大胆な構造改革 M&Aで高収益企業へ
――ビッシュさんご自身についても、お聞きしたいのですが。Kofaxのトップに就く前は、どのようなキャリアだったのでしょう。
経営コンサルティングのプライス・ウォーターハウス(現PwC)監査部門で働き始めたのがキャリアのスタートです。米国公認会計士の資格を取得してからは、いくつかの会社の共同創業者や役員を務めました。データ入力ソフト開発のユニベースシステムズのCEOに声をかけていただいたのですが、財務的に厳しい状態が続きましたので、有志とともに独立。OCRソフトなどデータ入力管理ソフトを手掛けるキャプティバ・ソフトウェアを創業して、年商1億ドル(約110億円)まで大きくし、2005年にEMC(現Dell EMC)に売却することができました。
――会社経営や起業へのこだわりは、すさまじいものがありますね。
いや、まぁ、楽しいことばかりではありませんよ。キャプティバを興したときは、自己資金でやっていましたので、2年くらい自分の給料はありませんでした。ある日、クレジットカード会社のアメリカン・エキスプレスから電話がきて、「あなたは貸付金額の上限に達しましたので、これ以上は無理です」と言われてショックでした。当時、10万ドル(約1100万円)くらい借りていましたからね。他のカード会社からも似たようなことを言われましたが、それでも自分のビジネスは絶対に成功するとの信念は揺るぎませんでした。
――その後、Kofaxから声がかかったと。
そうです。2007年にKofaxのCEOに就いたのですが、当時はハードウェア事業が売り上げの半分くらいを占めていました。ハード販売は粗利が限られますので、そのところは切り出して売却。当然、売り上げは半減してしまうのですが、その代わりにKapowをはじめいくつかの潜在力のあるソフト会社のM&A(企業の合併・買収)を手掛けたことで、再び年商規模を戻しました。直近の年商は3億6300万ドル(約400億円)、営業利益に近い値のEBITDAは売上高比で31%を稼ぐまでになっています。
――この先をどのように見ていますか。
企業活動にとって情報をインプットして、分析し、結果をアウトプットする業務プロセスはますます重要になってきます。顧客からは電話やFAX、電子メール、SNSといったさまざまなチャネルを通じて情報が集まります。これを正しく分析し、顧客の求めている価値を素早く提供できるかどうかが競争力につながる。
実のところ、これらのプロセスを自動化するRPA単体のツール市場そのものは、早晩飽和し、伸び代はあまりないと考えています。そうではなくて、プロセス管理や分析のスピードと精度を高めるプラットフォームビジネスこそ大きく伸びる。もっとスピーディーに、もっと大きな価値を顧客に届けられるよう、企業組織全体の業務プロセスを革新。こうした分野を主軸に、事業を伸ばしていきます。
Favorite Goods
「世界中を飛び回り、寝ているとき以外は働いている」というビッシュ氏のお気に入りグッズは「写真立て」。厳密にはスマートフォンなのだが、ビジネスで使う以外は、「かわいい娘たちの写真立て」として活用している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
成功すること以外、考えるだけ時間の無駄
数々の企業を興し、成長させてきたレイノルズ・C・ビッシュ氏。自ら立ち上げたキャプティバ・ソフトウェアの事業を軌道に乗せた2003年には、経営コンサルティング大手のアーンスト・アンド・ヤングから「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー」賞を贈られている。
事業を興すときに大切なのは、「自分の中に失敗という選択肢をつくらないことだ」とビッシュ氏。人は「成功させよう」と考える一方で、「失敗したらどうしよう」と思い悩みがち。その悩みが足かせとなって判断を鈍らせてしまう。
ベンチャー企業はもともと失うものなどないのだから、「成功以外、考える必要はない。迷っている時間すら惜しい。少しでも早く行動して経営のスピードを上げるべき」と説く。
Kofaxが推し進めているビジネスは、企業の業務プロセス全体の高速化だ。クルマに例えるなら、同社の業務プロセスフレームワークを車体、RPAをエンジンとして、巨大な企業でもスポーツカー並みの速度と俊敏性を実現するというもの。スピード経営の大切さは、ビッシュ氏が自ら経験してきたことだけあり、顧客への提案にも力が入る。
プロフィール
レイノルズ・C・ビッシュ
(Reynolds C. Bish)
米ペンシルバニア州ピッツバーグ生まれ。ペンシルバニア州立大学を卒業後、プライス・ウォーターハウス(現PwC)に入社。米国公認会計士の資格を取得。その後、複数の企業経営や創業に携わる。2005年に自身がオーナー兼CEOを務めていた入力管理ソフト開発のキャプティバ・ソフトウェアをEMC(現Dell EMC)に売却。07年に米Kofax最高経営責任者(CEO)に就任。
会社紹介
米Kofax(コファックス)は、米カリフォルニア州アーバインに本社を置くソフトウェア会社。OCRなど情報を取り込むキャプチャーソフトやRPAといったソフトを開発。昨年度(2017年12月期)の年商は3億6300万ドル(約400億円)、営業利益に近い値のEBITDAは1億1100万ドル(122億円)。主要株主は投資会社のThoma Bravo(トーマ・ブラボ)。