2020年度を最終年度とする新中期経営計画が18年にスタートしたサトーホールディングス。同社の強みは、バーコード、磁気カード、RFIDなどのデータを自動で取り込み、内容を認識する自動認識ソリューション。新中期経営計画ではこのソリューションを柱に、新たな印刷技術を組み合わせることでビジネスを創造しようとしている。新中期経営計画とともに歩むのは今年4月に就任したばかりの小瀧龍太郎社長だ。新社長が目指す先とは。
リプレース戦略で17年度はプラスに
──2017年度は増収増益で締めくくることができました。貢献した事業とその要因は何でしょうか。
国内では、ラベルプリンターの売り上げが全体を押し上げました。この製品は、製造業を中心に、物流、倉庫などに販売している4インチ幅のラベルプリンターです。前モデルのディスコンのタイミングがきましたので、16年から「戦略リプレース」と名づけ、集中的に展開してきました。
新モデルへと切り替えるだけではなく、点検とユーザーの声を聞くことを目的に顧客訪問を実施しました。現場を回ることで新規開拓を行うことが狙いです。実際に訪問してみると、前モデルを販売した数年前と比べて、現場の要求や課題が変わっていることがわかりました。現場での気づきをもとに、新たな提案ができるようになりました。
「SATO Online Services(SOS)」という保守サービスがあります。これはIoTを実装したサービスで、ラベルプリンターの稼働状況を24時間365日遠隔監視し、問題が起きそうな箇所を事前に見つけて必要なサポートを行う、というものです。顧客の業務を止めることなく、安定稼働が実現できます。リプレースのタイミングでSOSを合わせて提案し、一案件あたりの売り上げを伸ばすことができました。
リプレース需要を確実に獲得するだけではなく、現場の課題を再認識して再提案し、新規開拓へと結びつけることで、プラスアルファの商談を生み出すことができました。
──海外事業ではソリューション開発会社SATO Global Solutions(SGS)の精算を決断しましたね。15年に設立したばかりの会社をなぜ、精算するのでしょうか。
SGSはアパレル業界向けの店舗ソリューションを開発するために設立しました。設立から3年でブレークイーブンにもっていく計画でしたが、エンドユーザーのニーズを吸い上げきれず、開発が遅れ、結果として赤字が3年も続いてしまいました。当社の新規事業設立の条件として、3年赤字が続いたら撤退も含めて見直す、というものがあります。開発場所や規模などを見直した結果、一度整理して新たに取り組んだほうがいいと判断しました。とはいえ、ソリューション開発をやめるつもりはありません。アパレル業界向けの店舗ソリューションには大変期待しています。すでにグローバルのアパレル企業数社から評価をいただいています。
──どのようなソリューションになるのでしょうか。
アパレル店舗では、店頭に売れている商品がきちんと並んでいるかが課題となっています。そのため、商品にRFID(ICタグ)を付け、在庫管理の精度を高めます。必要な時、必要な場所に必要な数の商品をそろえることでチャンスロスを防ぎ、正確な棚卸しによって陳列までのリードタイムを適正に保ちます。
二つめは、試着室のサイネージと店員のスマートフォンで店舗内在庫を確認できるようにすることで、店舗における来店客サービスの向上を図ります。例えば、商品が試着室にある場合、その商品と組み合わせたい別の商品を提案することができます。また店舗側は商品が試着室に持ち込まれた回数などのマーケティング情報を得ることができます。
三つめは、来店客と店員の導線を可視化することで、生産性を高めることができます。経営者にとってこうした情報は、何が課題でどのような手立てを打ったらいいのか、その気づきになります。今年の秋からアパレル企業とともにトライアルを開始する計画です。
自動認識×新印刷技術で生まれるもの
──新中期経営計画では、新印刷技術の開発、事業化が盛り込まれていました。新印刷技術とはどういったものでしょうか。
新印刷技術のインライン・デジタル・プリンティング(IDP)は、特殊な感熱顔料をインクに混ぜて、レーザー光を照射することで発色させる独自技術です。まだ開発段階ですが、この技術を確立し、19年度には商業化を目指します。21年度にはカラー化を目標に据えています。
この技術を使い、消費財に付加価値をつけるソリューションを考えています。例えば、飲料ボトルのパッケージです。パッケージは、別の場所で印刷して、在庫として保管します。これは、異物混入など衛生管理が大変厳しく、インクが詰まったり、漏れたりする可能性のあるインクジェットプリンターを製造現場で使うことができないためです。インクレスのIDPであれば、製造ラインでリアルタイムに印刷でき、パッケージの在庫を減らすことができます。
また、カフェのタンブラーに店舗で印字するソリューションも検討しています。パーソナライズな情報、例えば、来店客の似顔絵や名前を印字するなどのサービスが提供できます。クーポンやキャンペーン情報を印字することも可能になります。自動認識ソリューションと新印刷技術を組み合わせることで、消費財に新たな価値を持たせることができるわけです。消費者の購買意欲を高め、店舗やブランドの収益に貢献できる、三方よしの関係になります。
──IDPソリューション事業が黒字化する時期はいつでしょうか。
19年に商用化し、20年にイーブンにもっていく計画です。とはいえ、開発途上ですので、開発が遅れればイーブンになる時期はずれてしまいますが。まずはしっかり必要な投資を行い、技術を確立させることに集中します。18年度、19年度は十数億円くらいの赤字になると思います。
[次のページ]上位システム連携でパートナー拡大