日本市場に進出してから実質1年半でユーザー数を6社から600社余りへと急成長させたRPAベンダーのUiPath。販売や開発を担うビジネスパートナーも100社を超えた。UiPathは日本のホワイトカラーの生産性が向上しない原因を徹底的に分析して、「業務のラストワンマイル」に課題があることを突き止める。多様化する顧客接点や販売チャネルと既存の業務システムをつなぐラストワンマイルを人手に依存しているケースが多いからだ。この課題を解決する提案を、日本のユーザー企業やビジネスパートナーに行ったことが急成長につながった。
多くの海外RPAは日本に合わない
――わずか1年余りで販売パートナーを大幅に増やし、納入社数も急増していると聞きます。競争が激しい業務自動化ソフトのRPA製品の中で、ここまで伸ばせることができた要因は何ですか。
まず、日本市場のニーズに応えられる製品を開発してきたことがユーザー企業や販売パートナーから評価されました。RPAのルーツをたどると、最初はビジネスプロセス・アウトソーシング(BPO)の効率を高めるためのソフトウェアツールでした。ユーザー企業の業務を請け負うBPOは、反復作業、単純作業の要素が多く含まれます。
インドにはBPOを得意とするベンダーが数多く存在しますので、主に欧米からのBPO案件を受注し、RPAツールを駆使して生産性を高めています。
でも、日本市場にこのタイプのRPAは合わない。日本企業の特徴といえば、「丁寧でミスのない業務」と「顧客に対してより良いサービスを提供しようという意識の高さ」です。デジタル時代になって、エンドユーザーとの接点が劇的に増えましたよね。メールやチャット、ソーシャルメディアなどさまざまな顧客チャネルと業務を結びつけて、企業はサービスや商品を販売しています。実はここに大きな落とし穴があるのです。
――具体的にはどのような“落とし穴”でしょうか。
多様化し、常に変化し続ける顧客チャネルは、既存の業務システムとつなぎ込む部分に無理が出やすくなる。日本の業務現場は意識が高いので、たとえそれが手作業になるとしても、残業をすることになったとしても、がんばってこなそうとする。そうすると生産性はどんどん落ちてしまいます。OECD主要国の中で、ただでさえ低いとされる日本のホワイトカラーの生産性を、さらに低下させてしまうことになりかねない。
――デジタル化で多様化する顧客チャネルに素早く適応していくために、ツールとしてRPAは有効だということでしょうか。
私は、それを通信業で言うところのラストワンマイルになぞらえて、業務のラストワンマイルと呼んでいます。さまざまな顧客チャネルから入ってくる情報は、最終的には既存の業務システムに入力します。その入力するまでの最後の工程が、往々にして“人手”に依存してしまっている。
日本など成熟した国の製造業は、かつての少品種多量生産から多品種少量生産へと変化してきました。デジタル化によって流通サービスや金融、小売りなどあらゆる業種でも同じことが起こっています。UiPathでは、この課題を解決するツールとしてRPAを位置付け、意欲的に開発を進めているのです。
製品開発の40%が日本からの要求に
――先ほど、RPAはもともと反復作業、単純作業が多い大規模BPOからスタートしたとのお話がありましたが、それを日本のような成熟した国で課題となっているホワイトカラーの生産性向上や、業務のラストワンマイルの解決に向けてRPAに作り変えたということですか。
そうです。直近1年間における製品開発投資の実に40%は日本からの要求に基づいたものでした。日本の業務に対するこだわりや品質要求の高さに応えられれば、他の国の同様の課題も解決できると考えたからです。
――先日、あるRPAベンダーの方と話をしたとき、RPAは企業の業務システム全体を最適化する一環で導入すべきという意見を聞きました。長谷川さんのお話は、割と業務の現場寄りの印象を受けます。
全体最適か個別最適かの二元論ではなく、私は両者の調和がカギを握ると捉えています。全体最適を推し進めても、現場で使い物にならなければ、業務のラストワンマイルの課題を解決できません。逆に現場の業務担当者は、会社全体のこと、他部門のことまでは見えませんので、「もし、全体が見えていれば、もっと効率化する方法が別にあった」なんてこともあり得るわけです。
――長谷川さんは、ドイツ銀行の日本グループCIOを務めた後に、バークレイズ銀行のアジアパシフィックCIOも務めるなど大規模なユーザー企業のCIOのご経験が長いですね。全体最適と個別最適の調和は、そうしたご経験に基づくものでしょうか。
CIOの仕事は、かれこれ20年近くやってきました。そういう意味では、ユーザー企業の目線から業務システムを見てきました。企業で使う業務システムは、その企業の経営戦略に基づいて作りますよね。私もそうでした。つまり全体最適の見地からシステムを設計していきます。
すると、年に1回しか使わない機能をシステムに実装するのは、限られた予算の中で後回しになりますし、要件が固まっていない流動的な業務をシステム化するのはリスクが大きい。業務が変わって作り直しをすることになると、またお金がかかりますからね。そうして出来上がったシステムは、全体的に見て完成度は高くても、個々の業務担当者からすれば、割と不完全なものであったりするわけです。せっかくシステム化したのに、手作業で入力する割合が多かったりするのは、企業システムの宿命みたいなものです。
もちろん、システムは常に見直しをかけていきますので、予算の範囲内で徐々に完成度を高めていきますが、企業が業容拡大を続ける以上、うまくシステム化できない部分は常に一定量はあります。最後に残った個別最適の部分をRPAでカバーすれば、現場の業務担当者の生産性は大きく向上するのです。
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