長い取引関係を信頼に「つなげる」
──将来に向けての成長戦略についてお話しいただけませんか。
当社はさまざまな強みをもっていますが、私が重視しているのは顧客に長く安定したサービスを提供し続けることです。ITの技術革新をしっかりキャッチアップしていくことや、顧客が抱える課題を解決していく姿勢は当然のこととして貫いていきます。しかし、多くの顧客は、重要なITを任せるベンダー企業の継続性も同時に望んでいるのではないでしょうか。
私は社長に就いてからの21年間、顧客との取引を長く継続できるよう、社内の組織づくりにとりわけ心血を注いできました。初代が会社を興し、二代目で大きく成長した。ただ、これから四代目、五代目と経営を続けていくには、世代交代や技能継承を安定して行える仕組みづくりが欠かせません。
冒頭にお話しした農協向けのビジネスでは、当初は電話の敷設から始まって、今では農家の簿記や確定申告書の作成、経営収支分析などをクラウド方式で提供するサービスまで手がけています。実に半世紀余りにわたって、その時代ごとにユーザーが抱える課題を解決してきました。将来に向けても、当社の継続性が顧客との信頼醸成をより一段と促進させ、ビジネスを伸ばしていくことにつながっていくものと信じています。
――確かに、ITが顧客のビジネスを支える重要インフラになればなるほど、継続性は重要度を増しますね。
昔は電話がそうだったのですよ。電話って絶対に故障は許されない世界です。とくに日本の電話の品質の高さは世界でもトップクラス。それが今はネットワークに置き換わり、同じように社会や企業活動を支えている。ネットワークって、いくらソフトウェアで制御する時代になっても、ラストワンマイルや客先の構内網は、必ず物理的に存在しますよね。ここを長期にわたってサポートできる、良好で長く安定した取引関係があってこそ、そのネットワーク上で動くソフトウェアやサービスを任せてもらえるというものです。
幸い当社の売上構成比は、官公庁や自治体、公立学校などの官需が約55%、農協や一般産業など民需が約45%で推移しています。民需が落ち込んだときは公共投資が増える傾向にありますので、景気変動にもある程度の耐性があります。こうした強みを生かして、これからも顧客と長期にわたる良好な信頼関係を基礎に、ビジネスを伸ばしていきます。
事業の継続性が顧客との信頼醸成をより一段と促進させ、
ビジネスを伸ばしていくことにつながっていく。
<“KEY PERSON”の愛用品>社員への手書きメッセージに使う万年筆
社長就任時に買った万年筆。賞与や資格取得、永年勤続の報奨を渡すときにメッセージカードを入れているが、「万年筆で書いたほうがふさわしい」と思い購入した。実際に使ってみると思いのほか書きやすく、今ではふだん用としても愛用しているとのこと。


眼光紙背 ~取材を終えて~
電話敷設で会社を興した祖父、NECのパソコンで大きく成長させた二代目の父親。そして三代目の役割は、「会社を持続可能なしっかりとした組織体にすること」だと、トップに就いてからずっと肝に銘じてきた。
日本を再び興そうとした創業の熱い思いを受け継いでいくには、第一に事業の継続性が欠かせないからだ。70年にわたって支えてくれた顧客も、日興通信のその継続性に安心と信頼を感じている。
ただ、人が働ける時間は長くても40年余り。いま活躍してくれている社員はみんな長い社歴の一部分を担っているに過ぎない。もちろん鈴木社長自身も創業期を知らない。
だからこそ、「歴史の一コマに、よい仕事をした証しを残して欲しい」と、社員に語りかける。日本の再興に尽力した創業者の思いを受け継いだ社員一人ひとりの実績が連綿とつながり、未来をより輝かしいものにする。(寶)
プロフィール
鈴木範夫
(すずき のりお)
1957年、東京都生まれ。82年、早稲田大学大学院修士課程(建築史)卒業。86年、米クレアモント大学院経営管理学科卒業。87年、日興通信入社。91年、取締役。95年、常務取締役。96年、3代目の代表取締役社長就任。北海道日興通信社長を兼務。
会社紹介
日興通信は1947年6月28日に創業。今年70周年を迎えた老舗SIerだ。NECの古参のビジネスパートナーでもある。直近の単体売上高は186億円、従業員数約460人、全国36拠点を展開。グループ会社の北海道日興通信は、放送局向けの電子テロップや、デジタルサイネージ(電子看板)システムなどを開発している。