2015年6月の田中達也社長就任以降、富士通の構造改革は一見順調に進んでいるように見えた。しかし18年は、それが一筋縄ではいかない高いハードルであることが改めて浮き彫りになった感がある。田中社長は、18年10月の18年度上期決算説明会で、これまで掲げてきた在任期間中の「営業利益率10%以上、海外売上比率50%以上」という目標を撤回し、テクノロジーソリューション事業に限定して営業利益率を22年までに10%に乗せるという新たな目標を掲げた。さらなる激動が続きそうな富士通という巨艦をどう舵取りしていくのか。
マイクロソフトとの蜜月
――この時期に毎年インタビューさせていただいていますから、お気に入りのツール(本欄囲み記事参照)を毎回選んでいただくのも大変だと思っていましたが(笑)、今年は米マイクロソフトのナデラCEOからのバースデープレゼントをご紹介いただいて、少し驚きました。
シアトルにクラフトがあって、そこでつくられているもののようですね。ブループラネットのペーパーウェイトですが、綺麗でしょう。富士通はSDGs(2015年に国連総会で採択された「持続可能な開発目標」)に賛同していますし、マイクロソフトもそれは同じ。ナデラCEOとはダボス会議でもご一緒しました。思いを同じにしていることの象徴としていただいたもので、嬉しかったですね。
――マイクロソフトとの蜜月ぶりがうかがえるエピソードですね。
実際、富士通の社内システムでもコミュニケーション基盤をはじめとしてマイクロソフト製品を使っていますし、ITビジネスの観点でも、お互いに補完関係の下に密接に協業しているのは確かです。
――17年末にはAIの領域で戦略的な協業を進めていくという発表もありました。先日リリースされた「Zinrai for 365 Dashboard」などは、AIの協業とマイクロソフト製品を活用した社内実践の両方の成果物という感じでしょうか。
マイクロソフトとグローバルパートナーとして協業し、働き方改革を推進してきたわけですが、Zinraiも富士通が1社単独で市場に提供していくという時期は終わっています。会社同士の方向性や理念が合致し、技術やサービスが補完的であれば他社と積極的にパートナーシップを組んでビジネスを広げていくべきタイミングになっているということです。
――昨年は、富士通のクラウドサービスのブランドを統合して「FUJITSU Cloud Service」として刷新しました。ここでも、水平分業的なスタンスへのシフトが表れているような気がします。1年前のインタビューでは、クラウドのプラットフォーマーになることを諦めてはいないとおっしゃっていましたが、FUJITSU Cloud Serviceはクラウドプラットフォーマーが提供するサービスというより、マルチクラウド対応が求められるSIerのサービスメニューという印象です。
クラウド市場では、プラットフォーマーと言われる米国のメガクラウドベンダーが投資規模も非常に大きく、明確なビジネスモデルの下、強さを発揮しています。当初富士通がK5などで自社開発商品をやろうと思ったのは、グローバルの前線のメンバーにヒアリングした結果、パブリッククラウドで彼らに勝つのは難しいが、プライベートクラウドやハイブリッドクラウドでは分があると考えたからなんです。しかし、この数年でメガクラウドのサービスはさらに充実してきて、ベアメタルでVMWare環境を用意したり、従来のプライベートクラウドのニーズも含めて彼らの基盤に置き換わっていく流れになっている。そこは現実を受け入れて、競合するよりもむしろ手を組むことで、上流、アプリケーションで勝負したほうがいいだろうという判断です。
海外ビジネスのテコ入れではM&Aも
――15年から掲げてこられた海外売上高に関する数値目標を撤回されました。サービスに対してプロダクトの比率が高かったために収益性を高められなかったというお話でしたが、どう立て直しますか。
海外リージョンのメンバーと事業部門が一体となってお客様のニーズを捉え、提供するソリューションの価値を考えていく体制が弱かったという反省があります。利益というのはお客様に価値をきちんと提供することで得られるものです。原点に帰って、ここをお客様視点で再構築しなければなりません。また、サービスを柱にするには、やはり人材が重要です。人材のシフトや育成のステップを踏むには時間もかかります。ここは甘く見ない、ということで目標を見直したということです。
――海外リージョンでサービスのためのリソースを確保するには、M&Aという選択肢もありますよね。NTTデータなどは海外M&Aにも積極的です。
富士通は基本的にはオーガニックな成長を図る方針を取っていますが、M&Aという手法も否定はしません。
――具体的にはどんなケースが考えられるでしょうか。
例えばSAPの人材に強みをもつ海外のSIerなどは可能性があるかもしれません。25年問題もありますし、富士通としてもこのビジネスチャンスをしっかり捉えたいと思っています。グループ内でもそこに向けての人材のシフトを始めますが、M&Aでそうした人材を確保できれば、ビジネスチャンスはさらに広がると考えています。当社にとっては、リスクも少ないですしね。
――18年11月にはAI事業の統括会社「FUJITSU Intelligence Technology」をバンクーバーに設立されました。
これまでの反省として、富士通は特に事業部門のビジネスで日本市場の比重が大き過ぎるんです。結果、日本で日本市場向けにつくったものを海外で売ろうとしてうまくいかないということが多々ありました。そうではなく、事業部門が自ら海外に出て、グローバルに通用する商品開発をやっていくための第一弾の取り組みがFUJITSU Intelligence Technologyなんです。ここが主体となって、北米でAI領域のM&Aやスタートアップとの協業などによる新たなエコシステム構築をやっていくことになるでしょう。AIだけでなく、IoT、セキュリティーなども今後世界的な人材獲得競争になっていきますし、日本の外に司令塔を置くことも必要なんです。
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