富士通の構造改革は、順調に進んでいるようにみえる。PC事業における中国レノボ・グループとの協業交渉は、発表から1年以上を経て、2017年11月にようやく決着をみた。富士通グループ単独で採算がとれない事業は連結対象から外すかたちも含めて分散を進め、とにかくSIに重点を絞って高収益体質への転換を進めている。だが、富士通は巨大なSIerとして生きていければ、それでいいのか。田中達也社長に、あらためて疑問を投げかけてみた。
過去最高益を目指す段階までたどり着いた
──直近、17年度(18年3月期)上期の連結決算では、増収増益を達成し、通期の計画としても、営業利益1850億円、最終当期利益1450億円と過去最高益の更新を目指す方針に変更はないとのこと。どう自己評価されていますか。
今夏、私が社長に就任して3年目に突入しました。いま進んでいる方向が正しいことを確信でき、手ごたえを感じられる年にしたいと思いながらやってきました。成果も課題も両方いろいろありますが、確実に手を打ってきているという自負はあります。
15年10月に営業利益率10%、海外売上比率50%という目標を掲げました。その達成のための注力領域として、「つながるサービス」、つまりはデジタル技術を組み合わせてデータを集め、分析し、価値に変換してプロセスを最適に制御するという価値創造のサイクルを実現するSIビジネスへの注力を鮮明にして、投資も集中させていたわけです。この道筋は着実にできつつあり、純利益については過去最高益を目指せるところにきたということです。
──課題についても具体的に教えてください。
グローバル競争はどんどん激しくなってきています。そのなかで新しい競合も出てきていますので、われわれも手を打っていかないといけません。とくにデジタルビジネスの領域では、スタートアップから始まった会社も台頭しており、スピード感という点であらためて大きな課題を感じているところです。
──新しい競合とは、具体的にどの企業のことを指しておられるのでしょう。
特定の企業名は挙げませんが、二種類あると思っています。一つはプラットフォーマーといわれる、新しいグローバルスタンダードとなるような基盤を提供している企業については、競合としてきちんと意識しないといけないでしょう。例えばIoT、クラウドなどの領域ですね。
もう一つは、新しいビジネスモデルを提示して市場をつくるような動きをしている企業ですね。当社に限らず、日本企業というのはまだまだ技術的にはすばらしいものをもっていると思うんですが、ここがあまりうまくない。画期的な技術をお客様に対する具体的なサービスにどう落とし込んでいくのか、モデルをうまく提示できていないという側面があります。
量子コンピュータで抜きん出る
──PC事業の実質的な売却など、近年の富士通は主力事業のSIにとにかく力を集中させて利益を出せる体質を追求し、成果も出つつある印象ですが、グローバルなプラットフォーマーを競合として意識されているということは、プラットフォーマーとしての覇権を目指すことも諦めていないということですか。少なくともクラウドでは、メガクラウドと競うというより、補完的に共生していくアプローチにみえます。
クラウドでは、すでに勢力図ができているのは確かです。しかし、プラットフォームって一体何なのかと考えたときに、お客様に受け入れられるかたちはどんどん変わっていきます。市場は常に変化していて、そのスピードも速いですから、われわれがプラットフォーマーになれるチャンスは十分にあると思っています。
──そうすると、SIに注力して利益率を高めるというのはゴールではなく、その先に、富士通が目指すもっと大きい、いわゆるプラットフォーマーとしてのビジネスがあるということですね。
そうです。そのための布石を一つずつ着実に打って、実績を出していかないといけません。
──日本企業には技術力がまだあるというお話しでしたが、新しいビジネスモデルやプラットフォームにつながりそうな具体例を教えてください。
富士通の「デジタルアニーラ」という、いわば量子コンピュータの機能をデジタル回路上で実現する新技術があります。これはすごいですよ。技術的にかなり先行していると思っています。量子コンピュータ向けソフトウェアで先行するカナダの1QBインフォメーション・テクロノジーズ(1QBit)とも協業していて、その成果を当社のAI「Zinrai」のクラウドサービスのオプションとして今年度中に提供する予定です。
この技術を使えば、従来時間がかかりすぎて諦めていたこと、あるいは非常に難しくてできないだろうと思っていたことが解決できる可能性があります。社内に指示を出しているのは、これをお客様にわかりやすいモデルとして、パートナー企業も巻き込んでどんどん提案していこうということです。すでに複数のユーザーに先行して提供しているのですが、ものすごく大きな実績というか、効果が出ています。もっともっとわれわれが先行して経験を積んでいきたいですね。
──現行のビジネスに目を向けると、デジタルビジネスの推進役としてデジタルフロントビジネスグループを約1年前に立ち上げ、顧客との共創の推進役の「デジタルイノベータ」という新しい職種もつくりました。効果は出ていますか。
富士通には、もともとお客様の業務課題の解決を支援する「フィールドイノベータ」というプロフェッショナルがいて、彼らがものすごい数のプロジェクトを手がけて経験を積んできました。そこにデジタルビジネスのためのスキルを身に着けたデジタルイノベータを組み合わせることで、非常に強い、お客様の要求に真に応えられる体制になっていくと思っています。
──デジタルイノベータを機能させるための課題についてはどうですか。
デジタルビジネスのアイデア創出から新興技術の適用、システムの運用まで一気通貫でやれる体制をつくろうとしていますが、もう少し上流側の機能を強化しなければならないと考えています。
──SI子会社を吸収し、エンジニアのリソースをどんどん富士通本体に統合してきて、17年10月には富士通BSCを100%子会社にすると発表しましたが、そこから人材を育てるということになりますか。
富士通グループ内部の統合とか、内部からの育成だけですむとは思っていません。どんどん変化は激しくなりますし、外の人材を入れていく、あるいはM&Aをやるということも手法としては必要になってくるでしょう。ただ、その時に、自分たちの現時点の強みとシナジーが出せる組み合わせであるかどうかはよく見極める必要があります。
[次のページ]PC事業でも富士通のDNAは死なず