で運営していますが、これを早々に1000人体制へ倍増させたい。Uターン、Iターン、地元で働きたい人が地元で働ける環境をつくることが、働き方改革や地方創生にもつながります。東京で一定期間経験を積んだ後に好きな地方で働けるようにしたり、どこにいても仕事ができる仕組みづくりを充実させていきたいですね。
──最後に今後の展望をお聞かせください。
トップラインを伸ばす三つの柱のうちのグローバル事業を、今後、一段と強化しなければなりません。それに、サービス事業も昨年度はようやく500億円規模へと成長してきましたが、中期経営計画の最終年度の20年3月期には1000億円規模へと倍増させたいと考えています。その頃には車載OSをはじめとする戦略的事業がいよいよ本格的に拡大期に入ってきますので、こちらもトップラインの成長エンジンとなってくれることを期待しています。
数字しかみない上司がいて、私はそういうタイプの上司が嫌いだった。企業ですので売り上げや利益は大事。
でも、数字だけでは「顧客からの評価」の視点が欠けている。
<“KEY PERSON”の愛用品>頭の整理にも役立って一石二鳥
お気に入りの文房具セット。こだわりはB5版のノートに手書きメモをとること。顧客との会話や社内の会議、ふと思いついたアイデアなどが、小さな文字でびっしりと書き込んである。「手を動かすことで頭の整理にも役立って一石二鳥」と話す。

眼光紙背 ~取材を終えて~
現場からたたき上げの谷原社長が、「自分たちがもっている商材を横断的にとりまとめる能力を一段と高めていかなければならない」と、熱っぽく語っていたのが印象的だった。
顧客の課題を表面的にしかみなかったり、AIだ、IoTだ、FinTechだと流行りのローマ字IT用語を並べて、「何か専門家になったような気分に浸ったりするのは、私は到底受け入れられない」とも。
谷原社長が目指す戦略的ITパートナーになるためには、総合力を発揮するためのフロントの強化が欠かせないだろう。金融や製造、流通などの業種商材、基幹系やITインフラ、運用アウトソーシングといった階層的な商材を、縦軸と横軸のマトリックスで捉えて、顧客の課題を解決していくものだ。
少し頑固な側面ものぞかせつつも、SIビジネス一筋の社長らしい実直な言葉と行動力でSCSKグループを力強く引っ張っていく。(寶)
プロフィール
谷原 徹
(たにはら とおる)
1959年、大阪府生まれ。大阪電気通信大学工学部卒業。82年、コンピューターサービス(後に社名をCSKに変更)に入社。エンジニアとして金融や製造、流通などのシステム構築・開発・保守を経験。2003年、執行役員。11年の旧住商情報システムとの合併により、SCSK取締役専務執行役員。ITマネジメント事業部門長、製造システム事業部門長などを歴任し、16年4月、代表取締役社長に就任。現在は代表取締役社長執行役員。
会社紹介
SCSKの昨年度(2017年3月期)連結売上高は前年度比1.7%増の3293億円、営業利益は同6.1%増の337億円。今年度(18年3月期)は売上高同3.2%増の3400億円、営業利益同6.8%増の360億円を目指す。20年3月期までの5か年中期経営計画では営業利益500億円の目標を掲げている。