キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)の足立正親代表取締役社長は、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)取締役常務執行役員を兼務するポジションを最大限に生かすことで、グループの相乗効果を一段と高めていく。顧客企業のあらゆる業務にITが浸透する今、製品販売や受託ソフト開発だけでの収益増は期待できない。「キヤノンMJグループが持っている業種・業態のノウハウをグループで共有し、そこにグループ内外の選りすぐりのITソリューションを結集する」と、経営課題の解決につなげていく体制の一層の強靱化が成長につながると説く。
グループの“横の連携”を一段と推進する
――キヤノンITSの社長に就任して半年余り、とりわけ力を入れてきた点は何でしょうか。
キヤノンMJと、グループ傘下の当社の連携をより深めていくことです。キヤノンMJは、キヤノンの複合機やカメラを販売すると同時に、大口顧客へのソリューション営業でも実績を積んでいます。私自身、キヤノンMJで大手金融顧客の営業が長く、こうした顧客のSI案件でキヤノンITSと連携してきました。そして、キヤノンMJとキヤノンITSは、もっと密接に連携したほうが競争力を高められると感じていました。
――これまで、キヤノンMJグループは、中間持ち株会社をつくってITソリューション事業を集約したり、キヤノンITSに旧キヤノンソフトウェアを吸収合併させたりと、どちらかといえばITソリューション事業を集約させる方向でしたが、方針転換でしょうか。
グループにITソリューションが散在することのないよう、再編してきたのはご指摘の通りです。古くは2003年に旧住友金属システムソリューションズ、07年に旧アルゴ21をグループに迎え入れ、それぞれ出自の違う組織をまとめあげてきた経緯もありますからね。ライバルのSIerとの競争に勝っていくには、まずは一流のSIerとして強くなっていく必要があります。そのためにITソリューション事業の再編を繰り返してきました。
その一方で、キヤノンMJも優良顧客を多数抱えています。こちらはこちらで、顧客の経営課題の解決に日々取り組んでおり、顧客によってはキヤノンMJの担当者のほうが、顧客の業務をより熟知していることもあります。ただ、大掛かりなSI案件となるとキヤノンITSの協力がないと、どうしようもありません。
キヤノンITSが一連の再編を通じて、SIerとしての力をつけてきた今ならば、キヤノンMJとそれぞれの強みを生かした連携をより密にできる。キヤノンMJも、それなりにITを分かるよう努力してきましたし、キヤノンITSも大手SIerの一角を占めるまで成長してきた。それぞれ自立した企業体として協力し合うことで、キヤノンMJグループ全体としての価値が一段と高まります。
――具体的には、どのようなお考えですか。
分かりやすいのが、私自身がキヤノンMJの取締役として大手企業顧客を担当するエンタープライズビジネスユニット長を管掌し、このキヤノンITSの社長を兼務していることです。キヤノンMJとキヤノンITSの両方の顧客先へ営業に出向いています。顧客から見れば、キヤノンMJだろうが、キヤノンITSだろうが関係ないですからね。経営課題を解決して、売り上げや利益の増加に貢献してくれるベンダーが、良いベンダーです。
ITソリューションで年商3000億円を目指す
――キヤノンMJグループの事業セグメントである「エンタープライズビジネスユニット」を統括する立場でもあるとのことですが、どのような数値目標をお持ちですか。以前、ITソリューション事業で3000億円規模を目指すという話を聞きました。
「ITS3000」構想ですね。もちろん今もその目標に向かって着々と前進しています。キヤノンMJグループの今年度(18年12月期)のITソリューション事業の売り上げは約2000億円を見込んでいます。これをできるだけ早いタイミングで3000億円規模に伸ばしていきます。他のSIerが成長を続けるなか、ITソリューション事業でこのくらいの規模がないと大手SIerの一角を占めるとは言い難いですからね。
――どのようにして伸ばしていくお考えですか。
ITソリューション事業を伸ばすに当たってカギを握るのが、同事業の中核を担っているキヤノンITSです。当社が「ITS3000」の目標に向かっての推進役を果たしていくためには、顧客企業の課題を的確かつ、迅速に解決していく強い商材をより増やしていくことが欠かせません。
例えば、製造業顧客向けに生産管理システムだけを売っていては課題解決は限定的です。それに関連する需要予測システムや生産スケジューラー、財務会計、ワークフローなど自社製、他社製をうまく組み合わせて総合的に解決する。
この例で言えば、生産管理は当社が一部出資している東洋ビジネスエンジニアリングの「mcframe(エムシーフレーム)」、需要予測は当社製の「FOREMAST(フォーマスト)」、生産スケジューラーはアスプローバの「Asprova」、財務会計は当社グループ会社のスーパーストリームの「SuperStream」、超高速開発やワークフローは当社製の「Web Performer(ウェブパフォーマー)」といった具合で組み合わせていきます。
当社では各業種ごとに最適な商材を組み合わせることで、SIビジネスのスピードアップ、収益力の増強に注力しています。従来型の人月単価を見積もってのビジネスだけでは、満足のいく成長速度には到達できないと考えています。
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