周回遅れでもショートカットで追い抜ける
──デジタル変革では日本が先進地域から数週遅れているというご指摘もありました。どうしたら追いつけるのでしょう。
いまの状況は、黒船来航と同じかなと思っているんです。日本がその後の明治維新からの発展と同じような軌跡をたどることができるかがカギです。
デジタル化というのは、いわば応用問題なんです。日本の企業には、すごい要素技術をもっている企業がたくさんありますが、それは計算問題でしかない。計算問題しかやったことがない人が難しい応用問題にいきなりぶち当たってもなかなか解けないですよね。しかし、幸いにしてデジタル変革によるビジネスの競争はマラソンとは違うので、周回遅れでもそんなに悲観する必要はありません。ショートカットしてすぐに追い抜くこともできるんです。応用問題の事例はグローバルにあって、そこからたくさんの知見を得ることで、それが可能になります。
──市場のモメンタムもようやく高まってきた感はあります。
クラウド一つをとってみても、日本では情報系のクラウド化こそ比較的順調に進んだものの、米国のように基幹系のクラウド化がそれに続くという流れがなかなか起きませんでした。それが近年では、ERPパッケージベンダーとクラウドベンダーの連携などにより、ようやく基幹系のクラウド化がトレンドになってきましたし、それだけにとどまらず、情報システムのすべてをクラウドにもっていき、デジタル時代に対応できるものに刷新しようという動きに一気に突き抜けたように思えます。
──ユーザー企業側のマインドも大きく変化しているということですね。
もう日本の大企業のトップは、多くの人がデジタル変革の必要性に気がついていますよ。メガバンクのクラウド活用の動きやFinTechへの積極的な投資もそうですし、コマツがSAPなどと組んでIoTプラットフォームを展開しているなどというのも、デジタル時代の新しい動きです。
当社にも、ワークショップの段階から参加してデジタル化の手伝いをしてほしいという依頼が増えています。デジタルの波に乗り遅れたくないという日本企業の危機感は大きいですし、そこが当社にとっての大きなビジネスチャンスだと思っています。
マイクロソフト・テクノロジーを核にして水平統合を進めていくというのは、ベンダーのビジネスとしても非常に優位性があるんです。
<“KEY PERSON”の愛用品>推理小説が英語学習のテキスト
外資系ベンダーの日本法人トップとして活躍する安間氏だが、30代なかばまで「英語が喋れなかった」という。そこから独学で習得したが、英米の推理小説を原語で読むことを習慣にしたところ実力が飛躍的に進歩。「大事なのは楽しんで勉強すること」。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ユニークな出自をもつベンダーらしく、日本法人の代表取締役を務める安間さんもユニークな経歴をもつ。新卒で入社した全労災など、2社で15年以上、ユーザー企業の立場で情報システムにかかわった。その後、コンサルに転じ、ITを提案する側に。「変な経歴にみえるかもしれないが、その時々に、自分の気持ちに素直に、おもしろいなと思う方向に進んだ結果。偶然のきっかけや偶然の出会いを楽しむことができたから今がある」という。社会人になりたての頃は、自らが外資系ベンダーの社長になるとは思いもしなかった。英語も、「30代半ばで偶然上司が外国人になったので何とか四苦八苦して身につけただけ」だそうで、「いまになって役に立った」と笑う。ユーザー企業でベンダーの提案を受ける立場を経験したことも、これまでのビジネスで大いに役に立っているという。
「今までもこれからも、おもしろい仕事がしたい」というのが行動原理。ITが大きく社会を変えようとしているこの時代に、確かな爪痕を残したいと考えている。(霹)
プロフィール
安間 裕
(あんま ゆたか)
1959年9月生まれ。82年、明治大学文学部文学科フランス文学専攻卒。同年、全国労働者共済生活協同組合連合会入社。98年にアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ社長、アクセンチュア執行役員アウトソーシング本部長、同ビジネスプロセス・アウトソーシング本部統括本部長などを経て、2011年、フューチャーアーキテクトに移籍。執行役員ストラテジックビジネス事業本部長を務める。14年5月、アバナードに入社し、現職に。
会社紹介
アクセンチュアとマイクロソフトの共同出資により誕生した米アバナードの日本法人。米アバナードは2000年4月に設立、日本法人は05年7月設立。両者の技術・ノウハウを融合させ、マイクロソフト・プラットフォームに特化したテクノロジーコンサルティングとデリバリを行う。グローバルでは3万人の社員を抱える。