IoTや自動車、ロボットのすべてに深く結びつく組み込みソフト開発。新分野へと大きくビジネスの領域が広がる今、組み込みソフト開発の業界団体も世代交代に踏み切った。組込みシステム技術協会(JASA)は、今年6月に役員を刷新。新時代の組み込みソフト業界の顔として会長に就任したのは竹内嘉一氏(日新システムズ社長)だ。竹内氏はいち早く日本の組み込みソフト開発にインターネットの技術を採り入れた立役者でもある。今でいうIoTの先駆者だ。組み込みソフトにかける熱い思いを存分に語ってもらった。
IoT、自動車、ロボットは新三種の神器
──組込みシステム技術協会(JASA)会長に就任して3か月。まずは組み込みソフト業界をどのように捉えているのかお聞かせください。
組み込みソフトの最大の特徴は、リアルタイム制御にあります。例えば、ロケットや飛行機の制御はコンマ数秒遅れただけで重大事故につながりかねません。同じことが自動車の制御にもいえますよね。一つひとつのセンサやモーターを遅延なく、寸分の狂いもなく制御することで人工衛星を軌道上に投入できたり、巨大なプラントを安全に動かすことができるのです。
JASAはこうした組み込みソフト開発を手がけるソフト開発ベンダーやSIerから構成される団体です。昨年で設立30周年を迎えました。このタイミングで役員の若返りを図ろうということになり、今年6月22日に会長を拝命。理事全員を見渡しても、ざっと10歳ほど若返ったのではないでしょうか。
組み込みソフトとよく比較されるのが業務アプリケーションソフトです。業界団体も別にあって、組み込みソフト系は当協会、業務ソフト系は情報サービス産業協会(JISA)に分かれています。当協会は日本の組み込みソフト業界を代表する唯一の団体と自負しています。
──かつては「携帯電話、情報家電、車載」が組み込み“三種の神器”といわれていましたが、今はどうなのでしょう。
挙げるとしたら「IoT、自動車、ロボット」ですね。IoTは、さまざまなセンサデバイスから情報を集め、ビッグデータやAI(人工知能)を支える基盤です。そして、組み込みソフトはセンサデバイスを制御する重要な役割を果たします。センサ側にも何らかのインテリジェンスを実装するときも、組み込みソフトが役立ちます。
自動車の自動運転は、組み込みソフト技術によるリアルタイム制御が不可欠です。自動運転の実現までに、いくつかの段階を踏まえていく見通しですが、どの発展段階においてもハードウェアと組み込みソフトの両方の発達を成し遂げる必要があります。
ロボットは、今のところ産業ロボットや人工衛星などを念頭に置いていますが、将来的にはAIで動く自律型ロボットも視野に入ってくるでしょう。AIも今のアーキテクチャの延長線上では限界があって、いずれ新しいハードウェアが登場し、そのハードの性能をフルに引き出す組み込みソフトの発展を誘発すると想定しています。
課題解決型の組み込みソフトに期待
──「IoT、自動車、ロボット」は、日本が技術立国であり続けるための重要な産業基盤です。ただ、その割には組み込みソフトは、少しばかり地味な印象が拭えません。
厳しい意見ですね。私の推計ですと、モジュール類を含む組み込みソフト市場全体でみると、国内情報サービス市場全体のうち2割あまりを占める規模感です。旧三種の神器の「携帯電話、情報家電、車載」の頃は、組み込みソフト技術者の重要性が認識され、国の政策にも反映していただいた経緯もあるのですが、その後、少し下火になった感はあるのかもしれません。今、再び「IoT、自動車、ロボット」という新三種の神器において、国の重要な産業基盤を支えるポジションにいます。JASAとしても従来に増して、国への政策提言も含めて積極的に各方面に訴えていきたい。
JASAでは、組込み総合技術展(ET)をはじめとする大型展示会を開催しています。そこでの参加各社の展示内容も、大きく様変わりしたと、ここ数年とくに強く感じるようになりました。課題を想定して、その課題を解決するために「こんな技術を開発した」とか、組み込み技術を使った「こんなサービスを始めた」とか、来場者に訴える展示が多くを占めるようになったのです。
組み込みソフト業界は、自動車や電機などのメーカーから仕事を依頼されるため、ややもすれば受け身になりがちでした。もちろん、そうした受託仕事も大切ですよ。しかし、広く社会全体に認知してもらうには、やはりユーザーや社会が抱える課題を解決する提案型のビジネスを、もっと伸ばしていくことが大切だと捉えています。
──海外へ向けてのJASAとしての働きかけはどうでしょう。日本の組み込みソフトの技術力の高さを知ってもらうことは意義のあることだと思います。
欧米先進国向けと、アジア成長国向けで、大きく分けて考えています。欧米向けではJASAが提案する組み込みシステム向けフレームワーク「OpenEL(オープン・エンベデッド・ライブラリ)」の国際標準化を推進していきます。OpenELはハードウェアの違いを吸収して、組み込みソフトの移植性を高めたり、ソフトウェア部品の再利用しやすいよう標準化するための規格です。組み込みソフトの生産性を高めるのに役立てられており、これを世界的な標準規格として、もっと活用してもらえるよう働きかけているところです。
アジア成長国では、組み込みソフト開発人材が盛んに育成されていることを受けて、JASAが運営している組込み技術者試験制度「ETEC(イーテック)」を推奨していきます。アジア各国でETECと互換性のある技術測定の仕組みがあれば、オフショア開発や技術者の交流に必ず役に立つと手応えを感じています。
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